34① ー討伐ー
休憩を挟みながら馬を走らせ村に泊まり、時には野宿をして、進んでいく。
少しずつ寒い地方に近付くと、顔に当たる風が冷たく感じ、体が冷えていくのが分かった。山を登っているのでなおさら寒気を感じる。
もうすでに夕暮れで、食事を終えた頃には暗くなっているだろう。寒さも増すはずだ。
硬いパンとスープだけの食事を終えて、クラウディオは人心地付く。
(遠征は久し振りだから、さすがに長く感じるな)
セレスティーヌは今頃なにをしているだろうか。また体調を崩し倒れていないだろうか。
今どこにいるのかを手紙に記し、セレスティーヌに届くよう配達人に渡す。
「もう少し走れば現地に到着しますが、先に子爵家の土地に潜入している者からの連絡がありましたので、こちらを」
木を背もたれにして座り込んでいると、ノエルが資料を渡してきた。
個体は闇夜に紛れては家畜を殺し、食べることなくその数を減らしていることから、殺すことを目的とした、魔獣では珍しい行為を行なっている。
人々はこれが人間にも行われていると、日々恐々としているそうだ。
魔獣の特徴は大きな爪と翼。従来の魔獣のように鳥形態で飛ぶのではなく、猿のような人間に近い体型で羽が生えていた。
出没地点から鑑みると、数頭は存在していそうだ。羽があるため行動範囲も広いのか、被害のあった場所が何箇所か離れている。
「子爵家には被害はないそうですが、村の人間が水辺に引き摺られて戻らなかったり、森の中で襲われたりと、現れる場所も定まらず襲われています。数頭いることを考えても、出没場所はまだらなので、住処をつくる種類ではなさそうですね」
「羽があるのに水辺に引き込むとは、かつてない生体だな。村には現れやすいのだろう? 狙うならそこしかないようか?」
「一頭でもいれば、というところでしょう」
一頭でも見付けられればどんな種類か確認できる。まずは罠を仕掛け、その間森の中を捜索するしかなさそうだ。
遠征で馬に乗ってばかりなのに、ノエルは睡眠不足が解消されたのかいつもより顔色がいい。普段は研究所にいて眠らず研究を続けることが多いため、遠征に来た方が睡眠をとれるのだろう。
(不健康な奴だな)
もっとも、ノエルは研究所に住んでいるようなもので、昔から顔色は悪く、不健康そのものになる生活をしていた。
クラウディオが学生だった頃も研究所からほとんど出てこず、倒れたのを発見されたことがあったくらいだ。
そのノエルが討伐に出ることはあまりない。
(今回は新種の可能性があるため出てきたのだろうが)
この間の件もあって、あまり顔を合わせたくない。セレスティーヌのことを思い出して、店でなにをしていたのか考えてしまう。
「そんなにこちらを見ても、なにも話すことなどありませんよ」
「————見ていない。さっさと討伐を終えて帰りたいだけだ。他に情報はないのか」
「あとは公爵にお願いします。こちらは魔獣を持ち帰るだけですから」
セレスティーヌの父親の話は耳にしているのか、他のことはクラウディオに任せると暗に口にする。
今回の件がセレスティーヌの父親となにか関わりがあるのか。それをノエルに知られるよりマシなので頷いておくが、ノエルも新種が見つけられれば面白い。くらいにしか思っていなさそうだ。
目撃者の証言で作られた魔獣の絵を眺めながら、どんな攻撃をしてくるのか、どんな能力があるのか、確認するようにぶつぶつと呟いている。
ただの研究バカだが、そこに天才が付くのが厄介だ。魔獣が見付かれば、そのまま解剖しそうな勢いがある。
「周囲には似たような種類の魔獣はいませんから、どこからか運んだのかどうか。しかし、運ぶにも個体はサイズがあるようですし、交配でもした可能性が一番高いですかね」
その言葉にぴくりと耳を動かす。
闇競売に魔獣が出品された。確認されているのは大人しいものではなく、凶暴で人を襲うものだった。
それが発覚したのは、競売で出品された噂が流れたタイミングと、その魔獣が購入していった者の屋敷で大暴れしたタイミングが同時期だったからだ。屋敷での騒ぎは表沙汰にならなかったが、丁度その屋敷で働く下男が屋敷内の事故で死亡した。
その死に疑問を持った家族は詳細を聞きに行った。遺体はいくつかの部位に損傷があり、見られる姿ではなかったのだ。しかし、彼らは門前払いにあい、死亡した理由を聞かされることはなかった。
このことによって、なにかに食われたのではないかと、家族らは言いふらした。その後彼らは根拠のない噂を流したとして罰せられたが、噂を聞いた人の口に戸は立てられなかったのである。
これらを王の間諜に知られるとは思わなかっただろうが。
(凶暴な魔獣を飼ってなにをするのかと思うが)
裏世界では、魔獣を争わせ賭けを行う、くだらない遊びが行われているらしい。
そのための魔獣を購入する貴族がいるのだ。
だが、魔獣が外に出て暴れるわけではないので、その存在は表に出ていない。
「交配した新しい卵を売買していたが、間違って孵った個体に逃げられたと考えるのが妥当か」
「魔獣は成体にならずとも凶暴なものが多いですから、卵の方が運びやすいですしね」
もし子爵家で卵を作っていれば、今回の魔獣出没も納得の話だ。
クラウディオは部下に子爵家を調査させている。別働隊と情報を共有し、そこにセレスティーヌの父親と関わりがあるのか確認する必要があった。




