実季子の誕生日3
「さあ、ミキコ、何を食べる?」
実季子の手を引いて、グイグイ屋台の方に引っ張っていく。
香辛料の効いた辛い匂い、ニンニクがローストされる食用をそそる匂い、蜜のような甘い匂い、色んな匂いが四方から漂ってきて、実季子は、屋台の天幕の間をフラフラ、フラフラ歩いていく。
すると、向こうの天幕から、甘辛いソースが焦げる、これぞ屋台という匂いが漂っているではないか。
そのままクンクンと、匂いを追いかけて屋台の前まで行くと、屋台のおじさんが、野菜や海老と共に麺をほぐしながら炒めているのが目にとまった。
「こ、こ、こ、コレ何?」
「いらっしゃい!これかい?
これは、東方の国から流行だってんで、仕入れてきたヤキ麺って食べ物だよ。
お嬢ちゃん、食べてくかい?」
コクコクコクコク、張り子の首振りのように何度も首を縦に振ると、そのままおじさんが麺を炒めるのをジーッとかぶり付きで眺める。
鉄板に近くて危ないので、アルカスは実季子の腰を抱いてそれ以上近寄るのを防いだ。
麺が炒まると、今度は、黒く艶々したソースを投入。
ソースが鉄板の上で弾けるジュワーッと言う音と、焼けて焦げる香ばしい匂いが辺りに広がる。
「ファーッ!!!」
実季子の目には、ソースによって色を変えていく麺しか見えていない。
あーーー
なんて良い匂い
コレって、コレって、若しかして、若しかしなくても、お祭では定番のアレなんじゃ?
まさか、コッチの世界でアレを食べられるなんて……
良い具合に色を変えた麺に、おじさんが何かをパラパラと入れる。
「ソ、ソ、ソ、ソレハナニ?」
最早、片言しか喋れなくなった実季子に弱冠引きながら、
「コ、コ、コレハ、揚げ物の後でとれるアゲカス。コクが出て旨いんだよ」
実季子に釣られて、半分片言になりながら、おじさんが答える。
「はぁーーーぁ」
言葉だけではなく、行動も怪しくなってきた実季子は、アルカスに更に力を入れて抱き寄せられる。
間違いない!もうこれは、例の物に違いない。
怪しい実季子に早く何処かに行って欲しかったのか、おじさんは凄い勢いで、出来上がったヤキ麺を2つ盛り付けると、アルカスに渡した。
冷たい飲み物を買って、近くのテーブルに陣取ると、いただきますの合図と共に、無言で食べ始めた実季子は、半分ほど平らげると、アルカスに向かって蕩けるような笑みを向けた。
「アルカフゥ〜、美味ひいねぇ……。
ヤキ麺バンザイだねぇ……」
「そうだな。
この甘辛いソースが麺に絡んで、香ばしい香りが鼻に抜けて旨いな。
手軽に食べられるのも良いな」
アルカスは、早速城のシェフに先程の屋台で、ヤキ麺の作り方を習得するように言付けるために、侍従を使いに出した。
実季子の話によると、元の世界でも同じような食べ物があるらしく、それは、焼きそばという名前らしい。
好みによって、マヨネーズなる物をかけたり、カツオブシやアオノリ等の名前の代物を振りかけたりもして食べるそうだ。
後で、実季子に話を聞いて再現できないか、シェフに聞き込みをさせようと誓う。
お腹の膨れた2人は、冷たい飲み物を片手に、大道芸人が道具や猿を使って様々な芸をするのを見たり、踊り子が弦楽器の美しい音色と共に踊ったりするのを楽しんだ。
そして、小腹が空くと、串に肉を刺してローストした物や、野菜をタレに漬け込んで焼いた物、蜜を混ぜた小さなケーキなどを摘まむ。
手を繋いだ二人は、異国の珍しい織りの布地やラグを見て回ったり、雑貨を並べている天幕をひやかしたりして歩いた。
アルカスの顔を見上げながら、楽しそうに笑う実季子の笑顔が、アルカスの心を満たしてくれる。
出来ることなら、何時までも近くでこの笑顔を見ていたい。
ほんの小さなきっかけで、実季子を囲い込んで元の世界などに帰さないようにしそうな自分がいることを、認めざるをえない。
「アルカス、今日はお仕事はお休みなの?
いつもは、シメオンが"陛下!何時まで休憩なさるおつもりですか?"って、連れて行かれちゃうのに」
シメオンのまねをしながら、聞いてくる実季子に現実に戻される。
アルカスは、小さく笑いながら、頭を振る。
「今日は休みだ。シメオンが連れ戻しに来ることもない」
いつの間にか、日が傾き、空は静かな藍の色から薄い紫、黄色、赤色とグラデーションを描き刻々と藍色が濃くなる。低い位置には、キラリと光る星が光っていた。
「ミキコ。連れて行きたいところがある」
気が付くと傍らに侍従が控え、実季子の外套と、小さな袋を手渡すと黙って一礼して下がって行く。
実季子の手を引きながら、ひしめき合って張られている天幕の群れから離れて、ポツンと1つ張られている天幕に入る。
天幕の中は大きな衝立が1つ置かれていて、アルカスはその衝立の裏に入ってしまった。
「実季子も外套を着ておけ。結構寒いからな」
そう言うと、シュルシュルと衣擦れの音が聞こえて、衝立にアルカスが着ていたジュストコールやウエストコートが引っ掛けられる。
あれ?
なんで脱いでるの?
状況を理解しきれない実季子は、ギョッとするが、更にベストの下に着ていたであろうシャツやブリーチズまでパサパサ衝立にかかるのを見て、実季子は、耳まで真っ赤になった。
「ア、ア、アルカス?あのどうして脱ぐの?」




