19① ー謁見ー
セレスティーヌはクラウディオの心を手に入れるために、エルネストのおかしな話に乗り、魔法陣を描いて薬をあおった。
エルネストは、まるでセレスティーヌのためだと言わんばかりに、優しく語ってきた。
フィオナはあの言い方に覚えがあった。フィオナの両親が、領主の息子が気に入るように、パーティへの参加や美しく装うことを勧めた時と一緒だ。
大丈夫、体調はすぐ良くなる。城に行けば領主がフィオナの病気をなんとかしてくれるだろう。領主の息子もフィオナを気に入って、医師を紹介してくれるはずだ。
あなたのためだから。
(そんな都合のいい話、馬鹿馬鹿しくて耳にする気も起きないわ)
良い夫と巡り会えれば、病気も良くなるだろう。なんて最初に言われた時は、なにを言っているのかと子供心に思ったものだ。
祖父は反対し、フィオナの味方になってくれたが、両親は祖父の言葉など一切無視して、フィオナを領主の城へと連れて行こうとした。
自分たちがその恩恵を受けたいだけなのに。
エルネストもセレスティーヌに怪しげな魔法陣を教えて、自らに利益を得たかったのだろう。
(でも、セレスティーヌを殺して、なにを得ることがあるのかしら)
殺したいだけならば、魔法陣などは必要ない。殺すつもりではないとしたら、魔法陣を使わせ、なにをさせる気だったのだろうか。
やはり、専門家に見てもらわないと分からない。
薬はエルネストから再びもらうことを約束できた。手に入ったら連絡をくれる予定である。
手に入れたらすぐにでも専門家に調べてもらおう。事業の件でお金の利用は誤魔化せるはずだ。
「セレスティーヌ、こちらにいらしたのですか」
考え事をしながら廊下を歩いていると、クラウディオが焦ったように走り寄ってきた。
探してくれていたのか、少しだけ汗をかいている。そっとハンカチで拭おうとしたら、ばっと避けられてしまった。
「あ、いえ、ハンカチが汚れてしまいますから!」
フィオナの手が宙ぶらりんになって、クラウディオは慌てて釈明した。
そんなに頑張って言い訳をしなくて良いのだが。
フィオナは分かっているとハンカチをしまう。
「すみません。広間に戻った方が良いのですね。離れてしまって申し訳ありません」
「いえ、そんな、謝ることではありません」
「王がいらっしゃったのですか?」
「ええ。ご挨拶をしなければなりませんので」
「承知しました。早めに参りましょう」
フィオナは急いで歩き出す。王に挨拶をすることは事前に分かっていたが、緊張はあった。
(クラウディオの後ろで黙っていればいいんだろうけど)
ただ、リディが言うには、王はクラウディオをとても気に入っているそうだ。セレスティーヌが無理にクラウディオと結婚したことも知っており、セレスティーヌへの当たりが強いとか。
なにか嫌味でも言われるのか。不安である。
クラウディオは隣に並んで腕を出してきた。フィオナはエスコートをすっかり忘れていたが、クラウディオはちゃんと体裁を整えてくる。
嫌々ながらもちゃんと腕を出してくることに、偉いなあ、などと思ってしまう。前までは嫌いならやらなくていいのに、と思っていたが、ここまでくると律儀な男だと感心する。
(クラウディオが悪いわけではないものね)
最初は自分の妻に対しての態度があまりにひどいのでどうかと思っていたが、今までの話を聞くにクラウディオがセレスティーヌを嫌がる理由は理解できた。
なので、これからは差し障りのない程度に関わり、距離を空けていきたい。
「クラウディオ、どこに行っていた」
「申し訳ありません。ご挨拶申し上げます」
クラウディオに声を掛けた男。堂々とした態度の三十代くらいの男性は、両手を広げてクラウディオを招いた。クラウディオを笑顔で招きつつも、隣にいたセレスティーヌにはちろりと横目で冷めた視線を向ける。
フィオナは唾を飲み込みそうになったが、ゆっくりと淑女の礼をとり、静々と挨拶をした。とはいえ、フィオナが挨拶しても、ふむ、くらいで特に反応はない。
(かんっ、ぜんに、嫌われているわ)
言われなくとも分かる。その威厳のある佇まいと、若いながら猛禽類のような鋭い瞳を持つ王に、フィオナは怖気付きそうになる。
身分のある者といっても、フィオナの人生では領主に会うくらい。国王に会うのは初めてだ。その王が、フィオナを、セレスティーヌを嫌っている。




