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森の匂い 〜月の乙女の謎と、逆魔術の呪い〜  作者: 静寂
第10章 ウピロス領
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たくらみ1

 アルカスは、訳もなく胸騒ぎがして、実季子の部屋を訪ねた。

 が、部屋は真っ暗で実季子ばかりか、ソフィアもいない。

 ここの所、食堂には来ないで部屋で食事をとることが多かったが、今日は食堂に来ていた。

 なぜか、柱の陰に引っ込んでしまったが……。

 食欲がないようだとソフィアから報告を受けていたが、今日は食べられたのだろうか?

 しかし、実季子に避けられているような気がする。

 何故なのか考えてみたが、答えは分からない。

 仕方が無い。

 このウピロスの城に来てから、忙しすぎて実季子とは、全く話せていない。

 後で、部屋を訪ねようと、湯浴みも終わっただろう時刻に部屋を訪ねれば、部屋の中には誰もいない。

 

 一体こんな夜更けに何処に行ったのだろう?

 ソフィアを伴って散歩にでも行ったのだろうか?

 

 穏やかな風が吹いてきて中庭の花の香りを運んでくる。

 廊下を歩いていると、ローブを来た魔女らしき若い娘が二人、廊下の隅で何やら話し込んでいる。

 人狼族はどうにも耳が良すぎるので、あちらがコソコソと話していても、更に、此方もなるべく気にしないようにしていても、なぁんとなく話の端々が聞こえてきてしまう。

「森の……さまが、大魔……に……られて、……スーパ……ブレ ……ーンの……月の……めを元の……って、話をされて……なのよ。」

「じゃあ、大魔女………月の……を、……世界に……って……わけ?」


 なんだ?

 森の魔女がどうかしたのか?

 月の何だって?

 

 そう言えば、今日は魔女達が大魔女に呼び出されて、会議を行うと言っていたな。

 プレギアースとの開戦が間近に迫っているため、魔女達も後方からの呪文による参戦と、負傷者の救護を引き受けて貰う話になっている。

 そのための会議だろう。

 

 しかし、その会議に月の何某かの話が出るのか?

 

 ついつい気になって、廊下の角を曲がると、本格的に聞き耳を立ててしまった。

「じゃあ、やっぱり月の乙女は、元の世界に?」

「そうなのよ。

 で、大魔女さまが力をお貸しになれば、まぁ、先ず大丈夫だろうって森の魔女さまが、仰って。

 儀式をされるらしいわよ。

 ほら、今夜は満月だし」

「森の魔女さまは、陛下の月の乙女に対する態度が気に入らないって仰ってたわ。

 陛下のために、この世界にお残りになったのに、陛下は、月の乙女の事を少しも大切にしていないって、怒ってらっしゃって。

 おまけに、月の乙女のことを愛してないんだろうともおしゃっていたわ。

 儀式については、月の乙女も納得されてるって。

 で、それを聞いて、大魔女さまも納得されたのよ」

 若い魔女達は、会議終わりに小耳に挟んだのであろう話をしていた。

 そこに、ヒタヒタと足音が聞こえ、もう一人の声が交じった。

「あなた達、こんな廊下の端っこで何をヒソヒソと話してるの?

 早く部屋に戻りなさい」

 落ち着いた声が聞こえると、若い魔女達のハーイと言う間延びした声が聞こえて、軽い足音が廊下に響いて、消えて行く。

 反対の角を曲がった廊下の壁ぎわでは、アルカスが、頭を殴られたようなショックを受けていた。

 

 今、あの若い魔女達は何と言っていた?

 月の乙女が大魔女の力を借りて、元の世界にどうするというのだ?

 なぜだ?

 ミキコは、自分とこの世界で一緒に生きていってくれる決心を付けたのではないのか?

 

 自分が狂狼となってしまったときに、草薙の剣を持って、敵陣で勇敢に敵兵と相まみえてくれたのは、自分の事を好きだからだと思っていた。

 自分が起きれないうちに、好きだと、一緒にいたいと言っていたではないか。

 

 しかも、私がミキコのことを大切にしていないだと?

 愛していないだって?

 兎に角、ミキコを探さなければ!

 森の魔女の部屋か?

 大魔女の部屋か?

 

 アルカスは、自分達が滞在している棟とは別棟の魔女達が滞在しているであろう部屋を一つ一つドアを叩き始めた。

 ドンドンと、荒々しく扉を叩くと、そっと薄く扉が開き、若い娘が恐る恐るといった風に此方を覗く。

 アルカスは、薄く開いた扉を力任せに開いた。

「きゃあ!


 陛下?なっ……何のご用でしょう?」

 相手は、先ずアルカスに驚いて、しどろもどろに用を聞いてくる。

「ミキコは?森の魔女はいるか?大魔女は何処だ?」

 焦って、一度に質問するが、皆同様に目を瞬かせながら、一度首をひねり、その後横に振って否定の意味を示す。

 そうするとアルカスは、すぐさま隣の部屋のドアを叩くのだ。

 5部屋くらいドアを叩いたときだろうか……。

 廊下を足早に、少し年配の落ち着いた風貌の魔女がやってきた。

「陛下!幾ら陛下といえども、若い娘の部屋をこんな時間に訪ねて回って貰っては困ります!

 おやめください」

 その魔女にピシャリと言われて、アルカスは眉間にしわを寄せながら反論した。

「しかし、ミキコが居ないのだ。

 森の魔女と、大魔女が連れて行ったのだろう?

 何処にやったのだ!今すぐ返してくれ」

 年嵩の魔女は、深くため息をつくと、

「ミキコさまは、存じ上げませんが、大魔女さまなら、今夜はフルムーンの儀式をなさっているはずで、大広間に……」

 年嵩の魔女の話が終わらない内に、アルカスは、大広間に向かって走り始めた。


 大広間の絨毯の上に魔法の杖で魔法円を描くと、森の魔女がその中心に泉の水をドポドポ注ぎ始める。

 絨毯の上のはずなのに、水は魔法円の上で広がりまるで小さな池のように水が張り鏡のように燦めき始めた。

「これで、こことタブラの森の泉は繋がりましたよ」

 大魔女はそう言うと、ミキコに向かって優しく微笑んだ。

 魔法円の上の水は、七色に揺らめきグネグネとマーブルのような模様になっている。

 実季子は首を伸ばして水の中を覗き込もうとしてみたが、キラキラ輝いて眩いばかりだ。

 更に、時折フワリと霧のように立ち上がる。

 何て不思議な光景なんだろう。

 ぼんやりと虹色に光る水面を見ていると、大魔女と一緒に一心に呪文を唱えていた森の魔女がパッと顔を上げた。

 スゥーッと実季子の方に寄ってくるとニンマリ笑いながら実季子の腕を掴んだ。

「さぁ、ここへ早くお入り。

 でないと、あの銀狼が来てしまうからね」

「え?アルカスが?どうして分かるの?

 それに、ここって……」

「あの、男にはちとキツい灸を据えねばなるまいと思っていたんだよ。

 さあ、良いから早くお入りよ!」

 森の魔女は、力任せに実季子の体を押した。

「あ……、きゃぁ……」

 森の魔女に押されて、実季子の体はかしいだ。

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