21 ーダンスー
クラウディオはひどく焦ってみせた。大声を出してしまったことにうろたえたのか、珍しくわたわたと両手をあげたり下げたり落ち着きない動作をすると、コホン、と咳払いをする。
「それに、王の主催のパーティで、そのように早く会場を出るわけにはいきません」
「それも、そうですね……」
普通のパーティではないのだ。王からの招待を受けながら早めに帰っては、王への不敬になるかもしれない。
領主のパーティではいつもさっさと帰っていたので、ついその感覚で帰宅する気でいたが、相手は王だ。蔑ろにできない。
「では、ご挨拶をされていてください。私はどこかで休んでいますので」
「ダンスを踊っていれば、すぐに時間も経ちます!」
どこか力説するように言うが、クラウディオは余程ダンスが踊りたいらしい。前回の罪悪感を払拭したいのかもしれない。
(ずっと悪いと思ってたのかしら。そこまで気にしなくていいと思うけど)
「お疲れ、ですか? ダンスもできぬほど」
「そうではないですが」
クラウディオは肩を下ろすようにしょんぼりとしてみせた。次にダンスができる機会がいつになるか分からないからだろうか。それにしても、ひどく落ち込むような顔をしてくる。
また足を踏んだら可哀想だから。そんなことを言おうと思ったが、周囲の人々が喧嘩でもしているのかと耳をそばだてている。
「おみ足を踏んでばかりですから、これ以上怪我をさせたくないので」
フィオナは大声で言うことではないと、小声でクラウディオの耳元に囁いた。
瞬間、バッとクラウディオが仰け反って耳元を塞ぐ。
(あ、これもまずかったわね)
クラウディオとの距離感は近くないのだから、小声で話すにとどめておけばよかった。そこまで逃げられるとショックを受けるというより、申し訳なさが込み上げてくる。
「そういうわけですから、またの機会にしましょう」
「い、いえ。すみません。今のは、その、……」
気にしないでいいと言いたい。クラウディオが頬を染めた。怒っているようではないが、誰かに見られて恥ずかしがっているのかもしれない。つい周囲を横目で見遣ったが、それらしき女性は見受けられなかった。
(デュパール公爵夫人がどこかにいたのかしら)
「み、耳が弱いんです」
「え、あ。そうなんですか。ごめんなさい」
クラウディオが顔を真っ赤にした。耳まで赤いので、耳元で囁かれたのを嫌がったのは、くすぐったくて嫌だったようだ。
気を付けよう。そもそも距離感を間違えていた。フィオナは反復して反省する。
「あの、では、ダンスが嫌と言うわけではないんですね?」
「? そうですね」
「では、お手を!」
クラウディオがスッと手を差し出してくる。
フィオナは一瞬ためらった。しかし、クラウディオは前回のことを払拭したいのだし、長く気にするタイプのようなので、素直にダンスをした方が良さそうだった。
フィオナはそっとその手を取り、ダンスの申し出を受けた。
途端、周囲がざわりとする。
(う、注目が)
クラウディオとセレスティーヌがダンスをする!?
そんな声が聞こえそうなほどの視線を感じて、フィオナは冷や汗が流れそうになる。ほとんどの人がこちらを見ているような気さえした。
「足を踏んでも大丈夫です。リラックスしてください」
フィオナの緊張が伝わったか、クラウディオは柔らかな笑顔でフィオナを促す。
見たことのない笑顔に、フィオナはどきりとした。
まるで、愛しい者でも見るような笑顔だ。
むしろもっと緊張するではないか。クラウディオはダンスをすることによって、借りを返したいだけなのだから、その笑顔はダンスができて安堵している笑顔だ。
間違っても、セレスティーヌを許しているわけではない。
……はずだ。
なのに、その笑顔は緩やかで、なんとも朗らかな雰囲気を持っていた。辺りにいる者たちでもうっとりするような麗しさに、フィオナが視線を背けたくなる。
(まぶしい! まぶしすぎる!!)
美形には興味ないが、興味がなくともその威力に溶けそうになる。
(あっ!)
集中が途切れて、クラウディオの足を踏み付けた。一瞬だったが絶対に痛い。
「顔を上げてください」
下を向いてステップを踏み間違える前に、クラウディオが注意する。しかし、痛みに悶えたいだろうに、クラウディオは甘い雰囲気を漂わせるかごとく温かい笑みを浮かべた。
腰に添えられた手にグッと力が入る。
練習の時以上に、クラウディオが踊りやすいようにフィオナをリードする。
「うまいですよ。練習したかいがありますね」
「あ、ありがとうございます」
しかもお世辞が出てきた。こんな風に優しくされたら、セレスティーヌでなくともころりと転がってしまいそうになる。
(しっかりして、フィオナ。惑わされちゃダメよ)
ステップを踏むのに逆に間違えそうになるではないか。
これは義務である。さっさと終わらせたいクラウディオのためにも、フィオナはしっかり踊らなければならない。
顔に熱がこもりそうになりながら、フィオナは無心でダンスを踊り切ったのだ。




