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森の匂い 〜月の乙女の謎と、逆魔術の呪い〜  作者: 静寂
第9章 戦の始まり
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狂狼覚醒1

流血シーンがあります。

苦手な方は、ブラウザバックでお願いします。

 実季子が攫われたと連絡があってから、アルカスはほぼまともに眠れていない。

 いや、それ以前に城を出てから、実季子と離れてしまってからまともな睡眠を得られていない。

 いつもならば、光を集め神々しいほどに輝く銀色の髪は、風呂にも入らず、ここプレギアースの陣営まで強行してきたため、汚れて艶を失い、軋んでいる。

 着ている軍服は跳ね返った泥や、陣営に侵入する際に切り捨てた敵兵の血を吸って、元は美しい瑠璃青だった色が所々黒っぽく濁っている。

 肌も汚れてくすみ、目の下にははっきりとクマが浮かんでいる。

 しかし、金色の目だけは実季子を奪われた怒りと、彼女の安否が分からぬ不安で揺れ動き、爛々と光って正しく悪魔のように見えた。


「ミキコーーーー」

 とうに夜の帳がおりたプレギアースの陣営は、等間隔に置かれた篝火が周りを照らし、天幕が作る影を色濃くしている。

 その天幕の影からゆらりと大きな体を現したアルカスは、爛々と悪魔のような目を光らせ、低く太い咆哮を響き渡らせた。

 アルカスの後ろに控えていた、エラトスと、アピテは、目を剥いて、頭を抱えたくなる。


 この闇に乗じて、実季子の場所を密かに探り、実季子を助けてひっそりとペラスギア側に戻る……という作戦だったのでは?

 なのに、何を思って敵国の陣営のど真ん中で、我が皇帝陛下は大声を張り上げて、自分の居場所を知らせていらっしゃるのか?

 我が帝国(くに)の皇帝は、アホなのか?

 いや、アホだろう………


 案の定、その辺にいた兵士達が、ワラワラと集まってきて取り囲まれた。

「ディーネー」

 アルカスがつむじ風を起こす魔術を唱えながら、掌を水平にして空中を横にサーッと動かすと、取り囲んでいた兵達に向かって突風が吹き、散り散りに四方に飛ばされる。

 エラトスは、苦い顔になった。

 兄は滅多に魔術を使わない。

 魔術を使わずとも、剣でも、槍でも、素手でも兄に勝てる者はこの大陸上に居ないだろうし、兄の力を見せつければ、後々の戦いも兄に、即ち帝国に、簡単に挑もうなどと思わなくなるからだ。

 しかも、魔術を使うと当然だが、どんどん魔力量が減っていく。

 かなり魔力量の多いアルカスだが、無尽蔵にあるわけではない。

 枯渇すれば動けなくなるし、狂狼化が進む原因にもなるのだ。

 基本的に人狼族の体力は、無尽蔵と言われるほどだが、魔力量はあまり多くない。

 あくまでも、戦いの際に選択肢を広げるために、魔術を使えるように習得しているに過ぎない。


 やばいな

 完全に頭に血が上ってる


 敵兵は、アルカスに魔術で吹き飛ばされたが、何せ敵国の陣営なのだ。

 ストックはまだまだ居る。

 ワラワラ寄ってきて、またすぐに囲まれた。

 エラトスと、アピテがアルカスの前に出て剣を抜く。

 囲んでいる敵兵を薙ぎ倒し、前に進む。

「ミキコォォォォォーーーー」

 陣営の中央、目の前の他の天幕よりも大きな天幕の前で、再度アルカスが咆哮をあげる。

 またしても、頭を抱えたくなったエラトスとアピテだが、目の前の天幕で起こったことにそんな思いは霧散した。

 アルカスが叫んだ一拍後、天幕の垂れ下がっていた布の隙間から、金の光が内から漏れ射した。

 その刹那、ブワッと金色の風が天幕の布を吹き飛ばす。

 その光は、闇夜を照らす月の光の如く明るかった。

 その周りに居た者は皆

 -アルカスも含めて-、

 眩しくて目を開けていられなくなって、目を閉じた。


「アルカス」

 布が吹き飛んで柱だけが残る、天幕だった場所から聞こえた、実季子の声に反応して瞬きをしながら、目を開けると、透き通るような金色の瞳に、

 -幾度も愛しくて口づけたいと願った、くるくるの髪が金色に輝いて、まるで宙を舞っているようにふわふわ浮遊している-

 金の髪をなびかせた実季子が、森の魔女に小さくして貰っていたはずの草薙の剣を、元の大きさで手に握って立っていた。


 誰だ?

 あの金の髪の乙女は?

 いや、実季子に違いない…… 

 なぜ?

 ああ!月の乙女になったのか

 なんて、なんて、綺麗なんだ……


 驚きと、美しさに魅せられて動けず、実季子を見つめているアルカスの元に、走り寄ろうと実季子が一歩足を踏み出す。

 その後ろで、黒いローブを来た男が、蜃気楼のようにユラリと立ち上がった。

 男は立ち上がりざまに、呟く。

「マスタンパ」

 すると、男は黒い霧となって実季子の足元からまとわりつき、実季子の身体を黒い霧が覆い隠すように広がったのだ。

「ミキコ!」

 剣を抜くとアルカスは実季子の方に駆けた。

 しかし、霧の中から実季子の恐ろしい悲鳴が聞こえ、次に何かがアルカスの足元に飛んできた。

 その何かから、流れる赤黒い血が地面の土を汚し、どんどん広がり吸い込まれていく。


 人の腕だ。

 華奢な女性の。

 薬指に指輪がしてある。

 見覚えがある。

 グレーのスターサファイアの石の横に、小さなオレンジダイヤモンドが止まっている指輪。

 実季子が、アルカスの瞳のようだと言ったオレンジダイヤモンドだ。

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