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自我非同一-Non-identical-  作者: キャンティー
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影-Shadow-

先程までの喧騒が嘘のような静寂ーーー


力なく座り込んだ傍らには、動かない個体。


頭の中を整理しようとしても、まとまらない。

とりあえず、呼吸を整えなくては。


ただただ。

どうか夢であって欲しいと、考えのつかない頭の片隅でそう思った。







自分のことを一言で表すと?

就活の時に、聞かれて1番困る質問だった。


「凡庸」


まさに、この言葉がピッタリではあったが、そんな事を面接で言う訳にもいかず、「考動力があります」なんて言って、「行動」という言葉ではなく、「考えて動く力です」なんて、少し洒落たことを言って乗り切っていた気がする。


社交的な性格で明るくもあると思う。

ただ、そんな人はいくらでもいる。


社会人になってからは、より程々に愛想を振りまいて、自分が存在していて心地よいコミュニティに身を置いて、中心人物という訳でもなく、メンバーとして日々を過ごしてきた。


国公立の大学を卒業し、中小企業の第1志望だった旅行会社に就職し、転職して今は別の旅行関係の会社ではあるが、日々忙しない中でも友達や彼女と不自由なく過ごしている。

それが私、「佐倉(さくら) (わたる)」である。


人と違うところがあるとすれば、私には11年前から親は1人しかいないということだろうか。

私が22歳の年に、母はなんの前触れもなく消えてしまった。


仕事を終えた父が帰宅しても、家に誰もいないことでそのことが発覚した。

仕事を終え、会社から家に帰る姿を最後に誰からの目からも消えてしまった。

失踪届を出し捜索もしたが、未だに何の手がかりも見つかっていない。


そして、11年が過ぎてしまった。


父はその当時こそ落ち込んでいたものの、恐らく私を不安がらせないよう気丈に振舞っていたのだと思う。

「大丈夫。いつか帰ってくる。お父さんが選んだ強い人だから。お前は心配するな。」

そう私に言い、今でも職場から家に帰ってくる時には、色んな帰り道で母を探すのが癖になっているようだ。

多分、私は父が泣いたり弱音を吐いたりした姿を知らない。本当に強い人だと思う。


母は、いわゆる親バカな人だった。

いつまでも私の事を心配して、一人暮らしの私に、米や食料品、お守りなんかを年に数回送ってきてくれた。

過保護だなぁと思うことはあっても、それが嫌だと感じることは無かった。

私も母のことは大好きだった。

泣き虫で毎晩発泡酒を飲むのが日課で、自分の母親に痴呆症が発症した時なんかは、ほぼ毎日泣いていた。

そんな母を父が慰めていた、という優しい家庭だった。


そんな佐倉家の一人息子の私は、埼玉で一人暮らしをしている。

最近、彼女が出来た。

智美(ともみ)は前職の第1志望だった会社の時の同僚で、優しいがしっかり自分を持っている女性だ。

周りに合わせて生きてきた私にとっては、とてもまぶしく見える。

父を安心させてあげたいという気持ちもあり、結婚も考えながら同棲の話も始めたところだ。


母の失踪を除いては、ほんとにありふれた人間である。だから、なのだろうか。

普通ではないもの、例えば非日常は私にとって、恐らく人より魅力的に映る。「旅行」という非日常を体験出来る事を職にしているのも、おそらく根底にはそういったものがあるのだと思う。





「…昨日12月17日、さいたま市浦和区在住の坂本美咲さんが下校を最後に行方不明…」


コロナ禍でテレビを付けっぱなしにしながら、リモートワークをしていた私の耳に聞き馴染みのある地域の名前を、ニュースから聞いた。


「え…うちの近く…。」


私の住んでいるさいたま市与野にある高校の女子生徒が部活を終えた後、そのまま行方不明になっており、現在捜索届が出されているというニュースだ。


母のことがあってから、失踪、行方不明系のニュースには過敏になっていたが、家の近くでの出来事ということもあり、気になった私はネットですぐ調べてみた。


(19時過ぎに学校を出て)

(電話が繋がらない事で、母親が警察に相談)

(特に普段通りの…)


ネットでは、誘拐だとか神隠しとか憶測が飛び交っていた。

母の時にもニュースになり、そのニュースに反応した心無い人達の悪意ある憶測が書き込まれていたこともあった。


《父親に愛想尽かして、愛人のとこにいったんじゃね?ww》


《下妻って田舎じゃん。田んぼしかないんだからすぐみつかるでしょ。》


《私が失踪した母です。》


《いや、私が本物です。》


母の失踪に関わる2ちゃんねるのスレッドを見つけ、サイトを見て深い憤りを感じた時の事を思い出す。


今回の行方不明の事件についても、きっとそういった悪意の塊が蠢いているんだろう。

その子の親族がそういったものを見ないでくれることを祈った。


ただ、ニュースで連日流れるどんな事件よりも私にとっては身近に感じられるものだった。


その後案の定、父からLINEが届いた。


"

渉の住んでいる所の近くで、行方不明の事件があったようです。

大丈夫だと思うけど、念の為気をつけて。

父より

"


LINEのシステムを知らないのか、いつもLINEの最後に「父より」を付ける父(笑)

ただ、案じてくれているんだろう。


"大丈夫だよ。お父さんこそ、体に気をつけて仕事頑張って。"


そう返信し、リモートワークへと戻った。




夜。

仕事が終わり、家に食材がなかった為近くのスーパーに行くことにした。


家の近くにコンビニがあるのだが、色々買い出しに行く時にはマルエツに行くことにしている。

ただ、この日は以前家の周辺を散歩している時見つけた、団地の中にある小さなスーパーに行くことにした。


21時に閉店なので、20時を過ぎると見切り品のシールが貼られ、肉や魚、弁当などが破格で買えるということで、ちょっと歩くが隠れた名店として好んで行くスーパーだった。

平日は大体疲れていることもあって、そこに行くのは大体土日なのだがこの日は足が向かっていた。


その小さなスーパーの近くには、昼間テレビで見た行方不明の女子高生の通う高校がある。


ちょうど20時過ぎてるし安い弁当を買いに行こう、という気持ちの裏にどこか非日常を感じてしまったのだ。

"犯人がまだ近くにいるかもしれない"という。


軽率だった。

お目当てのシールが貼られた弁当、刺身、冷凍しておける肉と、菓子、酒などを買って、スーパーを後にする。

人はまばらで街灯などは少ない通りだ。


すれ違う人とは少し距離をとったりしながら、帰路を進む。高校の横を通る。

何台かのパトカーのランプの灯りが高校の正門の方に見えた。

昨日の出来事だから、恐らく今日は集団下校など対策を打ってるんだろう。


そんな事を考えながら、街灯や家々の明かりも人の姿も全く無くなったことに気付く。


自分で決めたことなのにやはり少し怖くなって、音楽を聴いていたがイヤホンも外し、誰もいないことを知りながらも後ろの気配を気にして家に向かって歩いていた。



何か誰かに見られている気がする。


こういう時は、だいたいそんな変な想像をするものなのだろう。

後悔と恐怖心の中、普段経験しえない状況にいる自分に少し興奮していたのかもしれない。


私はそんな変な高揚感のまま、まっすぐの家に帰る最短ルートの大通りの帰り道ではなく、少し逸れ中に2本ほど入った小道の方から少し遠回りして、もう少し非日常に踏み入りながら家に帰ろうとするために進行方向を、変えた。


まさに、その時だった。



向きを変えたちょうど視線の先には、今や誰が住んでいるのかも分からないような、電気も付いていない小さな古い家があった。


そして、その家の窓から覗く目と私の目が確かに合ってしまった。




身体中に衝撃が走った。



暗くて人影はぼんやりとしか見えなかったが、なぜか目だと思うものを確認出来た、いや、してしまった。


どれくらい硬直していたかは分からない。

一瞬か数秒か。


私が向きを変えた方に歩き出すと、その家の方に向かうことになってしまう。と、細かいことを考える前に私の足は元々の家への道に向いていた。

その間、横は見ない。


怖い。怖いーー


聴こえる音に気を配りながら、私はその家からある程度離れるまで、振り向くことをせず歩いた。


少し離れ、家の灯りなどで少し明るくなった場所まで来て後ろを振り返る。誰もいなかった。


冷や汗が止まらなかった。

確かに人の目だった。

こっちを見ていただけの家の人なんだろうが、もし誘拐の犯人が、自分を探す高校の正門にいたパトカーの動きを牽制していたのだとしたら、、なんて、より怖くなる考えが浮かんでしまう。


とりあえず今は家に帰って、もうこういうことはやめよう。そう思い、無事家に着いたのだった。


そして、翌朝。

新聞を取りにポストを覗くと、ポストインで大量に入れられてるチラシに紛れて、父からの手紙が届いていた。


(多分、御守りだろう。)


母が失踪してから、父が封書で何かを送ってくる時には、大体御守りが同封されていた。

母の代わりをしようとしてくれてるのだろう。


チラシごとひとまるめで掴んで、チラシは部屋で燃えるゴミで捨てよう。そう思って郵便受けから出そうとすると、1枚の紙がヒラヒラとすり落ちていった。


「ん?なんだ?」


ほかのチラシと比べても一回り小さい白い紙。

電話機の横にメモとして置かれてるようなその紙には、


"〒304-○○○○

茨城県下妻市○○○○○○○○(実家の住所)ね。


住所分かったよ。"


という文字と共に


"目"


の絵が描かれていた。

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