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森の匂い 〜月の乙女の謎と、逆魔術の呪い〜  作者: 静寂
第11章 魔法円
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魔法円3

 魔法円は、昨日と同じく大広間の中央で虹色に輝きながら、色が混じり合いパチパチと水面が弾けて、微かに波打っていた。

 実季子が、炭酸のように弾ける水面を眺めていると、大魔女と森の魔女が連れ立ってやってきた。

 何人かの若い魔女も一緒だ。

 その若い魔女の中には、昨晩アルカスに部屋に突撃された者も居て、実季子の後ろに一言も喋らず、表情を消したまま壁のように聳え立っているアルカスを見て、ビクビクしている。

「ミキコさま、ごきげんよう。昨夜は良くお眠りになられましたか?」

 大魔女がにこやかに挨拶をしてくる。

 昨夜と言われて、アルカスに部屋でキスをされたのを思いだした実季子は、顔が熱くなるのを隠すように、弱冠うつむき加減になりながら、大魔女に挨拶を返した。

「ごきげんよう。大魔女さま。

 えっと……、はい。

 あの、眠れました」

 実季子の様子と、しどろもどろの挨拶を受けて、大魔女は口角を緩やかに上げて頷いたが、彼女の後ろにいた森の魔女は、揶揄うように笑いながら、三日月型に緩めた目で実季子を見た。

「キヒヒヒヒッ。

 なんだい、顔が赤いねぇ。この部屋は暑いかい?

 それとも、違う理由があるのかねぇ」

「なっ、やっ……。

 あの、いえ、何もありません。森の魔女!」

 ますます赤くなった顔で、森の魔女に食ってかかる実季子を、包み込むようにやんわりと自分の方に引き寄せると、アルカスは低い声で、森の魔女を制す。

「ミキコを揶揄うな」

「はい、はい。分かったよ。

 さぁ、じゃあ、始めようかね。

 準備にも時間が、ちっとばかしかかるしね」

 アルカスに向かって両手を挙げるポーズを見せながら、森の魔女は、若い魔女達に目線で合図を送る。

 彼女達は小さく頷くと、お互いに目配せをして魔法円の周りに陣取る。

 着ているローブのフードを目深に被ると、何やら呪文めいたものを唱えはじめた。

 それは、実季子には始めて聞く言語で、なにをいっているのかは不明だ。

 そこに、森の魔女が美しい硝子の小瓶に入った液体を、魔法円の中にトポトポと注ぐ。

 すると、七色に輝いていた水面は更にうねりを増し、パチパチと音を立てて弾けていた泡は、大きな気泡となってボコボコと音を立て始める。

 大魔女が手の平を魔法円に向かって翳し、召喚術を唱えはじめる。


「時を総べる カイロス、空間を総べるカオス、運命を総べるラケシスよ。

 大魔女ベレニケの名の下集い、我が願いを聞き入れよ」

「この国に住まいし時の精霊、狭間の精霊、定めの精霊よ。

 我が名は森の魔女、キテラ。

 我が願いを叶えるため我が元に集い力を振るえ」


 同じくして、森の魔女も精霊を召喚しはじめる。

 締め切った部屋の中なのに、徐々に風が吹いて渦巻き始め、程なくして風は轟々と音を立てて、吹き荒れるようになった。

 アルカスは、後ろから実季子を覆うようにして抱きしめる。

 実季子もアルカスに縋りつくようにして立っている。

 そうしないと、飛ばされそうなのだ。

 チカチカと沢山の小さな光が瞬きながら高速で宙を舞っているのが見える。

 あれは何?

 魔法円の中の水は、大きく波打って宙で渦巻き始める。


「「これに集いし数多の力よ。我らと契約し、その偉大なる力を分け与えよ。」」

「時は空間と、2つは運命と手を結べ」

「時は時として、狭間は狭間として、定めは定めとして、其れ其れの力を集結せよ」

「「今ここに、我らの名の下力を振るえ!!

 プロスクリスィ!」」


 ドドーンと、地を震わせる音が響き渡り、魔法円の水面が上に向かって水柱をあげる。

 その水柱の中心から上に向かって何か青くて丸い物が飛び出してきた。

「うきゃあ!」

 実季子は、変な叫び声を上げてアルカスに更にしがみつく。

 アルカスは、実季子を背後に庇うと手を剣の柄にかけて身構えた。

「キュイーン」

 その丸い物は、ひと声甲高く鳴くと、大広間の中を目にもとまらぬ早さでグルグルと周り、暫くするとチャプチャプと小さく波打っている魔法円の上の宙でピタリと止まった。

「あれ?……なんか……」

 青くて、丸い物をみた実季子は、小さく声を上げた。


「我を呼んだのは誰じゃ?

 我に何をさせようと望む?」

 低く、重々しい口調でその丸くて青い物体は口を開いた。

 まるで青いモップのようにもふもふの毛を蓄えて、直径15センチほどの体からは、丸っこい手足が生えている。

 長い毛の隙間からは丸くてクリッとした黒いつぶらな瞳が此方を伺うように覗いている。


 カッ……カワイイ!!!思ってたのと全然違う

 龍とか、鳳凰とか、ホワイトタイガーとか、そんなのを想像していたのに、まさかの青い毛玉とか……

 なのに、声はイケボとかギャップがありすぎる

 ステキ!モフモフしたい!!


 アルカスの後ろから青い毛玉を覗き込みながら、内心、密かに悶える。

「私は、大魔女ベレニケ。

 我が召喚に応じていただき感謝いたします。

 して、あなた様は何の化身か?」

「我は、空間を総べるカオス神の第1の使いマリイ」

「ふむ、カオス神の使いとな……。

 我らが喚んだのは、時間の神カイロスと、運命の神ラケシスも力を乞うたのだがな」

 大魔女は、神の使いと名乗る毛玉と対等に話している。

「神々は忙しいのだ。

 心配するな。我が代わりに力を使うように言いつかっておる。

 こんなナリだが、我はカオス神の第1の使いだ」

「キケケケ……御主、格好を気にしていると言うことは、その見た目が周りに与える影響を分かっていると言うことかい?」

「無論だ。しかし、この形代しか残っていなかったのだ。

 先にも言ったように、神々は忙しい。

 それに伴って、我ら使いも同様に忙しいのだ。そこに、急な召喚が入ってきた。

 御主ら、思いつきで我が主人らを喚びだそうとしただろう?しかも、3神も……。

 普通は、何カ月、時には何年もかけて召喚術を行うようなレベルなのに、いきなりすぎるのだ。

 本来ならば、喚び出しには応じないのだが、えらく高い魔力量が込められていて、更には何やら荘厳な気配が混じっている。

 様子だけでも探って参れと言われ、仕方が無いので、我が参った」

 マリイと名乗った毛玉と大魔女、森の魔女の間で会話が弾んで(?)いる。

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