28④ ー訪問者ー
「フィオナ様に知識があれば、魔法が使えてしまうんですか?」
「そうですね。念の為ですが、ある程度魔法が使えるかは試しておいた方が良いかもしれません」
「それは、なぜ……?」
エルネストはセレスティーヌを陥れた。魔法陣を使用し魔獣や魔法使いを呼び出させることが目的だったかもしれない。
ノエルの反応を見る限り、まだ正確には分からないが、陥れたことは確かだ。
もしそこに、予想もしない大きな悪意があるとしたら。
「魔法陣によってなにかを企んでいながらそれが失敗に終わったと分かったら、次になにをしてくるか分からないからです」
エルネストがセレスティーヌを陥れクラウディオに恨みをはらそうとしていることは薄々気付いていた。その可能性はかなり高いと伝えると、リディは顔色を悪くすると瞳に涙をためた。
彼女はずっとセレスティーヌを心配している。セレスティーヌがどうなったかも分からないのに、これ以上なにか起きるのかと怯えるように震えた。
(魔法書を思い出しておこう)
セレスティーヌに催促するためになにかしてくるかもしれないし、直接クラウディオに仕掛けてくるかもしれない。
馬車の用意ができたので、フィオナは階下に降りた。階下は甘い匂いが立ち込めている。お菓子を追加で焼いている匂いだ。
店にはお菓子を作るウラドの他に、店番をする女性が二人いる。ここにセレスティーヌの客を呼ぶ時は店の入り口ではなく、居住用の入り口から出入りするわけだが、念の為口止め料を払う必要があるだろう。
「おばたまー」
そう思っていたら、可愛らしい声が届いた。
「アロイス。まあ、どうしてここに。誰が、旦那様!?」
「申し訳ありません。勝手に来てしまい」
まさかのクラウディオがアロイスを連れて店にやってきた。店を見たいとは言っていたが、こんなに早く来るとは。
(危なかった! ノエルが来てた時に来られなくて良かったわ)
鉢合わせなくて良かった、安堵しながらアロイスを抱っこする。アロイスは屋敷中の甘い香りに鼻をクンクンさせて、よだれを垂らしていた。
「一緒に、いらっしゃったんですか?」
「ええ。馬車で、一緒に」
言いながら、フィオナが抱っこしているアロイスの頭をなでてやる。
衝撃的なシーンすぎる。
あのアロイスが、クラウディオと一緒に馬車に乗り、大人しくやってきた!
本人、甘い匂いで頭をなでられたことにも気付いていなさそうだが、かなりの進歩である。猫と一緒に遊んだ時からなのか、クラウディオと一緒にいてもアロイスは怯えないようになったのだ。
「あの、開店の祝いをしていなかったので、花を。どこに運ばせましょう」
祝いなんていいのに。言おうとしたら、続々と大輪を咲かせている花の植木鉢が運ばれてくる。店の外側だけでは飾りきれないと中にも入れるが、多すぎて花の香りがすごい。
「お、お店の中には少しだけで。あとは、部屋にお願いします」
「すみません。多すぎましたね。なにが良いのか迷っていると、どれも贈りたくなってしまい」
「いえ、ありがとうございます!」
店の前は少しシンプルすぎるかと思っていたのだ。立て看板の横に花が置いてあるとよく目立つ。そこはありがたくいただいて、フィオナはクラウディオを店に案内した。
いきなりやってきた公爵に、ウラドと女性たちが固まる。気にせず作業してほしいと伝えるのだが、かちこちになって動いていた。
(あんまり考えたことなかったけど、身分が高いんだものね)
申し訳ないが、資金を出してくれた旦那様である。店の見学は許してほしい。
「こんなに多くの種類の菓子を売っているんですね」
「懇意にしてくださる方もできたので増やしたんです。ありがたいことです」
(お客様リスト作ってもらっているし、どこにどれだけ売れているかの統計もとっているし。なにが売れているかも確認しているし)
「問題点を出して、新しい商品とか定期的に目玉を作ったほうがいいかなって、考えてます」
「経営の勉強をされたのですか?」
「書庫の本を勝手に拝見しました。販売員さんも雇用したので、彼女たちと考えたり。意見を聞いて」
クラウディオと話していると、その彼女たちが先ほどの緊張はどうしたのか、クラウディオの美貌にうっとりとしながら眺めはじめた。
最近クラウディオに慣れたので感じていなかったが、世間の反応はこうなのかと認識する。
「お土産に買って行こう。そこにある品をすべて」
「いえいえ、品がなくなるので。いくつか包んでくれる?」
フィオナが止めると、クラウディオはしゅんと肩を下ろす。
(なんか、時々抜けてるのよね)
抱っこしているアロイスも食べたいと手を伸ばしている。ここに長居するのは危険だ。
「アロイスのおやつはおうちにかえってからだねー。おてて洗ってうがいして、お家で食べましょう」
「どうぞ、馬車に」
クラウディオは促しながら、購入したお菓子を持ってくれる。公爵がかわいい袋に入ったお菓子を持っている姿に、周囲はほんのりと生暖かい目を向けていた。




