表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです  作者: MIRICO


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/103

38① ー思惑ー

 エルネストが父親を殺したとしても、屋敷での協力者が密告しない限り、真実は表に出ない。


(想像でしかないし、どうにもできないけど)


 だが、これで、エルネストはクラウディオと同じ、公爵になる。

 着々とエルネストの望みに近付いているのだろうか。

 父親の死亡理由はともかく、もう煩わしい父親がいないのだから、その言葉なんて忘れてしまえばいいと思うが、エルネストの気持ちが分かるわけではない。第三者からの一方的な考え方は、エルネストの考えと同じにはならないだろう。


(人の心なんて、その人でなければ分からないわ)


 ジョゼットも顔色が悪かったように思う。気丈に振る舞っていたが、彼女も心配で仕方がないだろう。

 憂鬱な気持ちになりながら、ため息をつく。馬車に揺られながら公爵邸に戻ると、屋敷が騒がしく感じた。メイドたちや騎士たちがフィオナに気付き忙しなく動く。


「早く帰ってきたので、驚いているんでしょうか」


 リディの問いに、フィオナは嫌な予感がした。

 馬車が止まる前にモーリスが焦ったように出てきて、フィオナを迎える。


「モーリス、クラウディオになにかあったの!?」

「奥様、旦那様は、」


 胸ぐらを掴み掛からんとフィオナが馬車から飛び出すと、モーリスはなにを言おうか迷うような顔をした。


「セレスティーヌ!」


 なにがあったのか。それをもう一度言おうとした時、その後ろから走ってくる人が見えた。


「……、クラウディオ!」

「セレス、」


 クラウディオが名を呼ぶ前に、フィオナはクラウディオに抱き付いていた。


 ぎゅっと抱きしめると、クラウディオが手をあたふたさせたが、しがみつかんばかりにきつく抱きしめていれば、そっと包むように背中をなでてくる。

 暖かな体温を感じて、フィオナの焦った心が急速に落ち着いてくるのが分かった。


(生きてる。クラウディオが生きてる!)


「せ、セレスティー……」

「行方不明って、なにがあったんですか!? なんで連絡をくれなかったんですか!! 無事なら無事と、どうして知らせをくれなかったんです!!」

「え、あ」

「ジョゼットも心配して、旦那様になにかあったらと、二人で、……」


 生きているならばすぐに連絡をくれればいいものを。先に戻ってきたことについて怒っているわけではないが、どうしてもっと早く無事を知らせてくれなかったのだと、フィオナは癇癪を起こした。


 頭の中が色々な感情でまぜこぜになって、自分でもなにを言っているのか分からない。

 言葉に詰まって、ぼろぼろと涙が流れてくるのを感じた。


「なにか、あったら、どうしようかと」

「セレスティーヌ」

「すみません。無事で良かったです。お怪我はないのですか」


 討伐で行方不明になったと聞いていたのに、全体重をかけて飛び付いてしまった。フィオナは急いで離れようと体を離そうとしたが、背中に触れる手がしっかりとフィオナを包んでいるのに気付いて、フィオナはクラウディオを見上げた。


 驚きの中に、どこか嬉しげな、穏やかな顔を見せて、クラウディオが涙に濡れたフィオナの頬をそっと拭う。


「すみません。ノエルたちと離れてしまい、単独で動いていたのですが、事件を解決してノエルたちと合流した後急いでこちらに戻ったので、連絡ができませんでした」


 ターコイズブルーの瞳が真っ直ぐにフィオナを見つめる。目尻を下げると、クラウディオはゆっくりとフィオナを抱きしめた。


「遅くなってすみません。心配を掛けました」


 暖かな体温がフィオナの心を溶かすようだった。

 不安だった日々が嘘のように、安堵が広がっていく。そう感じれば、フィオナは泣き出していた。


 ずっとクラウディオの帰りを待っていたのだ。

 無事であれと祈りながら、戻ってきたその顔を早く見たいのだと、封じていた心の奥底で願っていた。


 けれど、その心を、ずっと考えないようにしていた。

 リディに言われて、そうではないと思いたかった。


(私は、クラウディオが好きなんだわ)


 でも、フィオナはクラウディオの妻ではない。

 この思いは、ずっと心の奥底にしまっておかなければならない。

 フィオナは、セレスティーヌではないのだから。


 だから、涙が止まらなかった。






「すみません。あんなに泣くつもりでは」


 リディに氷をもらって目元を冷やして、お化粧もし直して服も着替えて、フィオナはやっとクラウディオと対面していた。


 セレスティーヌが着飾ってクラウディオに会おうとしていた気持ちが、今さらながら理解できた。ひどい顔をしてクラウディオに会うわけにはいかない。

 急いで終えたつもりだったが、クラウディオはお茶を飲み終えて、アロイスと一緒に絵本を読んでいた。

 アロイスもやっと帰ってきたクラウディオにべったりである。


「気にしないでください。連絡をすべきだったのですが、どうせ戻るのならば自分で戻った方が早いと帰ってきてしまったんです。他の者たちが帰るのはもう少し遅いでしょう。途中、休みも多く取っているでしょうから」


 クラウディオは急いで帰るためにほとんど眠らずに馬を走らせたそうだ。馬も途中で替えたほどで、夜通し駆けて戻ってきてくれた。


 早く戻りたいと、その気持ちがはやり、他の者たちを置いてきたと、恥ずかしそうに口にする。


 チラリとフィオナを見る視線に、どきりとした。早く会いたいと思っていたのは自分だけではなかった。

 そう思って、すぐに否定した。そんなことを考える立場ではない。


「一体、なにがあったんですか?」

「あなたには、つらい話になると思うのですが」


 その前置きに、フィオナはすぐに察した。そして、同時に怒りを感じた。

 セレスティーヌの父親のせいで、クラウディオたちが討伐に出たのか。


「構いません」


 クラウディオは頷くと、討伐でなにがあったのか、話せる部分を教えてくれた。


「今回、被害があった者たちの話から魔獣の数は数匹だとされていたんですが、思った以上の数でした」


 新種の魔獣。見たことのない形をしており、どんな特徴があってどんな攻撃をするのか分からない状態だった。

 ただ知能が高いことに気付き、警戒をしながら討伐を行なっていたところ、狭い道の斜面で落石が起きた。


「魔獣によって起こされた落石を避けている間に、魔獣が襲ってきました。その時は対処できたのですが、二匹だと思っていた魔獣がまだ他にもいて、後手になってしまい」


 クラウディオは魔獣の体当たりにあい、山の斜面を転げ落ちた。崖下に落ちる時、魔獣がクラウディオを捕らえようとしたのを逆手に、魔獣の足を手にして崖を降りようとした。

 だが、また別の魔獣が飛んできて、クラウディオは川へと転落したのだ。


「一匹は仕留めたんですが、自分は川に落ちてしまったので、仲間たちと離れることになり」


 結局クラウディオは一人で子爵家の屋敷へと進んだ。

 本当ならば討伐を行い、それから原因を突き止める予定だった。しかし他の者たちと離れてしまったため、先に子爵家に侵入していた部下と合流したのである。


 連絡が行えなかったのは当然だ。そのための人員がない。

 クラウディオはノエルたち討伐の者たちとは別行動をし、その真相を調査したのだ。


「滑落したという連絡だけがこちらに来ているとは思いませんでした。心配させてしまって」

「いえ、お仕事ですから、仕方ありません。無事に帰られてなによりです。では、デュパール公爵とも合流できなかったんですか?」

「ノエルたちと合流していましたが、私はそれも知らなかったので」


 それも当然だ。デュパール公爵もクラウディオがどこにいるか知らなかったのだから、連絡などできるはずがない。


「皆さんご無事なんですか?」

「怪我はありましたが、死亡者はいません。皆無事ですよ」

「そうですか」


 それならば良かった。今頃ジョゼットも喜んでいるだろう。いや、まだ帰ってきていないのだろうか。


「それで、事の真相なのですが」


 フィオナはクラウディオを見つめた。セレスティーヌの父親が何をしているのか。しっかり聞かなければならない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ