25② ー相談ー
「あなたも知っている通り、サルヴェール公爵のお母様は元王女でしょう? サルヴェール公爵はその血を誇っているのよね。だから少しの瑕疵も許されないと思っているところがおありなの」
エルネストは元王女を祖母に持つようだ。だからといって、怪我をして剣を持てなくなったエルネストへの扱いがひどいとは、親としてあまりにも厳しいのではないだろうか。
「バラチア公爵のお母様も元王女だから、サルヴェール公爵はバラチア元公爵に張り合っているところがあって、一方的にライバル視されているのよ」
エルネストの父親はエルネストとクラウディオが比べられるのを嫌がっている割に、自分で比べては一人で憤慨していたようだ。その父親に、エルネストは虐げられてきたのだろう。やるせない話だ。
「後継者問題も出てきたでしょう。サルヴェール公爵はエルネスト様を推しているようだけれど、王は一番近しい者として甥のバラチア公爵をあげているわ。それでさらにエルネスト様への態度に拍車がかかったのよ」
クラウディオの母親が元王女であることはリディから聞いた。
(ヒステリックな母親が王の姉だから、王はなおさらクラウディオを気にしているってことなのよね)
王は結婚して十年以上経っているが子供ができず側室を持った。しかし未だ子供ができないと後継者が問題になっている。
王にとってクラウディオは年の離れた大切な弟のような存在なのだとか。その上クラウディオは優秀なため、次代にと勧める人も多い。
そのせいで、サルヴェール公爵はエルネストにつらく当たり、人前でも気にせず怒りをぶつけ、時には罵ることもあったという。
聞けば聞くほど、父親に憎まれたうっぷんを、クラウディオを逆恨みすることではらしてもおかしくない気がする。エルネストがクラウディオを憎んでいないというのは、想像でしかない。
「前にも伺いましたが、エルネスト様は本当にクラウディオに恨みはないんでしょうか」
「おそらくとしか言えないわ。比べられてきたのは間違いないでしょうけれど、二人が表立って喧嘩をしたことはないし、バラチア公爵は特に周囲の反応を気にしない人だから、なにかあってもそうそう問題にならないと思うの」
その言葉にしっくりきた。クラウディオはエルネストに恨んでいると口に出されない限り、まったく気付かないのではないだろうか。
「あんまり、気にしなそうですよね。結構無神経なところありますし」
「ぷ。あなたもそんなことを言うのね」
デュパール公爵夫人が笑い出した。どうやら彼女もそう思っているようだ。フィオナも笑ってしまう。クラウディオは無神経で一致した。
「神経細かそうに見えるでしょう」
「見えます。すっごく細かいこと気にしそう」
「実際は違うのよ。意外に面倒くさがりだし」
「そうなんですか??」
「行わなければならないことは行う人よ。でも、感情に関しては気にしないことが多いわ」
あれだけ書を綺麗に書き写していながら面倒くさがりとは意外だと思ったが、デュパール公爵夫人は小さく首を振る。公爵の子供として学ぶことは学び行ってきたが、そこに感情は伴っていないのだと。
それでは、まるで人形のような。
「怒らないであげて、幼い頃から、何も感じないようにと、心を閉じていることが多かったの。気にしたくないと思えば、気にしなくなるからって、昔言っていたわ」
「それは、母親のせいですか?」
クラウディオの母親はセレスティーヌのような性格をしていた。夫に執着しクラウディオを蔑ろにしていた。ヒステリックに叫び、ひどい時はクラウディオを叩いたりしたそうだ。
子供に手をあげるだなんて以ての外だ。
クラウディオの父親である元公爵は気付いて何度も止めたが、知らぬところで虐待を続け、それについて元公爵が怒れば母親は泣き喚き、話にならなかった。
元公爵は母親からクラウディオを引き離したが、その頃にはクラウディオは心に大きな傷を負っていたのだろう。
諦めの境地に立ったまま、クラウディオには困難が続いた。父親が病に倒れれば母親の狂気は増し、父親が亡くなれば、母親は失意に暮れ寝込んでしまい、後を追うように亡くなった。
「お父様が病で亡くなった時も、自分に言い聞かせていたと思うの。大したことはない。起きてしまったのだから仕方がない。そういうこともあって、自分が苦しいのは慣れているから、他人の苦しみにも気付けないのよ」
聞いているだけで無性に悲しくなる。父親が生きていればもう少し違ったのかもしれないが、クラウディオには周りに誰もいなかったのだ。フィオナも両親や妹との考え方の不一致で相手をしないようにしていたが、ただそれだけで多くの災難があったわけではない。
祖父は優しく親身になってくれていたし、孤児院の子供たちもいた。
クラウディオにはそれを分かってくれるデュパール公爵夫人がいたが、結婚したのはセレスティーヌ。心を許す相手がいれば、相手の気持ちを慮ろうとするだろうが、その機会はない。
クラウディオは他人の心を推し量ることが苦手になったまま、今に至るのだ。
フィオナはぐっと唇を噛み締めた。




