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目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです  作者: MIRICO


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31① ー薬ー

「バラチア公爵夫人。こちらのお部屋にどうぞ」


 フィオナはかしこまって促す男の後をついて、開いたドアの中に入り込んだ。

 がやがやと騒がしい会場。入った部屋の奥はベランダのようになっており、椅子が二脚置かれていた。


(演劇とはね)


 初めて入った劇場。一人でこの場所に来たのは、招待があったからである。





 王宮の書庫では新しく得られるものはなかった。


(やっぱり、禁書の部分を読ませてもらわないと、分かることはないのかも)


 ため息しか出ない。クラウディオにも何度も大国の話をしており、いい加減どうしてそこまで大国のことが知りたいのか、疑問に思われるだろう。

 ノエルは魔法陣が流出した理由を調べているのか、まだ知らせはない。王宮であった時クマがひどかったので、研究所からほとんど出ていなさそうだった。


「フィオナ様、お手紙が。差出人が書いていなかったのですが」


 リディが持ってきた手紙には封蝋がしてあったが、紋章などはない。封筒はしっかりとしているが、誰から送られてきたのか記されていない。

 セレスティーヌにはほとんど手紙の類は送られてこないので、リディは不思議そうに封を開けて見せてくれた。


「チケット?」

「お席もとても良いものですね」


 劇場の個室の席が記されたチケットと、カードが一枚。

 カードには、お待ちしております。の一言だけ。


「誰だと思います?」

「分かりませんが……」

「エルネストかしら?」


 高価そうなチケットだ。誰かが嫌がらせにセレスティーヌにチケットを贈るだろうか。そうでなければ、エルネストが呼んでいるように思う。


「薬を渡すのに、正体は出さないってところですかね。証拠を残したくないのかも」

「危険ではないでしょうか?」

「劇場でどうこうはないと思いますから、行くしかないですよ。薬は必要ですし」


 リディの心配は分かるが、劇場に招待してきたのだし、そこでなにかしてきたりはないだろう。エルネストからすれば早く魔法陣を起動させたいに違いないのだから。

 薬をよこすまで少々時間は掛かったが、薬を手に入れるのは難しいと言っていたので、やっと渡せるというところか。


「どこから薬を手に入れたのか。それも調べてもらうには、薬をもらわないとね」


 チケットの日付に合わせ、フィオナは外出することにした。クラウディオに気付かれないように、店に用があるように見せて、店でドレスを着替え直す。

 アロイスはお留守番なので、乳母たちに任せた。さすがに連れてはいけない。


 劇場に行くなど初めてのことだ。その客層を見ればそれなりの身なりをしている人たちばかりだったが、フィオナが覚えている限り知っている人はいなさそうだった。


 チケットを見せ案内を受け、フィオナは小部屋に入るよう促された。

 そこはバルコニーのような席で階上にあり、舞台が上からよく見えた。


(他の席からこっちを見られるから、危険はなさそう)


 小部屋は扉側と舞台側とがカーテンで仕切られているため、その陰でなにかされない限り、そこまで警戒する必要はなさそうだ。

 しばらく待っていると、音楽が流れ始めた。開始時間だ。

 挨拶が始まり、案内人の声が劇場に響き渡る。暗幕が開かれると、演劇が始まった。


 演劇は大国で起きた戦争中、引き裂かれた恋人たちの話のようだった。

 演目になにかあるわけでもない。フィオナは待ち人が来ないため、その演劇を見ながら、周囲に誰か見覚えのある者がこちらを注視していないか確認する。


(なにもないんだけど。普通に演劇見てろってこと?)


 誰かが入ってくる気配もないし、誰かがこちらを見ている感じもない。

 エルネストが来るのかと思っていたのだが、エルネストではなく、別の誰かの招待なのか。緊張して待っている中、演劇は終盤に差し掛かっていた。


 恋人が戦争に行ったきり戻ってこない。便りも途絶えて、女は男の帰りを今か今かと待っていたが、戦争から戻ってきた男の友人が訪れた。

 渡されたのは男の持ち物で、戦争前に渡したお守り。


(ベタな内容だけど、結構泣いて見てる人いるのね)


 どこからか啜り泣く声が聞こえる。ハンカチで目元を拭っている人も見えるので、感動のシーンのようだ。舞台は暗いまま、クライマックスを迎える。


 死んだかと思っていた恋人が、傷だらけで戻ってきたのだ。

 片腕を失った男は命からがら生き残り、多くの困難を経て女の元に戻ってきた。

 女には子供がおり、男が戦争に出発してからゆうに十年が経っていた。


 わっと、観客が立ち上がる。

 女の子供を見て男は躊躇したが、実は男の子供だったという話だ。


(————て、ちょっと、劇終わっちゃったんだけど!?)


 感動の? クライマックスを終えて拍手も鳴り終わり、観客が帰路につき始めている。


「嘘でしょ。誰も来ないわけ!?」


 他に目を向けていたのでまともに劇の内容が入ってこなかった。劇を見ていいならば劇に集中したのに。


「とんだ肩透かしだわ」


 そう呟いて部屋を出ようとした時、ノックの音が聞こえた。


「失礼致します。劇はいかがでしたでしょうか」


 ちゃんと見ていなかったのだが。適度に返して部屋を出ようとすると、布で包まれた小さな手土産をよこしてきた。


「どうぞ、お気を付けてお帰りください」


 扉を開かれて、フィオナは促されたまま外に出る。ここで開けるなということか。

 馬車に乗り、手にした布を広げると、そこには液体の入った小さな瓶とカードが入っていた。


「お望みのものです。ね」


 こちらも差出人の名前がなく、誰から贈られたものか分からないようにしてある。


「徹底してること」


 二人きりで会うわけにはいかない。薬を渡した相手だとも思われたくない。

 エルネストの、警戒心がよく見える手土産だ。


「でも、これで、薬の成分を調べてもらえるわ」

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