43② ー今後ー
封印が解かれたことによって、ヴァルラムは呼び寄せられたが、魔獣たちが呼び寄せられることはなかった。
それは、一度失敗した魔法使いの後を継いだ者たちが魔法陣の改良をしたためだ。それが使われることはなかったが、ヴァルラムを呼ぶ際に元々弱まっていた封印が壊れてしまい、森に封じられていた魔獣たちが解放された。
「その魔獣ですが、魔獣と言って良いのか……。その森に住む獣、小動物からなんでもらしいんですが、凶暴化し、人を襲っているそうです。ノエルが言うには、体を持たない魔獣たちの魂が動物たちに入り込んだせいではないかと」
そのため、凶暴化して数も多いが、魔獣が大量に野放しにされたわけではないそうだ。
ホッとしたが、しかし、魔法を使い戦う魔獣も混ざっており、動物でありながら魔法の攻撃をする動物も多く、町は大騒ぎになり、多くの人たちが別の町に避難している。
魔獣も別の生物に依ることができるのだ。
封印が解かれヴァルラムが魔法陣によって引き寄せられなければ、ヴァルラムもあの地で魂のまま自由になっていたのだろう。
「オリシス国の騎士たちが出ており、逃げた魔獣を追っているそうですが、数が分からないため駆除には時間が掛かるそうです。それで」
クラウディオは言い淀む。言いにくそうにして一度口を閉じたが、大きな息を吐き、フィオナを見遣った。
「ご家族ですが、」
フィオナはびくりとした。フィオナの家族は、あの石碑のある封印の地から一番近くに住んでいる。封印が解けた時、夜も遅く、皆眠っていただろう。フィオナが外に出た時、屋敷は真っ暗だった。
「あなたの家族は、封印を守ることを怠ったため、追放されたそうです」
「追放、ですか?」
「無事ではあるそうですが。いえ、現状はどうなっているか分からないそうです。怪我をした状態だったそうですが、領主や町の人々から原因を追及されて、追い出されたとか。ですので、行方が分かりません」
封印を軽く見た家族。祖父があれだけ何度も封印の大切さを説いたのに、見向きもしなかった。封印を守る方法を知っているフィオナが死に、家族たちはなにが起きたかも分からなかっただろう。
領主もフィオナが継げば良いと思っていたくらいだ。まさかそのフィオナが早く命を落とすなど考えていなかった。
「セレスティーヌが封印を解いたせいで、あなたも、あなたの家族も、影響を……。その、ですから、オリシス国まで、確かめに行かれますか? かなり、長旅になると思いますが」
クラウディオはなぜか苦しそうな顔をして、一つ一つ言葉を発する。
オリシス国に行くまでどれほど時間が掛かるのだろう。フィオナは馬には乗れないので、馬車で何日、何ヶ月。
そこまで行って、両親や妹を探す。探して、自分がフィオナだと言って、彼らは果たして信じるのだろうか。
「いえ、それよりも、封印を再度行わなくて良いのでしょうか? 私は封印の方法を知っています。どれほど多くの魔獣の魂が放たれたのか分かりませんが、あの森全体の封印を作り直すことはできると思います。セレスティーヌは、私と違って魔力が多いので」
フィオナには無理でも、セレスティーヌの体であれば行える。ブルイエ家の長女として、再度封印を行うことは義務だろう。
しかし、クラウディオは強張らせていた表情を、ホッと息を吐いて緩めた。
「魔獣はオリシス国の騎士たちで問題なさそうです。国境を越えるならばナーリア国が動くと。魔法を使う種類がいるのは確かですが、巨体を持つ魔獣とは違い、ウサギや狼などそこまで大きな体の動物ではないのと、魔法を使うことは分かっているので、対処できるそうです」
「そうですか。それなら良いですが」
家族のことはなんとも思っていない。彼らは自業自得だし、そこまで気にするような関係ではなかった。フィオナと家族の関係はとても希薄だ。
「気になるのは、孤児院の子供たちで。あの子たちが無事かどうか、ちゃんと元気で生活できているのか、それは、すごく心配で」
「孤児院ですか。すぐに調べさせましょう。城や町の外に避難しているとは聞いていますが」
クラウディオはすぐにモーリスを呼び、伝言を頼む。ノエルに話が行くのか、すぐに手配すると約束してくれる。
無事であることを祈るしかない。
「あと、なにか気になることとかは?」
それはもちろん、たくさんある。フィオナはアロイスをなでながら、ぐっと決意したように顔を上げた。
「あの、これからのことですけれど。お金はなんとか働いてお返ししますので、事業を続けさせてくれませんか? 離婚とか、別居とか、することになるでしょうし、それでこんなお願いをするのは失礼とは思いますが。お金を返すにも何年も掛かるでしょうけれど、」
「りこ、べっ、……っ!?」
「私がセレスティーヌとして生きていくわけにはいきませんから、ここに住み続けるわけにはいきませ……」
最後まで言う前に、クラウディオはいきなり立ち上がると、フィオナの前でひざまずいた。




