39② ー侵入ー
「はあー。リディ、お疲れ様でした」
フィオナは先に乗っていたリディに声を掛けた。リディは頷き、持っていた布の包みを差し出す。
「旦那様、こちらが使えるか分かりませんが、帳簿と招待状。それから、魔獣のリストになります」
「よく、見付かりましたね」
リディから受け取った書類を広げて、クラウディオは感嘆しつつもどうやって手に入れたのか不思議そうな顔をした。
フィオナもよくあの短時間で見付けられたと、今さらながら無謀な計画だったことに脱力しそうになる。
「場所は分かっていたので、あとは開け方だったんですけれど、一人で二ヶ所行くには時間がなかったので、リディと手分けをしました」
「奥様はご両親の寝室へ。私は執務室に入っていました」
「————よく、気付かれずに」
クラウディオも呆れ顔だ。なにをやるのか言っていなかったので、面食らった顔をしている。証拠を得に寝室や執務室で家探しするとは思わなかったようだ。
フィオナももう無理だと諦めそうになった。しかし、アロイスが足でヘッドボードのくぼみに指を突っ込んでいると、ぽろりと、ボタンが取れた。そこにスイッチがあり、その近くの彫刻に刻みを見付け、スイッチを押しながら側面の彫刻を抜くと、横にスライドできる箱が出てきたのだ。その箱を全て出すと勝手に箱の扉が開く。
そうして、その中に隠した招待状や魔獣のリストを見付けた。
リディは執務室で裏帳簿を奪ってきた。こちらはリディが知っていた隠し場所である。
掃除の時に偶然見付けた、机の下に隠された秘密の引き出し。そこから取り出した帳簿を手に、フィオナの元に来て、フィオナが探した証拠を持って、先に馬車に戻っていた。
「成功してよかったです。旦那様が両親の相手をしてくださったおかげです」
クラウディオは大したことではないと謙遜しながら手にした証拠を広げていると、眉をぴくりと上げた。
「パーティの招待状もありますね。魔獣の売買か?」
クラウディオは大きく頷く。役に立つ証拠のようだ。
「このパーティは魔獣の競売を行う場所かもしれません。一度潜入してみる必要があるでしょう。こちらの帳簿は申し分ないです。魔獣を売った際の利益らしきものも載っています。お手柄でしたね」
「これで、罪をつまびらかにできればいいんですが」
(セレスティーヌのためにも)
フィオナの言葉に、大丈夫だとクラウディオは大きく頷いた。
クラウディオは目元だけを隠した仮面を被り、顔を隠していた。
そこまで派手ではなく、むしろ地味なただの黒の仮面なのだが、やけに格好良く見えるのはなぜなのか。
(うう、まぶしいっ。目元を隠しても顔の形がいいから、逆に目立つんじゃないの??)
「セレスティーヌ、大丈夫ですか?」
小声で耳元で囁かれて、瞬発力を発揮してジャンプしそうになる。思った以上に威力があるのは、自分の気持ちに気付いたからだろうか。
「だ、大丈夫です。さ、行きましょう。ささっと証拠が出ればいいんですが」
両親の寝室から奪った招待状を持って、フィオナとクラウディオはパーティに来ていた。顔を隠した仮面舞踏会という名の、闇競売が行われている。
クラウディオはどこから情報を得ているのか、魔獣を出す競売について噂を耳にしており、近々それが行われることも知っていた。おそらくこのパーティの招待状がそうであろうと、二人やってきたのである。
招待状が二枚あったことから、いつも両親は二人で参加しているのだ。
(交配した魔獣をいくらで買われるのか確認してたのかしら)
男女で参加した方が良いため、クラウディオと二人でやってきたが、さすがに緊張する。
パーティ会場は父親が開催しているわけではなく、他の貴族の屋敷で行われている。クラウディオはフィオナをエスコートしながら、周囲を注意深く確認していた。
広間では飲み物片手に雑談したり、他の部屋ではカードゲームをしていたり、かなり自由なパーティで、顔が見えない分好き勝手やっている雰囲気があった。賭け事もしているか、大きな声で勝ったの負けたの騒ぐ声が聞こえる。
(なんの匂いかしら。甘い匂いもするわね。煙っぽいし)
「セレスティーヌ。これは飲まないように、持っているだけで」
「あ、分かりました」
差し出された飲み物はお酒のようだったが、飲まないように注意を受ける。カモフラージュのためにグラスを持って楽しんでいる雰囲気を演出するようだ。潜入捜査なんて慣れていなさそうなのに、芸が細かい。
すでに酔っ払っている者もいて、たまに部屋の隅で転がっているのを見掛けた。無法地帯のようだ。
地下へも行き来している人が見受けられて、フィオナはクラウディオと顔を見合わせた。
地下になにがあるのか。階段を降りるのに登って来る者たちとすれ違っても特に気にされない。
降りた先、廊下を進むと広い部屋にたどり着き、そこからワッと驚く声が聞こえた。
「他にご希望の方はいらっしゃいませんか。こちら、羽の仮面の方に決まりました」
舞台に出された品物が舞台袖に運ばれていく。宝石を競売していたのか、すごい金額だったと聴衆が興奮した声を出していた。
「旦那様」
「し。少し様子を見ましょう」
なんの品物でもいいのか、宝飾品であったり、絵画であったり、物はバラバラだ。
魔法の書であったり、植木なども出てくる。
(今の植物、毒薬が作れる種類じゃなかった? 魔法の書も禁書でしょう??)
隣でクラウディオが眉を顰めてじっとしている。怒っているのか、腕を組んだまま腕の上で指を上下させていた。
「さて、お待たせしました。本日のメイン、魔獣の卵です!!」
運ばれてきた大きな灰色の卵に、聴衆が興奮の声を上げた。魔獣の交配した種類や、どんな特徴があるのか説明があった後競売が始まると、皆が競って値段を口にする。
高額な金額だ。フィオナはその金額に耳を疑いそうになった。
「はい、ではこれ以上いらっしゃらないですか? では、そちらの方に決定です!!」
購入したのは小太りで身長の低い男性だ。もちろん顔は見えないので、どんな人なのかは分からない。クラウディオはその男をじっと見つめて、嬉々として会場を出ていく姿を見つめた。
「セレスティーヌ。外に出て待っていてください。いえ、馬車で会いましょう」
「分かりました」
なにをする気なのか。フィオナはクラウディオの言葉通り部屋を出て階上へと歩く。
クラウディオはおそらく今の男を追ったのだろう。別の部屋へ移動したので、卵を受け取るのだろうが、その場を取り押さえても多勢に無勢。いくら魔法師のクラウディオでも無理がある。
(大丈夫かしら。騒ぎを起こすとは思わないけど)
小太りの男は女性と一緒で、特に付き添っていた騎士などはいなかった。
どうするのだろう。しばらく馬車の前でうろうろと待っていると、クラウディオが走ってやってくる。
「セレスティーヌ、乗ってください!」
卵を強奪してきたわけではなさそうなので安堵するが、クラウディオは馬車に乗り込むと、御者に命令をする。
「あの馬車を追え。あまり近付くなよ。前が止まったらすぐに馬車を止めろ」
「なにを、する気なんですか?」
「危険な真似はしません」
その答え方は、むしろどうにも穏やかに終わらせる気がないような気がした。




