26② ー手紙ー
セレスティーヌの両親からの手紙には、クラウディオ宛にアロイスに会いに行きたいというお願いが書かれていた。
(なんでクラウディオに手紙を出すのよ。アロイスをだしにするだなんて!)
フィオナは手紙をぐしゃりと握りつぶした。
あの両親が純粋にアロイスに会いたがっているとは思えない。パーティではアロイスについて一切問われることはなかった。パーティで切り上げた話が目的なのは明白だ。
「セレスティーヌ?」
「断りましょう。いえ、今後両親に関わらなくて結構です。今までもなにかと失礼をしたかと思いますけれども」
クラウディオと衣装を揃いにしたり、ダンスをしたりしたせいで、セレスティーヌの両親は二人の仲が深まったと誤解し、好機を得たと思っているようだ。
アロイスがいるため、クラウディオが気にしてくれ始めた。それはありがたいことだが、それを勘違いしてクラウディオを説得できると思ったのならば、放っておくことはできない。
(せっかく、クラウディオが変わろうとしてくれているのに)
あの両親にクラウディオは関わらせたくない。
セレスティーヌには悪いが、あの両親がいる限り、クラウディオとの距離は離れている方が良いのだ。
当初の予定を早めて、クラウディオに会わないように離れて暮らした方がいいのかもしれない。
デュパール公爵夫人もお菓子の店について宣伝してくれると言っていた。今のところ売り上げは上昇気味で、顧客層を増やす新たな取り組みも考えていたところだ。
せめて、セレスティーヌが戻ってくるまでは。
「両親とは、関わらないように、私も務めますので」
(縁とかって切れるのかしら)
セレスティーヌ自身、両親に関わらない方が良いだろう。離婚することがないのならば実家に戻ることはないのだし、会わなくとも問題などないはずだ。
「そこまでする必要は」
「ですが、こちらにご迷惑が掛かるでしょう。提案ですが、今始めた事業もあるので、そちらに私が移動するのはいかがでしょう?」
「どういう、意味ですか?」
フィオナの言葉に、クラウディオが一瞬思考を止めたかのように静止した。
「この屋敷を出ていけば、しつこく言ってくることはないと思うんです」
距離が離れたと気付けば再び連絡をよこすだろうが、そこはセレスティーヌによこすだろう。クラウディオに迷惑が掛かることはない。
良い案だと思うのだが、クラウディオはみるみる顔を歪めていった。
「離れて暮らすと言うことですか? 屋敷を、出て行くと?」
「それがお互いのためでしょう。両親はあんなですし、これからもしつこそうですし」
「アロイスは? アロイスはどうするのですか!」
「店へ一緒に連れていって問題ないと思いますが」
「そのような、事業の屋敷はかなり小さいものでは!?」
「アロイスと住むには十分ですよ。もちろんリディも連れていきますが。乳母たちも住める広さですし」
それくらいの規模はある。もっと小さな屋敷で良いと思っていたが、公爵夫人として恥かしくないように、と大きめの屋敷に決めたのが功を奏したと言うべきか。
それでも公爵邸に比べればとっても小さいので、クラウディオは不満があるだろうか。
クラウディオが住むわけではないので、特に問題はないと思う。
「今後、どうしても出席しなければならない催しなどは同行しますし、旦那様には丁度良いでしょう。私の顔を見ずに済みますから、私に構うこともなくなります」
「そういう、意味だったのですか?」
「そういう意味??」
なんのことだろう。クラウディオの顔を見遣ると、なぜかクラウディオは歯噛みするようにして眉を逆立てていた。
「それは、絶対に許しません!!」
「え。ちょっと、旦那様!?」
いきなり大声を出したかと思ったら、クラウディオは怒ったように部屋を出ていってしまった。
クラウディオへの呼びかけ虚しく、大声に怯えたアロイスと、足元に頭を擦り付けてくる猫の鳴き声を聞きながら、フィオナはただ呆然とするしかなかった。




