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森の匂い 〜月の乙女の謎と、逆魔術の呪い〜  作者: 静寂
第2章 異世界?
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出会い4

 困惑顔の実季子の顔を見ながら、アルカスは実季子を見つけた時のことを説明してくれた。

「そなたはあの日、湖の畔で倒れていた。

うつぶせで髪が顔に覆い被さって、最初小さな少女だと思った。

着ていた服の腰の辺りが捲れていて青白く光っていた」

 実季子は、相槌を打つためにコクリと頷く。


 アルカスは、小さく息をついた。

「うつぶせになっていたから、生きているのかどうかを確かめるためにも、体を仰向けにしようとした。

 そうしたら、そなたの体から、光がパーッと丸く広がって、私とそなたを包み込んだ」


 アルカスは、両手を上下に回して円を描いた。

 腕の長いアルカスが両手を広げると、実季子とアルカスは空中で描いた円の中にすっぽりと入ってしまうだろう。

「球のように丸くなって、中にいると仄温かく感じた。どの位そうだったのか、良く分からない。

 そのうち、段々と狭まってきて、そなたの腰の辺りに引き込まれるように消えた。


 私が思うに、その光の球の中で、私とそなたの頭の中の、ある部分の情報が共有されたのかも知れない。

 私は他に4言語が喋れて、1言語が理解出来る。

 共有されたことによって、そなたは、喋れたり、理解出来るのではないだろうか?

 シメオン、ラキア語で喋ってみろ」


 シメオンは、ミキコの方を見る。

「ミキコさまはお幾つなのでしょうか?」

「私は、28歳です。秋には29歳になります」

 実季子が答えると、

「それはアッティーハー語だ」

と、アルカスに指摘される。


「えーっと、シメオンさんに話しかけられた音と対の音で返したつもりです。

 特段意識しているわけではなく、感覚的にしている感じです」

「そうか。エラトスは、理解出来たか?」

 アルカスに聞かれて、エラトスは、ソファの肘掛けに半分もたれながら、不機嫌そうに鼻に皺を寄せる。

「何でも共有出来りゃ、勉強なんかしなくて良いじゃ無いか」


「エラトスは、アッティーハー語は不得手だ。

 やはり、程度は分からぬが、共有出来ているようだな」

 アルカスは、実季子を見ながら、ほんの少し表情を緩めて見せた。



 笑ったのかな?

 ホッとした?



 イケメンを見慣れていないせいなのか、表情からはアルカスの気持ちが読み取れない。

 気は使ってくれているようだけど、アルカスは言葉数が少ない上に、基本無表情だ。

 目元も口元も、ほぼ動かない。



 皇帝という職業柄なのか、表情で読まれないようにしてるのかも……



 そんなことを考えながら、実季子は、じっとアルカスを見つめた。

 実季子と目が合うと、小さく咳払いをしたアルカスは、口を開く。


「人狼族。特に力の強い王家の血縁者には更に強い能力を持つ者が出てくる事がある。

 国家機密なので、詳細までは話せない。

 強い力を持つ代わりに、副作用的な症状が出る場合もある。


 それを沈めたり、癒したりした者が居たという文献が残っていて、その者を文献では、月の乙女と呼んでいた。

 そなたは、その月の乙女に特徴が似ているのだ。

 文献には、体の何処かに三日月形のアザあり、満月の光を浴びると青白く光る。と言う内容が書かれてある。

 実際、そなたが森で倒れていた3日前は、満月だったし、腰の辺りが青白く光っていた。

 そなたの腰の辺りに、三日月形のアザのようなものがないか?」


 実季子は、そっと右の腰をドレスのスカートの上から押さえる。

「あります。三日月だとは、思っていなかったけれど、そう言われれば、三日月っぽいかも。

 三日前の夜、それが、光っていたのですか?」

 アルカスに尋ねると、アルカスはパッと目をそらした。

「いや……光っているのは見たが、服の中まで改めていない」


「ミキコさま、わが国では女性が素肌をさらすのは、品位がないとされています。

 実際は、市井の者などは、働く都合上、足首が見える短めのドレスを着ていることはありますが、それでも、ソックスは履きます。

 そのため服の中を改める行為は、とてもいかがわしいことなのです」

 すかさず、シメオンが説明する。


「そう……ですよね。アルカスさん、すみません。

 その、月の乙女の事が詳しく分かれば、帰れるかと思ったんです。

 私……どうやって、ここに来ちゃったんでしょう。元の所に帰れるんでしょうか?

 父も、母も、兄達もとても心配していると思うんです。でも、連絡もつきそうにないですよね。


 だって、私の居た世界には、人狼は架空のお話しの中のものだったし、ペラスギアって国名も聞いたことありません。

 私の居た世界には、電気によって明かりがつけられていましたが、ここでは火を使ってますよね?」

 そう言って、段々と暗くなり始めた部屋の中に灯されたランプを指さす。


「それに、電話と言って、離れた場所の人に連絡を取る場合に使う通信機器もありました。

 交通手段は、車や電車と言った電気やガソリンと言う燃料をエネルギーとして動く、人が乗って操作できる箱型の乗り物もありました。

 此方の世界で気がついてから、数時間ほどたっていると思いますが、私の世界とはあまりにも違うんです。

 どうしたら良いのか、ただ、混乱するばかりで……」


 実季子は、ポツポツと話していたが、段々と声が震えて小さくなり、とうとう我慢が出来なくなり、涙がこぼれ落ちて話が続けられなくなった。

 泣き出してしまった実季子を、アルカスが気遣わしげに見つめている。

 シメオンは、立ち上がって新しいお茶を入れてくれた。


 ひとしきり泣くと、何だか落ち着いてきた。

 一先ずは、目の前の人達に助けを乞わなければいけない。

 借りたハンカチで鼻をかんで、おもむろに口を開く。

「すみません……泣いてしまって。

 あの、とても図々しいお願いなのは承知ですが、暫く此方でご厄介になることは可能でしょうか?

 私には、この世界の知識もありませんし、ここを追い出されてしまうと、たちまち生きていくことも叶わなくなるかも知れません。

 何が出来るのか、やってみないと分かりませんが、お掃除や、お料理等の仕事を貰えれば有難いです。

 文句を言わず、真面目に働きますので、よろしくお願いします」

 そう言って頭を下げる。


 泣いていても、腹は膨れないし、助けが来たりしない。

 実季子には、金も知識も、ましてや今夜寝るところもない。

 実季子の家は、男系で武道の道場をしていたこともあってか、小さい頃から厳しく躾けられた。


 悔しいことや悲しいことがあれば、泣くのは構わないが、泣き終われば涙を拭いて顔を上げ、周りが見えるように前を向け。

 でなければ腹も膨れず、歩けもしない。


 と、良く父に言われた。

 そんな実季子をアルカスは、硬く口を結んでじっと見ていたが、シメオンは、面白そうな目でジロリと実季子を眺め入る。

 エトラスだけは、この話し合いが始まってから、終始苦虫をかみつぶしたよう顔をしていて、それは今も変わらない。

 ジロリ、ジロリと上から下まで実季子を見ていたシメオンが口を開く。

「あいわかりました。

 ミキコさまの今後のことについては、私にお任せ下さい。

 此方の世界で、ミキコさまが困らないように責任を持って対処いたします。

 一先ずは、今夜は元のお部屋でお休みになられるのが良いでしょう。

 もう時間も遅いので、お部屋でお食事が取れるように手配いたします。良いですか?陛下?」


「うむ」

 隣で、実季子の話に耳をかたむけ、じっと実季子を見ていたアルカスは、眉間に皺を寄せたまま頷く。

「私はシメオンと話がある。エラトス、彼女を部屋まで送って行ってやってくれ。

 それと、そなたが此方に来た状況を探らせてみよう。そなたの世界に帰れる糸口も掴めるかも知れない。

 何か分かれば教えると約束する」

と、つなげた。


「アルカスさん、ありがとう御座います。

 よろしくお願いします。」

 実季子は、涙声でアルカスに礼を言うと深々と頭を下げた。

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