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森の匂い 〜月の乙女の謎と、逆魔術の呪い〜  作者: 静寂
第9章 戦の始まり
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プレギアース陣営2

 すぐ近くまで足音が近づいた音と同時に、くるりと振り向き、相手に向かって足を踏み出す。

 体を捻る力を利用して、握っていた棒を思いっきり前に突き出した。

 後ろが見えなかったので、相手の何処に当たるかは分からなかったが、どこかを思いっきり突いてやろうと思っていた。


 兎に角、どこでも良い

 棒を当てて、相手を怯ませるんだ!


 ゴスッ!

「グェ!」

 蛙が潰れたような声が聞こえた。

 重い手応えとともに、相手に向かって突いた棒が当たる鈍い音がする。

 実季子が突きを繰り出したプレギアースの兵士は、油断していたのも相まって思いっきり腹を突かれて後ろに向かって飛んだ。

 しかし、それが良くなかった。

 飛んだ兵士の体はすぐ後ろの天幕に当たり、天幕の中にあった金属製の防具を根こそぎ薙ぎ倒した。

 この陣営にいる兵士達の防具だ。100近くはあるに違いない。

 ガラガラガラーン!!!

 そこら一体に響き渡る派手な音を立てて、兵士が仰向けに転がる。

 音に驚いた他の兵士たちが、そこかしこからワラワラと集まってくる様子が、実季子にはスローモーションのように見えた。


 あぁぁぁぁぁぁぁぁ…………

 やってしまった


 自分よりも体格の大きな、しかも鍛えられた兵士だから、まさか飛ぶとは思わなかったのだ。

 力負けしてはいけないと思って、思いっきり突きをかましたのがこんな結果になるなんて。


 泣きたい……


 いや、泣いてる暇なんてない。

 ワラワラ他の兵士がやってくるのだ。

 頭から被っていた布を引き剥がし、持っていた棒を構える。

 やってくる兵士達を前に、実季子は棒を振りかぶった。

 

 走りざまに胴を抜き、飛び上がって面を打ち、しゃがんで足を薙ぎ払った。

 相手は、曲がりなりにも国のために鍛えた兵士達だし、実季子が持っているのは、天幕を貼るためのただの棒だ。

 それでも、こちらが女でしかも小さいことが相手の油断を誘っているのだろう。

 実季子が想像していたよりは、相手は容易に倒れた。

 途中で、兵士たちが、

「その子、逆魔導士様が連れてきた子だぞ!

 怪我させたら、俺らの首と胴が離れちまうぞ!!」

 と言っていたから、みんな手加減したのかもしれない。

 硬い男達の体を、持っている棒でバンバン叩きのめす。

 ダイレクトに手に振動が伝わってきて、棒を握っている手が痛い。

 それでも、次々と彼らに打ち込んだ棒が当たるのは、なかなか気持ちが良かった。

 

 今まで、アルカスに擦りもしなかったのに、あのストレスが解消されるようだわ!


 楽しくなってきた実季子は、やってくる兵士どもを、次々と持っている木の棒で倒した。

 

 なんだ、プレギアースの兵士、弱っちいな

 こんな国境近くの陣営に、末端の兵士ばかり送って来てるんだろうか?


 途中、そんなことまで思ってしまった。

 そうではない。幼い頃から武道を体得してきた実季子は、身体能力が高く、そもそもが強いのだ。

 それに加え、ペラスギアにやってきてから実季子の剣の相手をしていたのは、大陸には敵う者はいないだろうと言われるアルカスや、軍の将軍であるアピテ。

 また軍の新兵とは言え、王宮にいるのは全ペラスギア軍、選りすぐりの親衛隊の騎士達だ。

 しかも、専属のトレーナーをつけて貰い、黙々と体幹トレーニングに励んでいたのだ。

 単純に実季子が強くなったに他ならない。

 プレギアース軍は、軍の兵士とは言え皆人間だ。

 人狼族の軍のトップばかりを相手にしていた実季子には、簡単には勝てないのだ。

 気分良く、バッタバッタとプレギアースの兵士達を倒していた実季子の耳に、馬車の中で嫌と言うほど聞かされた軋むような声音が聞こえた。

「マゴパ」


 あ!嫌だ


 と思った時には遅かった。

 ピクリとも体が動かない。

「ホスィイ」

 続いて声も出せなくなる。


 油断していた!

 打ち合いが楽しくなってきて、こいつの存在を忘れてた

 私は、なんて危機管理意識が低いんだ!

 

 そう後悔したけれど、声も出ず、体も動かせない。

 黒いローブのフードを被った男が合図をすると、後ろに控えていた大きな体の兵士がヒョイっと実季子を抱えて、また中央の天幕の中に放り込まれてしまった。


実季子が暴れてます。

もっと、暴れさせようかとも考えたんですが、彼女には、今後、暴れてもらいます。

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