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森の匂い 〜月の乙女の謎と、逆魔術の呪い〜  作者: 静寂
第10章 ウピロス領
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ゴレンジャーと ムカデ

 翌朝、アルカスから手紙が届いた。

 昨夜の夕食の時に起こった蜥蜴事件のことを知ったと書かれてあり、城の中で実季子の素晴らしい行いが噂になっていると、実季子を誇らしく思うと書かれてあった。

 また、到着早々、とても忙しく実季子との時間が取れないことを詫びる内容だった。

 早速、実季子も、返事を書くことにする。

 昨日のことは、当然のことをしたまでで、皆に褒められて返って気恥ずかしいこと、アルカスが忙しいのは仕方が無いのだから、私のことは気にしなくて良いこと、ちゃんと食べてなるべく睡眠もとって欲しいとしたためた。

 カサンドラが部屋に来たことは書かないでおく。

 忙しいアルカスを煩わせたくなかったからだ。

 そして、ソフィアにお願いしてアルカスの侍従に渡して貰った。

 

 昨夜のことがあったので、朝食は部屋に運んで貰い、部屋でとることにする。

 誰か、手の空いている人と剣の稽古でもしたかったが、場所の確保や、アルカスの許可がなければ、聞き入れられませんとソフィアに言われて、悩んだが、またアルカスに手紙を書く事にした。

 今度は、剣の稽古をしたいこと、誰か手が空いている人にちょっと付き合って貰えれると有難いこと、そして、忙しいアルカスにこんなことを頼んでごめんなさいと、締め括った。

 

 昼食後、ソフィアと庭を散歩していたときだ。

 寒い季節とはいえ、天気が良いと日差しが暖かいウピロスの気候は、植物にも優しいようで、城の庭にはいろんな種類の花が所狭しと咲いている。

 ほのかに優しく甘い香りが、緩く吹いてきた風に煽られ実季子の鼻を掠める。

 ふと目の端にひどく人工的な色を捉えて顔を上げると、向こうから、ひときわ目だつ赤色のドレスを着た人物を中心に数人のご令嬢がやって来た。

 カサンドラを中心に、ブルーやグリーン、黄色のドレスを着たご令嬢たちだ。

 皆、質の良い生地をたっぷりと使い、レースやフリルをふんだんにあしらった、凝った意匠のドレスだが、如何せん色の組み合わせが悪い。

 赤に青に緑に黄色。

 本人達は、客観的に見れないから分からないのだろうが、これにもう一色交じれば戦隊モノの"ゴレンジャー"だな……とチカチカする目を瞬かせながら心の中で思った。

 案の定、カサンドラ達は実季子の方にやって来た。

「まぁ、御機嫌よう。

 誰かと思ったら、月の乙女様ではないですか。

 確か、お名前はミキコさまだったかしら?

 変わったお名前なのねぇ。

 お父様もお母様も、まともな名前を考えられないような知性のない方達なのかしら?

 お気の毒ですわ〜」

 はなから相手にするつもりは無かったのだが、これには、流石に実季子もカチンときた。

 ドレスの裾を摘まんで礼を取ると、受けて立つことにした。

「カサンドラさま、皆様、御機嫌よう。

 ご存知ないようですので、ご説明いたしますわね。

 私の国では、私の名前は漢字という言語で表記されますの。

 ミは、実る。

 キは、季節。

 コは、子供。

 私は、秋生まれですので、実る季節の子と書いてミキコと言いますのよ。

 色んな国や文化がありますから、ご存知ないのは仕方のないことですけれど、それぞれの違いを受け入れて、寛容な心で理解することが出来ると宜しいですわね。

 でも、ゴレンジャーには難しかったかしら?

 では、失礼致します」

 サッと挨拶すると、ソフィアと共にその場を去った。

 後ろで、悔しかったのかキーキー騒いでいる声が聞こえる。

 

 ゴレンジャーって、言っちゃったなぁ

 五人じゃないからヨンレンジャーだったのになぁ

 教養がないのと、ゴレンジャーは関係なかったなぁ


 とか、どうでも良いことを考えながら、興を削がれたのでそのまま部屋に戻る事にした。

 その日の夕刻にまた、アルカスから手紙が来た。

 剣の稽古は、アピテが空いている時間にしてくれるという。

 朝になるだろうから、迎えをやると言う内容だった。

 だから、また返事を書いた。

 忙しいのに、返事をくれたことに対して、ありがとう、アルカスに会いたいですって、書いた。

 同じ場所にいるのに、手紙でしかやり取りが出来ないなんて、寂しく感じるが、それでも忙しい合間にこうやって実季子のことを気にかけてくれていると思うと、つい顔がにやけてしまう。

 

 アルカスに早く会いたいな


 そう考えながら、眠った。


 翌朝、部屋で朝食をとっていると、アピテがやって来た。

 木剣を2本実季子に見せて、ニンマリ笑う。

「ミキコさま、やりますか?」

 実季子は、勢い込んで立ち上がって、椅子を倒してしまい、ソフィアに渋い顔をされた。

 忙しいだろうアピテに気を使って、軽く流す程度にして剣の稽古を終わらせ、廊下の手前でアピテと別れる。

 部屋まで付いていくと言われたけれど、階段を上がれば直ぐ見える部屋だ。

 大丈夫と断って、部屋に帰ると、ソフィアが片手を押さえて、床に散らばった布を足でダンダン踏みつけていた。

「ソフィア?何やってるの?」

「あっ!ミキコさま。お部屋に入ってはなりません」

「なぜ?」

「ムカデです。ムカデがたくさん」

 

 大変!ソフィアは、刺されたんだ

 

 直ぐに、扉近くにいた衛兵に部屋にムカデがいるから駆除して欲しいと頼む。

 そして、その辺りを歩いていたメイドを呼び止め、ソフィアがムカデに刺されたから侍医と、ムカデを駆除するための人手を寄こすように言うと、メイドは慌てて人を呼びに言った。

 ソフィアを部屋から出し、メイドが持ってきた水差しの水で腫れた患部を洗い流す。

 直ぐに医者と魔術師がやってきて、魔術師が治癒魔術をかけてから、医者が患部に薬草を塗ってくれた。

「明日の朝までは弱冠痛むかもしれませんが、その後腫れが引けば、問題無いでしょう」

 医師と魔術師は共に引き上げていった。

 部屋にいたムカデも駆除して、その後派手に散らかっていた部屋の中も、メイド達の手によって綺麗に整えられた。

 ソフィアは手が痛むだろうからと、実季子が入れた御茶を、今日は特別にソフィアも席について一緒に飲む。

「大したことなくて、良かった。

 コッチのムカデって大きいんだよねぇ……。姿だけでも気持ち悪いよねぇ。

 でも、どうしてこんなにムカデが?」

 そっと、ソフィアの腫れた手に自分の手を重ねながら尋ねると、ソフィアは一瞬、逡巡したようだが、話し始めた。

「ミキコさまの朝食の膳を戻しに厨房に行って戻って参りましたら、部屋のテーブルに布で包まれた物が置いてありました。

 若しや、陛下から何か届けられたのかと、確認しようと布を開けるとムカデが出て参りまして」

「手紙も何も付いてなかったの?」

「はい。何も付いてはおりませんでした」

「そう」

 実季子は、眉間にしわを寄せて厳しい顔で考え込んでいたが、やがてソフィアに顔を向けると、笑顔を浮かべる。

「でも、ソフィアが大したことなくて本当に良かった。

 なるべく、一人にならないようにしましょう。

 無駄だなと思っても私とソフィアと、一緒に行動しましょう」

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