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目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです  作者: MIRICO


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32② ー真実ー

「封印されて、ずっとあの場所に?」


『そうだね。魔獣と共に封じられてその魔力や命でも吸収したのか、魔獣に混じったのかなんなのか。暗闇の中で僕の意識が無くなることはなく、ずっと暗闇の中から周囲が見えていた。いつだったか、そのうち外に出られるようになったけれど、鎖に繋がれてそのまま。それでもずっと、あそこからなにが起きているのか見ることができた』


 どれだけの長い時を孤独に過ごしたのか。ヴァルラムは鎖に繋がれたまま、時の移ろいに身を任せていたのだ。


『もちろん、君の話も聞いていたよ。お菓子も食べ物もあって、いただくこともできたし。封印が緩んでいたせいだろうね』

「は、はは」


 独り言のように話していた話をすべて聞かれていたのか。しかも、お菓子や食べ物を食べていたのも動物ではなく本人だったとは。

 しかし、姿だけはフィオナたちの目に見えることはなく。


 そうして、あの夜、あの魔法陣が現れた。


『昔見たことのある、魂を呼び寄せる魔法陣。前も引っ張られたけれど、途中で消えてしまった。けれど、今回は、長い間僕を呼び寄せようとしていた』


 そこに訪れてしまったフィオナは、魂を呼び寄せる魔法陣によって巻き込まれたのだ。


『君の体は弱く、あのままでは持たなかった。魔法陣の先にいた女性もまた意識を失っていた。僕には体がないから、あの体を使えということだと察したけれど、僕の他に君がいた』

「だから、私を、セレスティーヌの体に? どうして!? 彼女の魂はそこにあったんじゃないの!!??」


『一度体を離れた彼女の魂は、そこにはなかった。それに、魂を戻す方法なんて僕は知らないよ。魔法陣によって呼ばれそこに生贄があったのならば、僕が女性の体に入るのではなく、君の魂を入れることができると思っただけだ』


 そうしてフィオナは、セレスティーヌとして目が覚めた。


『女性の体を差し出すなんて、どうかしている。僕がその体に入ってどうするの。僕はすでに遠い昔体を失っている。この魂ですら一体何者なのかも分からない。人なのかそうではないのか、もう分からない。どれだけ昔のことだと思っているの。なのに、あの魔法陣を使った。僕がなにになっていると思ったんだろうね』

「それは、おそらく」


 エルネストはナーリア国の正史を知らないのではないだろうか。エルネストの知識が、アロイスが持っていた絵本と同じだとすると。


 悪である魔法使いの魂か、魔獣を呼ばせるつもりだった。

 稀代の魔法使い。しかも魔獣と共に封じられた。それらを呼ぶことができれば、セレスティーヌだけでなく、バラチア公爵家にいる者たちにもなにかが起こると考えるかもしれない。


『近くにいる者たちを、殺すとでも思ったのかね?』

「それを呼んだセレスティーヌは大罪を犯すことになる。あの魔法陣を教えた者だとクラウディオが疑われれば、彼も罰せられる。戦いになればあわよくば二人も死ぬかもしれない。邪魔者を排除しようとしたのは間違いないわ」


『悪い魔法使いだなんて失礼だね。僕が本当に彼女の体を乗っ取り、世に放たれたら、大きな力を持って滅ぼそうとしてもどうでもいいのかな?』


 エルネストは、どこまで考えていたのだろう。

 そうであれば良いと、軽く計画したのだろうか。


 稀代の魔法使いと言われた悪がセレスティーヌの体に乗り移った時、その悪が狙うのは……。


(王弟だと知らなくても、絵本通りと思っていたら? 悪い魔法使いが体を手に入れた時、自分を封じた王を狙う?)


 時代が違うと気付かなければ、王宮を襲うだろうか。

 そこまで考えていたのならば、エルネストの恨みは計り知れないものがある。


「セレスティーヌはどこにいるの?」

『彼女の体から出ても、君はどこにも行けないよ。君の体は死んでしまったからね』

「それは、……」


 もう分かっていた。セレスティーヌの体に入っている限り、セレスティーヌがフィオナの体に入っていないのならば、フィオナの体に魂はなく、ただの屍となってあの石碑の側に転がっているだろう。

 両親や妹はフィオナの部屋に来ることはない。彼らは石碑に訪れようと思わない。

 フィオナの死がいつ気付かれるのかも分からない。


「————それでも、私はセレスティーヌじゃないもの」

『君は、あの場所でいつも寂しそうだったけれど、その体ではとても楽しそうに見えたよ』


 それも知っている。


 フィオナはセレスティーヌになってから、戸惑いながらもその生活を楽しんでいた。

 アロイスやリディ、クラウディオやモーリス、シェフのポールやメイドたち。

 フィオナでいた時よりずっと多くの人と関わり、セレスティーヌとなって生き生きと生活をすることができた。


『そこに使える体があるのならば、君が使えばいい』


 その言葉は、まるで悪魔の囁きのようだった。


「セレスティーヌは。どうやったら彼女を元に戻せるの!?」

『……近くにいるよ。フィオナ。もう戻るといい。その体でも負担がかかるから』

「待って! まだなにも話していない!」


 突然ヴァルラムが遠のいた。自分が動いているのか、ヴァルラムが動いているのか、どちらが動いているのか分からないが、どんどんヴァルラムが遠くなっていく。


 まだ、セレスティーヌと話をしていない。

 彼女が、なにを望むのか、なにも聞いていない。


『もう時間だ。体にお戻り』

「ヴァルラム。セレスティーヌと、話を————!」


 ヴァルラムが見えなくなり、暗闇だけになった時、フィオナは光の渦に落とされた。

 





「……ティーヌ、セレスティーヌ!」


 暗闇から真っ白な世界に飛ばされたと思えば、聞き覚えのある声がセレスティーヌを呼んでいた。


(それは私の名前ではない。彼女はまだ暗闇にいて、戻ってきていない)


「セレスティーヌ!!」


 その名を呼ばれて、目覚めるのはフィオナではないはずだ。

 しかし————、


「……ラウディオ……」

「セレスティーヌ!?」


 目の前には瞼を真っ赤にして涙を流すクラウディオがいた。クラウディオの涙が、フィオナの頬にぽたりと垂れる。


「倒れたと聞いて、急いで、もう、目を覚まさないかとっ!!」


 そう言って、クラウディオはフィオナの隣に頭を埋めた。

 ずっと呼んでいたのか。握られた手が熱い。


「泣かないで、クラウディオ……」


(その手を握る相手は、私ではないのだから————)

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