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目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです  作者: MIRICO


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26① ー手紙ー

 緊張していた茶会も終わり、フィオナは帰路についていた。


 没落寸前のブルイエ家の長女がお茶会に行くことはない。行っても体調が悪くなるし、食べ物でも食べている間に吐く可能性だってある。ダンス以上に危険な催しだ。

 だから作法もあまり分かっていない。田舎の貴族らしくなんとなくなお茶会ならともかく、高位貴族の、しかも公爵家の屋敷に招待されて、お茶をすることになるとはと緊張していたのだが、思った以上に楽しい時間を過ごすことができた。


(素敵な人よね。クラウディオが惹かれるのも分かるわ)


 セレスティーヌに対しての敬意は言うまでもなく、無理な願いでありながらクラウディオに秘密にしてくれると約束までしてくれた。

 少し時間が掛かるとは言っていたが、魔法陣と薬について詳しい人を遣わしてくれると聞いて安心した。


 これでなにか分かれば良いのだが。


 それなのに、どうしてだろう。なぜか胸がぎゅっと締めつけられるような気がした。

 これはセレスティーヌの心の痛みなのだろうか。


(クラウディオのことをよく分かっている方の話を聞いて、セレスティーヌの体が嫌がっているとか?)


 あの夢が正しければ、セレスティーヌの魂は体から抜け出して、ずっとあの暗闇の中にいるのだ。そして、体が入れ替わったわけではないのならば、フィオナの体は今頃魂のない抜け殻になっている。

 フィオナはぷるぷると首を振った。


 クラウディオは約束通り資料を部屋に運んでくれた。そうして分かった、フィオナの国。それは、大国の果てにあったのだ。

 クラウディオの資料の中に、大国時代の末期、ブルイエ家の当主が王より土地を賜ったことが記されていた。

 どうしてそうなったのかの記述はなかったが、多くの魔獣を封じた土地を守るために、ブルイエ家の初代当主が立ったとされていたのである。


 王の権威を広めるべく魔獣討伐に出てその土地で戦ったのかもしれないが、それについては載っていなかった。その広大な土地を得たため、記されていたのだろう。


(本当に王から賜ったとは思わなかったけれど)


 けれど、現在シューラヌ国とオリシス国は国交がなく、行くにしても現在の地図はない。それに、相当な距離であることが分かった。


 自分が死んだかどうか、確認する術はない。


 やはり、原因を究明するには、セレスティーヌがなにをしたかを解く必要があるのだ。

 まだエルネストから薬は届いていない。だとしたら、魔法陣がどんな意味を持つのか、調べる必要があった。






「おばたま、にゃんこー!」


 屋敷に戻ると、アロイスが猫と遊んでいた。母猫と子猫。前に庭で見付けた猫たちだ。

 アロイスが優しく猫の背をなでながら、笑顔でフィオナを迎える。


 そのアロイスと一緒に、床に座る、あり得ない人を見た。


「だ、旦那様!?」

「セレスティーヌ。茶会はどうでしたか?」

「デュパール公爵夫人とは、楽しい時間を過ごさせていただきましたが、これは……」

「にゃんこなのー。にゃんこと、おじーたまと、あそんでたのー」


(クラウディオが、笑顔でアロイスと猫と一緒に遊んでる!?)


 クラウディオは照れたように立ち上がる。その周りを猫たちがニャーニャー言いながら集まってきた。手に猫じゃらしのようなおもちゃを持っていたからだ。

 それをフィオナが見ているのに気付いたのか、さっと自分の背に隠す。


「猫は爪など手入れをして、アロイスに傷が付かないようにしてます。アロイスも猫に触っても問題ないとのことなので、安心してください」


 いつの間に猫の手入れをしてくれたのか。そういえば猫たちの世話を頼んだメイドに様子を聞いた時、少しばかり居心地悪そうにして問題ないと口にしていた。

 クラウディオが猫を屋敷に入れるための許可を出してくれていたようだ。

 しかも、アロイスが猫に触れて問題ないかも調べてくれたとは。


「おばたまー。にゃんこなの。かわいーの」

「かわいいわね。アロイス。旦那様にありがとうございましたは言いましたか?」


 フィオナは座って視線を合わせると、アロイスに礼を言うように促す。わざわざ猫を保護しアロイスが触れるように世話をしてくれていたのだ。アロイスのためにそこまでしてくれるとは思わなかった。


「ありがと、ございました」

「ありがとうございました。旦那様」

「いえ、猫を会わせても問題ないと分かったので、アロイスに見せてやろうと思っただけです。セレスティーヌを待っていれば良かったのですが」


 フィオナがいない間にアロイスがぐずり、大声で泣き続けていたので、クラウディオが機転を利かせて猫を見せてくれたのだ。

 機嫌が悪かったアロイスはすぐに猫に夢中になり、泣くのをやめた。


 だが、そこで乳母に任せるのではなく、クラウディオが一緒に遊んでくれたとは。

 しかも、クラウディオがいてもアロイスが怯えていないところを見ると、いつものように上から見下ろすような真似はしなかったわけである。


「アロイスとどう接すれば良いのか分かりませんでしたが、セレスティーヌが行っているようにすれば良いかと思い……」

「どのようにされたんですか?」

「その……、視線を合わせたり、簡単な言葉をゆっくり話したり。それから……。いえ、とにかく、あなたの真似をしたのです」


 クラウディオは恥ずかしそうにして頭をかく。


 あのクラウディオが、アロイスを見下ろしていたクラウディオが、アロイスのために時間を割いて、子供の立場になって相手をしてくれるとは思いもしなかった。

 なんだかじんときて、涙が出そうになる。


 デュパール公爵夫人の言う通り、アロイスの存在がクラウディオにとって良い影響を与えるのかもしれない。


(いいことなんだろうな。これで、セレスティーヌが戻ってきたら、彼らの関係も変わるかもしれない)


 そう思うと、じんときていた胸がぐっと詰まったように息苦しくなってきた。


(なんか。なんだろう。最近色々ありすぎて、疲れちゃったのかな)


「実は、手紙が届いたので、あなたと話ができればと思っていたのです」

「手紙ですか?」


 クラウディオはモーリスに持って来させた手紙を見せてくれる。

 中身を見ると、フィオナはその手紙を握りつぶしそうになった。

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