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ショートショート6月〜3回目

万能薬

作者: たかさば

 季節の変わり目ということもあってか、なんとなく調子がよろしくない。自分という人体を形成している表皮が、所々おかしな感じになっているのだ。


 指先にはぽつぽつと水泡ができているし、後ろ頭にニキビ?があるし、足の指が一部カサカサしているし、ひじのちょっと上あたりがざらざらしているし、胸の所に赤くてかゆい部分があるし、かきむしった虫さされのあとがすっきり治ってくれなくてで…スッキリしない。


 しかし、かゆくて寝られないとか、痛くてたまらないとか、ジュクジュクしていて困るとか…決定的なダメージがあるわけでもないので、なんとなく病院に行きにくい。


 昔あせもができて困った時に皮膚科に行って、「これくらいならこまめにシャワーを浴びていたらすぐ治るよ」といわれて薬ももらえず帰された結果、あっという間に治ってしまった事件があったのが、地味に印象深く残ってしまったというか…。

 なんとなく、皮膚疾患は洗えば治るような、薬をつけないでも何とかなるもんだと思っているふしがあるのが、わりと厄介なのだ。


 どうせ病院に行ったところでただの愚痴こぼしになるだけだろうな、そのうちなおるだろ…、なかなか治らないなあ…、市販薬買ってみるか、なかなか治らないなあ、違う市販薬買ってみるか……。


 むずむずする部分を無意識にかいては、皮膚に血がにじんでいらいらして。

 手触りの違和感が気になって、集中力が続かなくていらいらして。

 市販品の薬を塗っては、なかなか治らないなあと地味にいらいらして。


 非常に、精神的によろしくない。さらにいえば、イライラして作ったごはんはあんまり美味しくないのだ。イライラしていると、やけに買い食いに走り勝ちになるのだ。……これはまずい!


 たまたま雨が降って、布団干しの作業が出来なくなって時間が出来た日に、思い切って病院に行ってみることにした。


「ええと、何箇所も調子が悪いんですけど、全部見てもらって良いですか?細かい上にたいしたことがない症状なんですけど、いいですかねえ?」

「じゃあ、上から行きましょうか、ええと・・・頭皮のぶつぶつですか…。」


 予約無しではじめて飛び込んだ皮膚科の先生は、若い女医さんだった。私の話を聞きながら丁寧に患部を見つつ優しく解説をしてくれて、非常に好感度は高い。虫眼鏡で見たり、皮膚の一部を採取して顕微鏡で確認したり、血圧なんかも調べてくれるとは思いもしなかった。


 ずいぶん……、皮膚科の印象が違うなあ。


 あせも事件もさることながら、わりとかなり、皮膚科で親身になってもらった記憶がない。


 昔海に行った翌日に体がまだら模様になって駆け込んだ皮膚科では、患部をひと目見て軟膏をもらっておしまいだった。

 風邪薬を飲んで全身にぶつぶつができたときも、ちらりと見られたあと飲み薬と塗り薬を出されておしまいだった。

 10円はげができたときも丸坊主にしたら目立たなくなるよと笑い飛ばされておしまいだった。

 ガス引火でやけどしたときも塗り薬もらっておしまいだった。


 素晴らしい先生に出会えたようだ……、来て良かった。


「一応全部見ましたけど、真菌もいないし、塗り薬で様子を見ていただくことしかできないですね、お薬を出しておきますので、様子を見てください。」

「あの、かゆいのも、ぶつぶつも、かさかさも、ぼろぼろも、同じクスリなんですか?」


「ええ、皮膚の状態を整える薬になるので…違和感あるかもですけど、全部このチューブで対応することになるんです。あとは、あんまり刺激をしないようにするとか…ボディクリームを使うとか、お風呂にゆっくり入って皮膚を清潔に保つとか、石鹸で洗いすぎないとか、油っこい食べ物を食べ過ぎないとか…バランスのいい食事、質のいい睡眠をしっかりとることと、適度な運動をして体調を整えると良いかと思いますよ!」


 ああ、こんなに丁寧にみてもらっても、結局いつもの感じに落ち着いてしまうというのか。


 なるほどねぇ、歴代のやな感じの先生たちは、こうなることを知っているから流れ作業的になってしまうわけかあ。


 なんとなく釈然としないまま、薬をもらって帰宅し、様子を見ると…、みるみる具合が良くなった。

 塗り薬の汎用性の高さ、恐れ入る。


「現代社会の、万能薬かあ。」


 私は、田舎のばあちゃんの家を解体した時にタンスの中から塗り薬が山ほど出てきたことを、しみじみ思い出したのであった。



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