表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森の匂い 〜月の乙女の謎と、逆魔術の呪い〜  作者: 静寂
第9章 戦の始まり
77/149

ペラスギア陣営1

 ペラスギアの陣営に戻ると、アピテは捕縛した逆魔術師を担ぎ上げて、他の天幕に向かった。

 他にも捕縛した捕虜がいるらしい。

 エラトスは、中央の天幕に入ってアルカスの身体を横たえる。

 漆黒の髪は元の銀髪に戻り、肥大していた筋肉も、浮き出ていた血管も、黒ずんだ皮膚の色も元に戻った。

 手足の長い爪も引っ込み、耳と尻尾も収まっている。

 瞳の色は、目蓋が閉じられたままなので確認できない。


「アルカス……」

 実季子は、横になったアルカスの胸にそっと耳を当てた。

 心臓は静かに脈打っている。

 良かった。

 ほんの少し安心すると、気が緩んでまた涙が盛り上がってきた。

 実季子の瞳は変わらず金色で、髪も金色のまま、実季子の頭の周りをふわふわと舞っている。

「変なの……」

 そう呟いて、瞬きをしたら、どうにか瞳の内側に留まっていた涙がパラパラ零れた。

「アルカスゥ……起きてよぉ。

 アルカス、お願いだよ……」

 堪えきれなくなって、アルカスに縋りついて泣いてしまう。

 エラトスは、気を利かせたのか何も言わずに、そっと天幕を出て行った。


「アルカス、好きなの。一緒にいたいの。だから、元の世界に帰らなくてもいい。

 アルが居てくれたら、こっちで頑張る。ワガママ言わないから。

 アルカスと、同じ世界に居られるだけで良いから。

 だから、お願い。目を開けて」

 涙がボロボロ零れて、鼻が詰まってグシュグシュの声で言葉を紡いぐ。

 実季子の涙が、寝ているアルカスの顔にもボトボト落ちて、アルカスの頬を濡らす。

 頬に涙が溜まっている。

 実季子は、アルカスに頬に自分の頬を押し当てて、グスグス泣いた。

 すると、なんだか、アルカスの体が強張ったような?

「グッ……」

 何かを堪えたような、短い呻き声がアルカスの喉を震わせると、頬と目元が赤く染まって、ゆっくりとアルカスが目を開く。

 実季子の好きな金色の綺麗な瞳が実季子を見ている。


 アルカスが、目を覚ました!!!


 何も言葉が出てこなくて、でも、嬉しくて、愛しくて、希望と幸福感が胸に押し寄せて、身体の中で、パチパチと炭酸水の泡が弾けているよう。

 実季子は、何も言わずにアルカスに抱きつく。

 深い森の奥、背の高い木々が天に向かって、聳え立つ幹と濃い緑の強い香りが、実季子の体にも絡みついてくる。

 その香りを纏うアルカスの太い首にかじりついて、ギュウギュウ身体を寄せた。

 その実季子の身体をギュッと抱きしめて、アルカスが低い声で囁く。

「ミキコ」

 アルカスの首筋に顔を埋めたまま、コクコクと頷いた。

「ミキコ、本当に、良いんだな?」

 念を押すように、実季子に問いかける。

 

 何が?

 

 実季子は、少し顔を上げるとアルカスの顔を覗き込みながら首を傾げる。

「元の世界に戻らなくても。此方の世界で、私と一緒に生きても構わないんだな?

後悔しないんだな?」

 まるで、実季子が先ほど呟いたことに念を押すように尋ねてくる。

「え?アルカス、いつから起きてたの?

 私が言った言葉、全部聞こえてたの?

 ……若しかして……、若しかして……、寝たふりしてた……とか?」

 耳まで真っ赤になりながら、実季子が聞く。

「いや、寝たふりをしていたわけではないぞ。

 ただ、耳は聞こえていたのだ。ミキコの言葉は、……全部聞こえた」

 照れくさそうに、嬉しそうに、口角を上げて笑いながら、実季子の髪を撫でてアルカスが答えた。

「ええ〜!」

 恥ずかしさの余り、アルカスから距離を取ろうとした実季子の身体に腕を巻き付けて、そのまま自分の体の上にコロンと乗せると、アルカスは、乱れた実季子の髪を耳にかけてやった。

 そして、実季子を抱きしめると、実季子の金色の瞳を覗き込んだ。

「ミキコ、私だって同じように思っている。

 だから、元の世界に帰りたいというミキコの重荷になりたくなかった」

 愛おしそうに、実季子の髪を一房取ると口づける。

「ミキコ、私と一緒に生きて欲しい」

 驚きと、恥ずかしさで、顔を真っ赤にして目を瞬かせている実季子の後頭部に、そっと手を回して、顔を起こすと、実季子の瞳を覗き込んだ。

 アルカスは、壊れ物にでも触れるように、そっと実季子の頬を包み込むと、オデコとオデコがくっつきそうな距離でジッと実季子を見つめる。

 しばらくの間、アルカスと実季子は見つめ合っていたが、アルカスが突然体を起こし、実季子をギュッと抱きしめると、長いため息をついた。

「これ以上は……、ヤバイ」


 ん?

 何が?

 

 アルカスにギュッと、抱きしめられている。

 頭がボンヤリして、アルカスの言った意味が分からず見上げていると、アルカスも赤い顔で実季子を見つめて、頭のてっぺんにチュッとキスされた。

 実季子は、みるみるうちに耳や首まで真っ赤になってしまう。

 恥ずかしくて、照れくさくて、アルカスの胸に顔を埋めて悶えていると、くるくるの金色の髪が、頭の周りをふわふわ踊るように漂って、髪同士が巻き付いたり、離れたりしている。

「この髪は、ミキコの気持ちを表しているのか?まるで、抱きしめ合っているようだな」

 フフッと、笑い声が頭上から聞こえて、見上げると満面の笑みのアルカスの顔が見えた。

 胸が、きゅうっとなる。

 

 綺麗だな〜

 私の好きな人は、こんなに格好いいんだ


 と思うと、幸せで、嬉しくて、実季子もアルカスに笑いかけた。

「アルカス、好き」

 自然に思いが口をついて出て、アルカスのキレイなアンバーの瞳を覗き込んだ。

 途端に、アルカスが口に手を当てて、目元が赤くなった顔を横に向けた。

「いかん、ミキコ。これ以上は……私の……グフ」

 変な声が口から漏れる。

 実季子は、アルカスが体調が悪くなったのかと焦った。

「え!アルカス、大丈夫?調子悪い?横になって」

 涙目でアルカスを寝かせようと、ぐいぐい押し倒してくる実季子に、アルカスは耳とシッポが出てしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ