23② ー夢ー
「————はっ!」
水の中かから飛び出したように大きく息を吸って、フィオナは飛び起きた。
震える体はセレスティーヌのもので、目にする手のひらを何度も握っては開き、明るくなり始めていた空に気付いて、フィオナはようやくゆっくり息を吐いた。
「また、夢」
夢だったが、ただの夢ではない。
夢にしては鮮明で、話したことを忘れることなくしっかり覚えている。
「あの男はなんなの?」
去り際に名を伝えてきた。また会おうなどと言いながら。
「ヴァルラム?」
そう口にして、フィオナは痛みに頭を押さえた。急に頭痛がして、はあはあと荒い息を吐く。
最近変に頭痛が起きる。その度になにかを思い出しそうになって、すぐに記憶が薄れた。
「会ったことはないわ。でも、私を知っているってどういう意味?」
ヴァルラムはすべてを知っているようだった。
あの男はなんと言っていただろうか。
「魂が離れてしまった?」
だが、フィオナは運が良かった。セレスティーヌの体がなければ、死んでしまうところだったから。
セレスティーヌは自殺をする気はなかったが、薬を飲んで倒れた。魂が離れたセレスティーヌの体をフィオナが乗っ取った。
「運良く、セレスティーヌの体があったから?」
ぞわりと肌が粟立った。
フィオナがセレスティーヌの体を乗っ取ることになったのは、フィオナが死に、あの黒髪の男ヴァルラムによってセレスティーヌの体を与えられたからだというのか。
「そんなばかなこと」
だが、今までのことを考えると、辻褄が合うのかもしれない。
「じゃあ、私は、ベッドに入ったまま死んじゃったってこと?」
そう考えると、頭が痛んでくる。本当に死んだのか? 体調が悪く眠ったまま、あのまま、息を引き取ったのか?
あの部屋には誰も来ない。家族は領主のパーティに出掛けていたが、戻ってきても部屋に様子を見にくることなどない。フィオナが起きなければ、ずっとそのままだろう。
「は。はは」
そんな想像はしていたが、本当に命を落としたのか。
だからといって、どうしてセレスティーヌの体を得たのだろう。どんな繋がりがあって、フィオナはセレスティーヌの体を奪ったのか。
「あの男、あと、なんて言ってた?」
フィオナは頭を押さえながら、先ほどのヴァルラムを思い出す。
「僕を呼ぶ者? 男にしてほしい?」
嫌な予感がする。フィオナは今も残っている魔法陣が描かれた床を見遣った。絨毯で隠されているが、そこには魔法陣が描かれ、セレスティーヌはその上で倒れていたのだ。
「薬を飲んで、自らを捧げたみたいじゃない?」
ヴァルラムの元に届いたのはセレスティーヌで女の体だった。男の体ではない。だから、フィオナに与えた。
「選り好みしなければ、あの男がセレスティーヌの体を乗っ取っていたかもしれなかったってこと?」
フィオナはかぶりを振る。
セレスティーヌはクラウディオの気を引きたくて行ったつもりでいる。ヴァルラムがセレスティーヌになっていれば、それは別人だったことだろう。今のフィオナ以上に、全くの別人だ。
「セレスティーヌは、やっぱり騙された?」
リディが魔法関係に詳しい人を探しているが、メイドの彼女でコンタクトを取れる人が見つからない。魔法を使う者たちに会うには紹介状などを得る必要があると分かったからだ。
魔法は王から許可を得て学びを得る。許可を得られる者はクラウディオのように身分が高いことが多く、一般人からすれば手の届かない人々ばかりだ。
お金だけは事業を行うことにより捻出できるが、尋ねられる人が見つからない。
唯一尋ねられるクラウディオには、今のところ、話す予定はない。
だとしたら頼める人は、
そう考えて、さすがに難しいかと心の中で否定する。
「デュパール公爵夫人に助けてもらうのは、セレスティーヌは一番避けたいでしょうね」




