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目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです  作者: MIRICO


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22① ー帰宅ー

「セレスティーヌ、疲れたのならば眠ってください。着いたら起こしますから」

「う、すみません。では、遠慮なく」


 そう言って、セレスティーヌは馬車の中で寄り掛かり、瞼を下ろした。


 久し振りのパーティでのダンスだったせいか、セレスティーヌは途中から青白くなり、疲労が見えた。


(無理に踊らせてしまっただろうか。セレスティーヌは嫌がっていたようだったのに)


 前回、パーティでダンスを踊る機会があったが、クラウディオはセレスティーヌの物欲しそうな視線を無視し、踊ることを拒否した。何度か、ダンス、という単語を耳にしたが、徹底的に聞かぬふりをしたのだ。

 ダンスを踊ることなく、セレスティーヌを一人にし、挨拶もクラウディオだけで終え、セレスティーヌはまるでいない者として扱った。


 そうでなければ、挨拶をした女性たちになにを言うか分からない。

 他のパーティでは会うたびに今の人はなんの関係か問われ、納得がいかないと皆の前でも関わりなくクラウディオにすがりつき、時には泣き喚いたりもした。

 セレスティーヌの他に誰かとダンスでもしようものならなにをするか分からない。デュパール公爵夫人に対しては、襲い掛かりそうになった前科があった。


 王の前でそれを見せるわけにはいかない。そうして無視を続けた結果。セレスティーヌは蒼白な顔をしながら、何度もクラウディオの表情を窺い、そしてなにも言わず帰路に就いたのだ。


 あの頃は婚約中で、まだ結婚はしていなかったが、あの時のことを後悔するつもりはない。

 だが、今は。


(両親に刃向かったのを見たのは、初めてだったな)


 普段は両親の話を黙って聞いているだけ。なにかを発言しようとしても、両親に睨まれるだけでそれをやめてしまう。それでもなにか言おうものなら、両親はかぶせるようにセレスティーヌの言葉を遮った。

 そしてなにを言うこともなく黙り、居心地悪そうに体を縮こませていた。


 しかし、今回は両親の言葉をセレスティーヌが遮り、反論する間も与えずきっぱりとした口調で両親を退けた。


(しかも、あんな嫌味を言うとは)


 クラウディオは思い出しただけで笑いそうになる。聞いた瞬間は呆気にとられてしまい、なにを言ったか理解するのに時間が掛かったほどだ。


「趣味が悪いどころか醜悪か」


 セレスティーヌもいつも大きな宝石を着けたり派手な衣装をまとったりしていた。それが本人に似合っていても、常におどおどしているセレスティーヌでは着られている感じがあり、それを笑う令嬢たちも多かった。

 だが、このところそういった装飾にこだわらなくなったのか、今回のパーティでの衣装も新しく購入するのを避けていた。


(モーリスから聞いて耳を疑ったが)


 パーティがある際、リディがクラウディオの衣装をモーリスに確認することなどなかったのに、確認に来たのだ。

 不思議に思ったモーリスがリディに話を聞き、セレスティーヌが何も用意をしていないので、クラウディオの衣装に合わせたいということが発覚した。


(そもそも、欠席する気だったようだからな)


 怪我をする予定とか、病気になる予定とか、セレスティーヌらしからぬ発言をして、クラウディオも驚いた。


(そこでモーリスが、揃いの衣装を作らせようと言ったことにも驚いたが)


 山間にあるバラチア領は都への道しかなく、商人の行き来も難しいため忌避されがちだった。それを改善するために前バラチア公爵が進めていた道路整備を続けていた。

 それがやっと開通したことと、前々より続けていた染料の研究でターコイズブルーの鮮やかな色を表現でき、丁度バラチア家に多い瞳の色と同じだったため、宣伝に使えると考え衣装を急いで作らせたのだ。


 初めはそんなものを着る気はなかったが、モーリスがやけに押してきたので了承した。

 今のセレスティーヌならば問題を起こさないだろうということで。


 実際、今のセレスティーヌはまったくの別人だ。

 クラウディオの瞳の色をまとったセレスティーヌは、普段ならばなにか言って欲しげにクラウディオの様子をうかがうのだが、ずっとリディに派手ではないかと聞いていた。むしろ、もっと地味な方が良いのではないかと、出発前まで言っていたほどだ。


(良く似合っていたし、美しさが際立っていたが)


 それを口にしそうになって、すぐに口を閉じた。今のセレスティーヌは、なにかを褒めると戸惑った顔をするからだ。


 ダンスでも失敗しないように褒めれば、むしろ困ったような顔をしていた。


(変わったのはいつ頃だっただろうか)


 クラウディオは最近のセレスティーヌを思い出す。

 アロイスが来た頃には変わったように感じていた気がする。


「いや、朝食をやめると言い始めた頃か?」


 書庫や厨房へ通い始めたのもあの頃だっただろうか。


「う~ん」


 扉側に寄り掛かっていたセレスティーヌがくるりと体勢を変えた。寄り掛かる場所がなく、クラウディオはさっと手を伸ばして転がりそうになる頭をキャッチする。


(しまった! つい)


 この手をどうすべきか。セレスティーヌの頭を片手で支えたが、セレスティーヌが居心地悪そうにクラウディオの手の上で頭を擦り付けてくる。

 眉を顰めながらも、無防備な顔で、小さく唇を尖らせた。


(子供みたいだな)


「んん、ん~」


 セレスティーヌがクラウディオの手のひらだけでは体勢が悪いと、頭を押し付けてくる。クラウディオも馬車の中で立ち上がっていてバランスが悪く、セレスティーヌの頭をころがしてしまいそうだった。


(そっと。そーっと)


 頭が動かないようにクラウディオはセレスティーヌの隣に座った。そうして自分の肩に頭を乗せてやると、セレスティーヌは安堵したかのように眠ったままにこりと笑う。

 それを見ていて、なぜか頬が紅潮する気がした。


 セレスティーヌがらしからぬ行動ばかりするため、クラウディオもつい反応してしまうだけだ。

 そう思いながらも、ちらりとセレスティーヌを見遣る。


「どうかしている」


 セレスティーヌはクラウディオの呟きにも気付かず、ぐっすりと寝入っていた。

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