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森の匂い 〜月の乙女の謎と、逆魔術の呪い〜  作者: 静寂
第11章 魔法円
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魔法円4

 仕方がなくやって来たという青い毛玉は、言い終わるとポーンとボールがはねるようにミキコの所にやって来た。

 アルカスの後から事の成り行きを見守っていた実季子は、いきなり飛んできた毛玉に驚きはしたが、スポッと胸元にキャッチする。

 マリイは、実季子の腕の中でクンクン鼻をさせていたが、その真っ黒でつぶらな瞳で実季子を見上げた。


 可愛い〜……

 スゴい、モフモフ


 実季子は、マリイの体を優しくなぜなぜしながら、目尻が垂れ下がった顔でニッコリ笑った。

「ふむ。やはり、御主から気配を感じるな。

 何者ぞ?」

 腰に響くような低いイケボで、青い毛玉が実季子に聞いてくる。

「え?私?実季子です。人間だよ?」

 人間だよって、自己紹介って如何なのよ。

 そう心の中で一人突っ込みながらマリイをナデナデしていると、アルカスが大きな手でマリイを引っ掴み大魔女の方にポイと放り投げた。

「ウギャ!なっ……何をする。

 我は、カオス神の第1の……」

 文句を言う毛玉に向かって、目だけでジロリと睨んで黙らせる。

「何時までも、ミキコに抱かれているな。

 ミキコは、彼女の国の月の神の守護がある。

 ミキコの魔力も、その月の神に影響されている。

 御主が言っている荘厳な気配とはその神の気配のことだろう」

 実季子は、アルカスとマリイのやり取りが可笑しくてクスクス笑った。

 一年ぶりに元の世界が見られると分かって、実は昨日からずっと緊張していた。

 色んな覚悟もしたし、肩に力が入りまくっていた。

 でも、マリイの中の人は神様の第1の使いのようだけど、外側と丸っきり逆みたいで、返って癒される。

 肩の力も抜けて、目を閉じずに現実を見れそうだ。

「さて、じゃあ、交流も充分図れたようですし、早速働いて貰いましょうか?マリイ」

 アルカスと、マリイがぶつぶつ言い合っているのを、大魔女がぶった切る。

「そうさね。こう見えても忙しいんだよ。

 説明するから、よくお聞き。

 ミキコは、この世界の人間じゃない。

 異世界から強引に連れてこられた娘だ。

 で、今回はその異世界の様子を鏡に映して見せて欲しいのさ。

 お分かりかい?」

 森の魔女のザックリな説明にも、マリイは、コクコクと頭を立てに揺らして頷き、大魔女の手からゆるゆると飛んで、また実季子の腕の中に戻った。

「よし。

 良いぞ。この娘の元の世界をその魔法円の中に映せば良いのだな。

 ふむ……さほど難しくなかろう。早速やるぞ。

 ミキコ、我と手を繋いでおれ」

 実季子は、言われたとおりマリイの丸っこい手を握る。


「カオス神の力よ。空間をゆがめ、こなたと、そなたを繋げよ。

 カイロス神の力よ。時を見積もり、こなたと、そなたを流れよ。

 ラケシス神の力よ。運命の糸をたぐり寄せ、こなたと、そなたを導け。

 我、マリイが名の下に」

 静かに詠唱が終わると、マリイがボンヤリと青白く光り、マリイから発せられる光が一筋の光りの道となって魔法円に注がれる。

 魔法円は、七色に光っていた光りがフワリと青色に変わり、次には画質の悪い古いTVのように実季子の実家を映し出した。

「私の家だわ……」

 呟くように言葉が零れ出て、フラフラと魔法円に向かって歩き出す。

 魔法円の中に実季子が踏み込んでしまわないように若い魔女達が実季子の前にはだかった。

 後から、アルカスが優しく実季子の腰を抱く。


 

 実季子の実家、古い日本家屋の家は、門が二つある。

 住居スペースの入口の門と、道場に出入りする門だ。

 昔は一つだったのだが、道場に来る子供達が、母が丹精込めた庭でいたずらをするので、父が門を分けたのだ。

 時刻はこちらと同じく、昼過ぎなのか明るい光が刺しており、通りには人通りがない。

 しかし、しばらくすると家の門の方から父が出てきた。

「お父さん……」

 少し疲れたように見えるが、足取りもしっかりしており、元気そうだ。

 実季子は、小さくため息をついた。

 道着を着た父は、そのまま道場のほうに入って行き、門は閉められる。

 一人で稽古をするのだろう。

 

 画像は切り替わり、家の中の台所と居間を映し出す。

 少し薄暗い居間の中で、いそいそと動き回る人影が見える。

 母だ。

 実季子が知る面影よりも痩せてしまって、一回りほど小さいようにも見える。

 しかし、母も台所の中をせかせかと動き回り、片付けをしているようで、その忙しなさは以前通りに見える。

 両親とも案外元気そうで、ホッとした気持ちになったが、何となく、置いていかれたような寂しさが胸の中の隅の方で小さく主張する。

 でも、アルカスがずっと実季子を抱いていてくれて、いつもの森の香りが実季子を包んでくれているからなのか、思っていたよりもずっと、冷静に元の世界の様子を見れている。

 何とも言えない不思議な表情をしている実季子に、マリイは、

「もう少し時間を先にしようか?」

と、問いかけてきた。

 魔法円の中を見つめたまま、一つ頷くと、早送りをするように画像が流れて、停まった。

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