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目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです  作者: MIRICO


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34② ー討伐ー

「手っ取り早く目撃情報のあった地域に魔法陣でも作り、動けなくするのが楽な気もしますね」

「どれだけの魔法陣と人材が必要だと思っているんだ」


 ノエルは地図を見ながら言うが、子爵家の土地とはいえ山の中なためまったく現実的ではない。


「時間を掛けたくないんですよ。すべてを封じる力があれば楽なんですが」


 防御や一定の場所に結界を張ることは可能だが、それが大規模となれば相当な魔力が必要で、そのための魔法陣も考え出さなければならない。

 それに、その周囲に人や動物でもいれば巻き込むことは必至だ。


 魔法に対し厳格なくせに、そういう戯言を口にする。よほど早く王宮に帰りたいのだろう。


「魔獣だけでなく、動物も巻き込むつもりか? そこに人がいたらどうする気だ」

「例えばの話ですよ。絵本のように上手くいかないことくらい理解しています。……あれは腕が違う」


 ノエルは最後だけ小さく呟いた。

 絵本のように。アロイスが持っていた絵本のことだろう。

 若き天才が絵本の真似をしたがるとは思わなかった。


 案外子供のような考え方を持っているのかと勘違いしそうになる。ノエルは気になることがあれば行わないと気が済まない性格だ。場所があれば間違いなく試しているだろう。

 そんな場所、誰も提供しない。


 休憩は終えてさっさと移動しようと立ち上がると、ノエルが同じように立ち上がりながらも、ふとこちらを見遣った。


「絵本の話ですが、他国の資料で善と悪が逆になるものが見つかりました。まだ公開はされていませんが、古き大国の時代の新しい歴史が公になるでしょう」

「善と悪が逆になる?」


 セレスティーヌがやけに気にしていた、大国の歴史。絵本についても、善悪が逆なものはないかと聞いてきた。結局、それはなかったこととして終わったが。


「奥方は、前々からあのような性格でしたか?」


 突然問われて面食らう。なんの話をしたいのかと顔を上げると、ノエルがメガネの中でギラギラと光る鋭い瞳をこちらに向けていた。


「変わられましたよね?」


 それは間違いない。しかし、どうにも頷きたくなかった。確信を持った言葉に、不安がよぎる。


 セレスティーヌが変わったのは、アロイスが来たあたり。その前の朝食を共にするのをやめた頃だっただろうか。

 あまり顔を合わせる真似をしていなかったため、変わったと思ったのがいつだったのかあまり思い出せないが、朝食をやめると聞いて不可思議に思ったことは覚えていた。


(あの時も倒れたことがあったな。失礼な言い方をして罵って……)


 セレスティーヌが倒れたのに、妙な真似をしてと一方的に悪し様に罵ったのを思い出して、すっと血の気が引いた気がした。あの時のことを謝っていない。


「いつ頃からですか?」


 心の中で焦っていると、ノエルが突っかかるように質問を続けた。


「それを聞く意味はなんだ?」

「なにかあったのですか?」

「……なにも」

「おかしな薬でも飲んで倒れたりしましたか?」

「————なぜ、それを」


 それを口にしてハッとした。ノエルが光明を見出したかのように目を見開いたからだ。


「そうですか」

「それが、なんなんだ!?」


 ノエルはなんでもないと首を振るが、どうにも余計な反応をしてしまったとしか思えない。


(セレスティーヌが変わった理由? 薬を飲んで倒れたから?)


 倒れたからと言って性格が変わるわけがない。一体なんのことなのか。

 ノエルは知らぬ顔で馬にまたがる。これ以上話す気はないと口を噤んだ。ノエルはああなったら口を開くことはない。


「バラチア公爵! 先見隊から連絡があり、ここより先の山の中で、新種の魔獣らしき個体を二匹確認したと!」


 連絡に来た男は空を飛んでいた姿を確認したようだ。クラウディオはこちらを見ているノエルに顔を向ける。


「聞いたな。すぐに移動する」

「二匹ですか。やはり一つ所に留まらず、移動しているようですね」


 クラウディオは馬に跨ると号令をかけて魔法使いや騎士たちに移動を命じる。

 馬を走らせながら、クラウディオは唇を噛み締めた。

 今はこちらに集中しなければならない。そう思いながら、ノエルがなにを気にしているのかが気になった。


 変わったのは、急に倒れた頃からかもしれない。その後朝食を共にすることがなくなり、食堂で料理をし始めた。そういえば、いつから菓子作りが趣味になったかも分からない。元々好きだったのか、倒れた後好きになったのか。


(セレスティーヌのことを知っているようで、知らないな)


 ただ、一つ分かるのは、前のままの彼女であれば、愛することなどなかったということだ。





「うわっ!!」


 木々が生い茂った山道を登っていると、突然後方から悲鳴が聞こえ、馬がなにかに吹っ飛ばされた。しかし、その上に乗っていた騎士の姿が見えない。


「上だ!!」


 汚泥のような色をした不気味な魔獣。蝙蝠のような羽を持ち、猿のようでそれよりも大きな体で、重量のある騎士の背中を掴んだまま木々の隙間を飛んでいる。

 クラウディオが攻撃を仕掛けようした瞬間、魔獣は掴んでいた騎士をこちらにゴミのように投げ捨てて、闇に紛れて姿を隠す。


「注意しろ! 速さがある! 上空と周囲を確認!」


 命令を下しながら落とされた騎士を確認する。結構な高さから落とされたが、別の騎士にぶつかったので骨折は免れたようだ。巻き込まれた者たちと一緒に立ち上がる。

 魔獣は木の枝からつたって飛んできたのか、木々が大きく揺れていた。


 その時、再び木々の隙間から魔獣が飛び込んできた。後方にいた騎士が剣で対応するが、顔を引っ掻かれて悲鳴を上げる。魔法で弾けとばさんと魔法使いが構えるが、ごろごろと転がりながら揉み合うため狙いが定まらない。

 騎士に噛みつき、一瞬動きが止まったところで、ノエルが羽を鋭い風で攻撃した。


 けたたましい悲鳴を上げて魔獣は木の枝に掴まる。クラウディオはすぐさまそれに攻撃を繰り出した。片腕に当たり、勢いよく藪の中に落ちたが、魔獣は闇に紛れて離れていった。

 その声を聞いたか別の場所で梢を揺らして遠ざかる音が聞こえた。もう一匹は空に逃げたと思ったが、木に降りて様子をうかがっていたようだ。


「大丈夫か!!」


 噛みつかれた騎士は腕に深い傷を負って顔を歪めた。手首を噛まれたため血が多く流れており、急いで止血をする。顔にも鋭い爪痕が残り、傷が深い。目を引っ掻かれていたら失明していただろう。かなりの傷だ。


「体格の割に動きが速いですね。あの体の形だと、木々をつたって攻撃する方が得意なのかもしれません」

「猿と同じだと思った方がいい。飛ぶのには時間が掛かるようだ。後方を狙ってくるあたり、狩りに慣れている」

「動物を食すつもりなく狩るだけありますね。襲うことを目的としているのならば、早めにこの山を抜けた方が良いですが」


 子爵家の土地はこの山の先にある。朝が来るのはまだずっと先だ。動かず待機した方が良いかもしれない。

 ただ、今いる場所は傾斜があり、場所によっては崖になっている。戦いには不向きな場所だ。だからこそこの場所で狙ってきたのだろう。このままここにいて、再び攻撃を受け、山を転がる羽目になったら困る。


「移動した方がよさそうですね」

「仕方がない。注意しながら移動しよう」


 そう命令を出そうとした時、ころころと小石が転がってくる音が聞こえた。

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