25③ ー相談ー
「元々の性格があまり周囲を気にしないところもあるのだけれど、環境のせいでなおさらという感じね。目的しか見ないから、人の心の機微には疎いの。だから、人に恨まれても気付かないこともあるでしょうね」
デュパール公爵夫人はカップに口を付けて一息つくと、キロリとフィオナを見遣った。
「何かあったの? 前に聞いてきたわよね。エルネスト様が、あなたたちに何かしたの?」
さすがに聞きすぎたか。断定したような物言いに、フィオナはきゅっと口を閉じた。しかし、ここで黙っていても埒が明かない。
「実は、クラウディオの……、信頼を得るための手段として、エルネスト様から魔法陣を教えていただき、それに使う薬をいただいたんです」
フィオナは意を決し、話をすることにした。重要な部分を少し省いて。
「魔法陣の上で薬を飲めば良いと言われました。ですが、薬を口に含んだところ、気を失って倒れたのです。薬はその時にすべてこぼしてしまったのですが、魔法陣を使えば一体なにが起きるのか不安になり」
口ごもりながら、フィオナは続ける。デュパール公爵夫人は眉根を寄せていたが、彼女しか頼れる人はいない。
すべてを話すことは難しい。入れ替わったと言って信じてもらえるか分からないし、信じてもらえたとしても、それこそなにかに取り憑かれたと思われて身動きができなくなっても困る。
真実と嘘を織り交ぜて、なんとか協力してもらえるようにできないだろうか。
「エルネスト様がクラウディオになにか思うことがあるのならば、魔法陣や薬は良い物ではないでしょう。クラウディオを恨むようなことがあれば、嘘をついて私にそのようなものを教えた可能性は高いのではと。ですので、魔法陣は一体なにをさせるためのものなのか調べたいのです。どなたか、魔法に詳しい方を紹介いただけないでしょうか」
「バラチア公爵に聞かなかったの?」
至極もっともな問いだ。
確かに、クラウディオに聞くのが一番手っ取り早い。だが、リディの言い分やセレスティーヌの気持ちを考えると、クラウディオに話すのは難しかった。
同じように頭がおかしくなったと言われ、調べることができなくなっても困る。
(セレスティーヌが別人だと聞いたら、クラウディオはなにを思うのだろう)
「クラウディオには、まだ。薬についても、エルネスト様には失敗したとお伝えして、もう一度いただける手筈になっています。そちらも、成分を調べられる方はいないでしょうか」
彼女に断られれば、他に伝手はない。そうすれば調べることはできない。
再び夢を見るまで待って、会えるかどうかも分からないセレスティーヌに聞くしかない。
この入れ替えが、どうして行われたのか。元に戻す方法があるのか。
デュパール公爵夫人はしばらく無言になり、大きく息をついた。
「……いいわ。魔法使いを紹介しましょう。薬についても詳しい人を」
「ありがとうございます!!」
デュパール公爵夫人は顔を顰めたままだったが、仕方なさそうに魔法使いを紹介すると約束してくれた。
安堵していると、ただし……、と付け加える。
「それがすべてではないでしょう? 隠していることを、話してほしいわ」
それは条件だ。これを適当にすればデュパール公爵夫人の信頼はすべて無に帰すだろう。
もしも元に戻ることができれば、セレスティーヌにとって必要な人であるのは間違いない。できれば、元に戻った時に、セレスティーヌの助けになってほしい。
「すべてが解決したら、お話しできると思います」
そう言うと、デュパール公爵夫人の方が安堵の息を吐き出した。
彼女は誠実な人だ。セレスティーヌもそれに気付いているだろう。だから彼女を嫌がったのかもしれない。
(夢で会えたら、戻った時のことをよく言い聞かせなきゃ。デュパール公爵夫人が助けてくれたのよ。って)
くだらないプライドなど持たずに、彼女を手本にするくらい柔軟になってみせろと。
そうでなければ、クラウディオの心を得ることなどできない。
「少し、時間が掛かるかもしれないけれど、約束するわ。研究に入ったら出てこないのよ」
「ご紹介いただければ、それで。ありがとうございます!」
「お姉様の子供を預かっていると耳にしているわ。小さな子供に接して、バラチア公爵が変わるきっかけになればいいわね」
「……そうですね」
クラウディオが変わるとしたら、セレスティーヌも変わらなければならない。
その頃には、フィオナはセレスティーヌの体からいなくなっているだろう。その時、フィオナは一体どこに行くのだろうか。




