表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森の匂い 〜月の乙女の謎と、逆魔術の呪い〜  作者: 静寂
第10章 ウピロス領
91/149

閑話 メッセージカード

 シメオンから、特急便で書簡が届いた。

 実季子に。

 ペラスギア国営通信局の、特急便専任配達員から、直接受け取ったぶ厚い封筒を両手に握って、首を傾げる。

「ねぇ、アルカス。

 シメオンって、タブラでアルカスの代わりに執務をしてるんだよね?

 アルカスじゃなくて、どうして私に特急便が来るんだろう?」

 部屋で書類を読んでいたアルカスは、読みかけの書類を机の上に放り投げると、実季子が座っているソファの横に来て座った。

 

 何だか、距離が近いような……いや、近い。

 あの夜更けの大騒ぎから、何かにつけてアルカスの距離が近い。

 アルカスに、一生一緒にいて欲しいと言われて、返事をしたわけだから、その時点で婚約は整ったらしい。

 本来なら、王都から大々的に帝国中に布令が出されて、城下などはお祭り騒ぎになるし、結婚式の日取りや、ドレスや宝飾品、披露宴等の諸々を決めるために大忙しのはずなのに、プレギアースのせいで落ち着いてからになってしまうなんて……ああ………ミキコさま、お許しくださいませ。

 と、ソフィアに涙目で縋られてしまい、やっぱり、大事になるんだなぁと遠いところを見つめたのは昨日のことだ。


 婚約者なのだから、距離が近くても問題ないんだろうけど、耐性のない実季子はドキドキしっぱなしなのである。

 おまけにアルカスは、部屋が離れているのが気に入らないと、アルカスの部屋の横に、実季子の部屋を移させた。

 流石に、夜は別々の部屋で眠っているけれど、会議でも無い限りは、執務は殆ど部屋で行っていて、実季子はお茶の度にアルカスの部屋に呼ばれる。

 今だって、大した書類じゃないから居ても良いと言われて、御茶は飲み終わったのに実季子はソファでお茶菓子を摘まんでいたのだ。

「何だろうな?

 特急便で送ってくるくらいだ。何か急ぎの用なのだろう。開けてみたらどうだ?」

 コクリと頷いて、封書を開けると、中から四角いプレートのような物が出てくる。

「なに?これ?」

 アルカスは、実季子の手を取ると、プレートの上でその手をかざした。

 すると、白いプレートの上に20㎝程の大きさのシメオンが現れる。

「VR!」

「ヴィ…アール?

 ……これは、再現の魔術だ。

 メッセージや行動をこのプレートの上で再現させることが出来る。

 微力な魔力で再生可能だ。だから、実季子の手から出ている魔力に反応して出てきたのだ。」

 プレートの上のシメオンは、深々とお辞儀すると、顔を上げて実季子の方を向いた。


 凄いな

 ただ再生されるだけじゃなくて、届けたい相手の方を向くんだ!

 

 何だか小っちゃいシメオンが可愛くなってきて、姿勢を正すと、少し首を前に倒してシメオンを覗き込むように向き直る。

「ミキコ、近いぞ。もっと離れろ」

 アルカスは、まるで、実季子が危険物を覗き込んででもいるかのように警告すると、実季子が膝の上に乗せていたプレートを取り上げて、前のテーブルの上に置き直す。

 後ろでひっそりと控えていたソフィアは、全くもって心の狭い主人のその行動に、顔に出ないように注意をはらったものの、眉があがり、ほんの少し目を眇めてしまった。

「アルカス、これって、私がどうぞって言わないと始まらない?

 シメオン、私のこと待ってるのかな?」

 口をゆがめて、鼻に皺を寄せ、気に入らなさそうにプレートの上のシメオンを威嚇していたが、実季子に見つめられて、途端に表情を緩めたアルカスは、嬉しそうに説明している。

「そうだな。再現の魔術に、視認の魔術も掛けてあるんだろう。

 色々な魔術を掛けて複雑な動きをさせることも出来る。

 また、かけた者が込める魔力量によって再生させる時間や回数も変わってくる。

 逆に、一度きりの再生で終わらせることも可能だ。

 魔術のレベルを見るのに都合が良いんだろうな。魔術学校で出される課題にもなってる」

「へぇ……面白そう。私もやってみたいな。

 あっ、じゃあ、シメオン。どうぞ始めて。」

 実季子は、プレートの上の小さなシメオンを促す。

 やっと、発言を許されたシメオンは、再度、お辞儀をすると、喋りはじめた。

「ミキコさま、陛下とのご婚約が整ったと知らせがありました。

 誠におめでとう御座います。

 此方の世界に残る決心をして下さったばかりか、陛下と共に歩む決心をなされましたこと、我がペラスギア国民にとっても、幸甚の至りで御座います。

 ミキコさま、我が忠誠は終生貴女様にお誓い致します」

深々と頭を垂れると、シメオンの後ろには小さな花火がポンポンと上がった。

「わぁ!!!綺麗。

 凄い!こんなことも出来るんだね」

 実季子は、キラキラした目でシメオンからのメッセージプレートを眺めて、胸の前でパチパチ手を叩いた。

 アルカスは、また鼻に皺を寄せて苦虫をかみつぶしたような顔をしたが、ふっと表情を緩めると実季子の顔を覗き込む。

「ミキコ、私がもっと凄いのをやるぞ。

 どんなのが良い?もっと大きなプレートの上に城を建てるか?

 それとも、美しい街を作ろうか?

 いや……プレートの上の幻などではなく本物を贈ろう!

 何処か、景色の良いところに離宮でも建てるか?

 場所は何処が良い?今度、共に見に参ろうぞ!」

 名案を思い付いた自分を褒めて欲しそうに、キラキラした目で実季子を覗き込みながら、嬉しそうに言うアルカスに、実季子は盛大に腰が引けた。

 どうも、真面目に言っているらしい。

 皇帝陛下、恐ろしい子……。

 でも、もっと恐ろしいのは恋に浮かれている自分の目だ。

 そんなアルカスが可愛く見えて仕方が無い。

 頭の中が、やられているかもしれない。

 実季子は、苦笑いを浮かべながら頭を振った。

「ううん、何も要らないよ。

 アルカスが側にいてくれたら、それで十分だよ」

 そう言った実季子を、アルカスは、暫く固まって見つめていたが、次の瞬間、ガバリと覆い被さるように抱きしめた。

「きゃあ!」

 後ろで静かに控えていたソフィアが慌ててアルカスを剥がしにかかる。

「陛下!ミキコさまが潰れてしまわれます。

 それにまだ、ご結婚前で御座いますよ!陛下、陛下!!!」

 アルカスの部屋にソフィアの叫び声と、

「苦しい〜」

と言う実季子のくぐもった声がこだました。


 実季子へのメッセージカードのほかに、もう一通シメオンから、アルカスへの短い報告書が届いていた。

 シメオンが送り込んだ月の水に関してだ。

『諜報員から連絡がありました月の水に関して、ご報告申し上げます。

 件の月の水は、エラトス殿下の使いだという者から依頼を受けました。

 その者は、まず、カラノス大公閣下が帝国を裏切り、プレギアースに内通していたと申しました。

 そのため、陛下が心労から体調を崩され、軍を指揮するのにも支障をきたすと。

 カラノス閣下がプレギアースに内通していたとしても、私が顔を見たこともないものが伝達にくるだろうかと疑問には思いましたが、月の水を送るのに特にデメリットはないと判断致しました。

 カラノス閣下の裏切りの真偽については、諜報員に調べさせましたところ、残念ながら裏が取れました。

 また、この会話の内容をミキコさまが偶然に耳にしていたようでございます。

 ミキコさまを、元の世界に返さないためのプレギアース側の小細工かと思われます。

 折角、お気持ちが決まりこちらの残る決心をされたのですから、このことはミキコさまには御内密に。

 因みに、私に報告を持ってきたネズミは城の中でウロチョロとしております。

 必要であれば捕まえますので、ご命令を。

 寒い日もありますので、ミキコさまが、お風邪を召されないように気を付けて差し上げてください。


 シメオン』


 シメオン……あいつ、プレギアースが仕掛けた罠を都合よく利用したな。

 シメオンが、ミキコを元の世界に帰したくないと思っていたのは分かっていた。

 帰すなと言われたこともある。

 しかし、結局ミキコの気持ちを優先したんだなと思っていたのに、なんて食えないやつなんだ。

 そんなシメオンもミキコには悪く思われたくないんだなと思うと、可笑しくなってくる。

 カラノス大公のことに関しても、アルカスにはそうショックでもなかった。

 寧ろ、今までの疑問が一気にクリアになった気分だ。

 以前から、かなり近い内部の者の中に裏切り者がいると思っていた。

 身内と呼べるもの達を疑いたくはなかったが、どうにも説明がつかないことが多々あった。

 どうすれば尻尾を掴めるのかと悩んでいたのだ。

 プレギアースは、ラキアに攻め入ったことによって、もう内通者の正体を隠す必要はないと判断したのだろう。


 愚かなことだ……プレギアースも、カラノス叔父も……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ