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今にしてみれば、あれが青春というやつだったんだと思う。
甘くて、暑くて。ほんの少しだけドキドキして。取り留めもないほどに日常の一幕で……それでも忘れることなどできない大切な思い出だ。
セミの鳴き声が降ってくる。
気が滅入るほどの暑さに生ぬるい息を吐き出し、冷たい氷菓を嗜む。いつも通りの帰り道でも、一つだけ違うのは隣に彼女がいること。
歩調は少しだけ緩やかにして逸りそうになる心臓をひた隠す。
学生時代の青い思い出。たまたま、気になっていたクラスメイトと委員会で一緒になった帰り道。
お前も帰りこっちだったんだな、なんて嘘を付いた。本当はずっと前から知っていた。時々先を行く制服の後ろ姿を目で追ったりもしていた。
声をかける勇気なんかなくて、女友達と笑う横顔を眺めては振り返らないかなんて女々しい思いをしていた。
汗が流れる。青々とした街路樹の隙間から除く夏の太陽が眩しい。
ふとした拍子に手と手が触れ合う。一瞬の戸惑いの後、どちらからともなく指先が絡まり合い。なんて、そんなことあるわけない。
青臭い学生だった俺にそんなこと出来る度胸なんてあるはずもなかった。
特に何を話していいかもわからず、ただなんとなく「暑いな」と、口々に言い合っただけ。
それでも、帰り道の途中にあったコンビニでアイスでも買わないかと声を掛けたのは、あの頃の俺にしてはかなり良かったんじゃないかと今でも自画自賛できる。
もちろん。照り返しのあるアスファルトの道路から、クーラーの聞いたコンビニの中へ入り。そしてまた茹だるような空気の中に帰るのは苦行でもあったが。
風が吹いて街路樹がガサガサ音を立てた。揺れる木陰が二人を隔てている。
安い棒付きのソーダ味のアイスをちびちびと勿体ぶって食べる。
いつもの時間よりも少しだけ遅く、でもクラブ活動が終わるよりは少し早い中途半端な時間。通学路には俺たちしかいない。
コンビニに誘うのにもかなりの勇気を要したのに、これ以上のことなんて何にもなかった。
それでもどこか期待してしまう自分がいた。
彼女はまるで小さな子供のように無邪気に笑った。セミの声がうるさい。汗で張り付いた紙が鬱陶しい。でも、そんなこと気にならないくらいに眩しくて。
多分、恋だった。
溶けてこぼれそうになったアイスを慌てて齧る。
二人で並んで歩く帰り道は甘くて、暑くて。ほんの少しだけドキドキして。見慣れた道だというのに、どうしようもないくらいキラキラと輝いて見えて。
食べ慣れたはずのソーダ味のアイスが、いつもよりも甘く感じた。