拉致4
いきなり、タブラ軍の指揮を任されたアルカスの副官は、頭を押さえて項垂れていたが、
「分かりました」
と答えると、直ぐに主だった将軍位の者達と話し合うためにその場を立ち去った。
諜報員からの情報は瞬く間にもたらされた。
実季子は、ストラの街の手前の野営地で、昨夜攫われている。
2頭立ての馬車に乗せられたようで、馬車はそのままアッティーハーの西側の森の中を、北に向かって走っているようだ。
ガラガラとけたたましい車輪の音を響かせながら、疾走する馬車を何人ものアッティーハーの領民が見かけている。
また、休憩を取らずに馬を走らせているとみえ、疲れて使い物にならなくなった馬を、何度か替えるために各地で馬を調達している。
その際に引き取られた馬を調べると、逆魔術をかけられた痕跡が見られ、その術式からプレギアースの逆魔術であると分かった。
また逆魔術の跡からは、かなりの濃度の魔力が検出され、馬に逆魔術をかけた逆魔術師は、かなりの使い手のようである。
実季子を攫ったのは、プレギアースの王宮専属逆魔術師、グラコーではないだろうかと予測される。
現在、馬車はアッティーハーの北西、ネフェーレ湖の近くを走っているようで、このまま国境を超えてプレギアースに向かうと思われる。
アッティーハーの向こうのプレギアースの土地には山脈が聳えているが、山を越えるつもりなのかもしれない。
山に入られると厄介だ。
どうにかその手前で実季子を救出しなければならない。
アルカスは、用意されていた愛馬、ジュピターに飛び乗ると、一路ネフェーレ湖に向かって馬を走らせた。
そのすぐ後をエラトスとアピテが続く。
タブラ軍は、大多数が予定通り、アッティーハーのヴェーレーを目指して行軍し、数人の騎士や侍従が、必要なものを馬車に乗せてアルカス達の後を追う事になった。
アルカス達のためというよりは、実季子のためだ。
実季子を保護した時のために薬草や天幕、清潔で暖かい寝床を用意するためだ。
また、ソフィアの所にも傷を診るための医師を向かわせる。
アルカス達は、途中で馬を休ませながらネフェーレ湖を目指し、ストラを出た翌日の夕暮れには到着した。
馬に水を飲ませるために湖の近くで休憩させ、自分たちは火を起こし食事の用意をして、古い木の切り株に腰かけた時だった。
陽が傾き、昼間は濃かった木々の影が、周りの薄闇に溶け込むようにして出来た薄暗い影の中から、ゆらりと黒装束の影が姿を表した。
「何か分かったか?」
短く尋ねたアルカスに、影も短く頷いてみせる。
「ミキコさまは、先ほど国境を越えプレギアース側に入りました。
山の手前にほんの少し広がるタルツェという平原があります。
プレギアースはその平原に陣営を組んでおり、兵士もニ百余りほど留まっている様子。
恐らく、今後、戦局を見ながら駐留する人数を増やして、戦の際に我が帝国に攻め入る拠点の一つにするつもりでしょう」
暗がりに膝をついた影は、淡々と報告する。
「今宵はタルツェの陣営で休むようですが、明日になれば、また移動するやもしれません。
山を登るか、若しくは山脈沿いに進んでラキア領に入るか。
どちらにしろ、プレギアース内を進むと見て間違い無いでしょう。
そうなると厄介です。どうか、お急ぎを」
そう言い終えると、また薄闇の中に溶けるように消えていった。
ここ、ネフェーレ湖から件のタルツェまでは馬で半刻ほどだ。
「エラトォス!!」
出来たばかりのスープを胃に流し込み、焼けた肉を一口で口の中に押し込むと、火の始末をしてジュピターに飛び乗る。
「すまんが、もう少し頑張ってくれ」
ポンポンと首筋を優しく叩くと、愛馬は一言嘶き、白い息を吐くと力強く駆け出した。
お読みいただきまして、ありがとうございます。
短くてすみません。上手く、区切りがつけれなくて、今回文字数少ないです。
お許しください。




