魔法円6
執務室には、エラトスとアピテが控えていた。
そこに呼ばれたソフィアがマリイを抱いてやってくる。
侍従が御茶を運び、退室すると、アルカスは頭の中にあることを、一気に捲し立てた。
「アピテ、グラコーは何か喋ったか?
軍にいる間違いない者を手配しろ。
その者にグラコーをタブラまで運ばせ、シメオンに尋問をやらせろ。
方法は問わん。
何としてでも吐かせるのだ。
魔法円に映った彼方の世界では、ミキコは死亡した者として扱われていた。
細かいことはミキコに聞かねば分からないが、葬儀を行ってから時間がたっているような雰囲気だったし、行方不明者として扱われてはいなかった事が不信だ。
なぜ、そうなったのか……そこが知りたい。
良いか?シメオンに、方法は問わんと伝えろ」
実際に、グラコーの尋問は殆どと言って良いほど成果を上げていなかった。
ペラスギアでは、敵国の捕虜であろうと非人道的な扱いはするなかれと言うルールがあるからだ。
グラコーは、それを分かっていてのらりくらりと躱している。
何時までも、忙しい最中のこの城に置いておくよりは、タブラに送った方が良いだろう。
シメオンは、仕事柄、一見物静かで理性的な風を装っているが、実は気が短く激情型だ。
滅多に人を信用することなく、目的のためには手段を選ばない。
例え公に出来ないような手法でも、躊躇いなくやるだろう。
しかも、シメオンは、実季子に心酔していると来ている。
何としてでも、グラコーに吐かせようとするならば、間違いなく結果を出せる最適な尋問官に間違いない。
アピテは、静かに頷くと早速手配をするために部屋を出て行く。
「エラトス。暫く私の政務を変われ」
「は?兄上!俺にも、結構な量の……」
「何も、全てを押しつけるとは言っておらん」
アルカスは、仕事を押しつけられそうになって文句を言い始めたエラトスの言葉を遮る。
「日に何度か、時間を作る。
その時にまとめて持って来い。
そうだな……夜が都合がいい。
お前が変われるものは、全てお前の権限で決済しろ。
何か起これば私が責任を取る。
私は、ミキコの側についていてやりたい。
分かったな?」
眉をハの字にして、情けない顔をしていたエラトスだが、覆りそうにないと判断すると此方もまた、一つ頷き、部屋を出て行く。
アルカスは、最後に残ったマリイに視線を定めると、椅子から少し身を乗り出して言い放つ。
「さて、マリイ。
御主、ミキコの事を気に入っているのだろう?」
アルカスの言葉を聞いて、マリイを抱いていたソフィアは、ぎゅうっとマリイを抱く力を強め、上からギロリと見下ろした。
ソフィアの視線に怯んだのか、膨らんでいた毛がシュウッと縮んで丸かった体は細くなった。
面白いな……
神の第1の使いのくせに、ソフィアの睨みには勝てないのか……
確かに……この乳母は怖いが
「まぁ、ミキコは気が付くと色々なものに懐かれているからな。
御主の気持ちは分からんでもない。
一定のルールを守れば側に居ても構わぬ。
その代わり、ミキコのために一仕事しろ」
そう言ったアルカスを伺うように黒い目で見ていたが、やっと縮んでいた体が元の丸みを取り戻すと、低い声で答える。
「我に何をさせたい?何を望む?」
それを聞いて、アルカスはニヤリと犬歯を覗かせた。
アルカスは、言いたいことだけ言うとさっさと実季子の部屋に言ってしまった。
残されたマリイは、ソフィアに抱かれたまま上を見上げた。
「我は、御主に世話になるのか?」
「はい。ソフィアと申します。
ミキコさまの侍女で御座います。
貴方さまには、基本ミキコさまと一緒に居ていただくようですので、必然的に私と一緒にいる時間も多くなるかと思います。
よろしくお願い致します。
しかし、一先ず今は、ミキコさまのお部屋には陛下が入れて下さらないでしょう。
何か召し上がりますか?」
「そうだな、何か食べてみよう。
我のことは、マリイと呼んでくれ。
よろしく頼むよ」
ソフィアと毛玉は、連れ立って厨房に向かった。




