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森の匂い 〜月の乙女の謎と、逆魔術の呪い〜  作者: 静寂
第2章 異世界?
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出会い3

「ではミキコさまは、その得体の知れない男に此方の世界に来たきっかけがあるのでは……とお考えですか?」

 宰相のシメオンにそう聞かれて、実季子はコクリと頷いた。

 シメオンに、何か心当たりがあれば話して欲しいと乞われて、1週間ほど前から仕事終わりに黒いコートを着た男につけられていたと話したのだ。


 シメオンは、実季子がいた部屋では、話をするのに適当では無いからと、実季子に着替えを勧め

 -寝間着のようなワンピースを着ていたので-、

 アルカスの執務室の隣の、来客時に応対するための部屋に移動してきた。


 大きなマホガニーのローテーブルに、これまた大きな革張りのソファがある。

 深い緑色の絨毯に、壁に架けられた深紅のタペストリーが印象的な落ち着いた雰囲気の部屋だ。



「それで、その男の特徴は覚えておいでですか?」

「はい。黒いコートにフードを被った線の細い男です。

 身長は170センチくらいかなぁ?皆さんのように背の高い感じではありません。

 その男に、橋の上で腕を掴まれたんです。

 逃れようとしていたら、バランスを崩して橋の上から落ちちゃって……。

 その時、何か……その男が言いました。スーロ……なんとか?」

「スーロ……?」

 シメオンが怪訝そうに実季子の言葉を返す。


「そうです。私の国の言葉じゃなかったんで、何を言ったのかは分からなかったんですけど……。

 それで、川に落ちて、泳ごうとしたんです。

 夜だったので、真っ暗だけど上下を間違わなければ、流れの急な川ではないから泳げると思って。

 でも、どちらが上か下か分からなくなったんです。真っ暗な中に放り込まれたような。


 水の中なのに、息も出来るしおかしいなと思っていたら、森の中に居ました。

 湖が近くにあって。訳が分からなくて頭が混乱しいたら、急に意識が遠くなって。

 次に気がついたときは、先ほどの部屋に寝ていました」

 実季子は一旦話を切ったが、思い出したように口を開く。


「あの。今、話しながら初めて気がついたんですが、皆さん、日本語を喋ってますよね?

 ……外国人の方に見えるのに……とっても……、お上手ですね」

 実季子は、不安を押し隠すように、わざとヘラッと笑いながらその場にいた3人に問いかけた。


 皆、厳しい表情で実季子を見ている。

 シメオンが、薄く眉間にしわを寄せている。

「ミキコさま、我がペラスギア帝国は、キリル大陸の南東に位置し、王都はタブラ。

 他にラキア、ウピロス、アッティーハー、ペロポソの4大領地を統治しております。

 公用語は、キリル語で御座います。

 ミキコさまが、今お話になっておられるのは、キリル語で御座いますよ。

 ミキコさまの仰る、ニホゴーと言う言葉では御座いません」

 実季子は、頭を殴られたようなショックを受けた。



 ペラスギア帝国ってなに?

 世界の何処かの小さい国?

 地理なんて、適当にしか勉強しなかったから、良く分からない……

 キリル語?

 それを何故私は、理解出来て喋れるんだろう?分からない



 そこまで考えて、凄く!もの凄く!!理解が及ばないことがあったんだったと思い出した。

 テーブルの上に置かれたティーカップを、親の敵のように睨みながら考えていた実季子が、

 バッ!と顔を上げてアルカスの方を向いた。


「アルカスさん!犬耳生えてましたよね?頭の上に。

 アルカスさんの髪の色と同じ色の、短い毛が生えた、犬みたいな耳。

 だから私、頭が混乱しちゃって、貴女に剣を向けたんです。

 それと、つきのおとめって、何ですか?私に向かって言いましたよね?」

 実季子は、必死に言い募った。

 犬耳と聞いて、エラトスと、シメオンがジトーッとアルカスの方を見ている。



 何か、拙いことを言ったのかしら?



“ゴホンッ!“

 アルカスは、眉間に皺を寄せて、咳払いを一つすると、シメオンの方を見て目で合図をする。

 嫌そうな目でアルカスの方を見返したシメオンが、実季子に向き直る。

 すると、シメオンの頭からピョコンと獣耳(ケモミミ)が出た。


「あっ!」

 実季子は、叫んでガタンと席を立った。

 すると、アルカスもゆっくりと立ち上がる。

 立ち上がったアルカスを見た実季子は、目がこぼれるんじゃないのかと言うくらい目を瞠った。

 アルカスの背後に、青みがかったシルバーのユラユラ揺れる太いシッポがあったのだ。


「ひゃっ!」

 驚いた実季子は、一歩後ろに下がろうとして、ソファに足をぶつけてバランスを崩した。

 後ろに向かって転びそうになった実季子を、目の前に居たアルカスが大きな手を腰に回して支えてくれた。


 そのままアルカスは、まるで幼い子供を座らせるように、ヒョイッと抱えて実季子をソファに座らせた。

 暫くそのままで固まっていたが、状況を理解して、耳まで真っ赤になった実季子は、

「あの、ありがとう御座いました。転ばなくてすみました」

と、小さな声でポソポソ礼を言う。


 アルカスはまた一つ咳払いをすると、実季子に説明を始めた。

「これは犬耳ではない。我らは人狼族。耳もあればシッポもある。

 必要とあらば、完全な狼にもなる。狼は、風の如く早い」

 実季子が、口を開けたまま見上げるとアルカスとシメオンは、耳とシッポを仕舞った。


 夢を見ているんだと思った。

 ところが、目は覚めそうにない。



 まさか、こんな世界に来るだなんて……



 多くの人がそうであるように、実季子にとっても、異世界とはファンタジーの物語の中だけのものであって、実際に自分が体験する世界ではなかった。

 さっぱり、現実感がない。

 やっぱり自分は夢を見ていて、そのうち目が覚めるんではないだろうかと言う思いが拭い去れない。


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