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森の匂い 〜月の乙女の謎と、逆魔術の呪い〜  作者: 静寂
第8章 スーパームーン
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スーパームーン3

 ミキコは、帰ったのか?

 もう、居ないのか?

 もう2度と……、会えないんだな……


 ミキコが望み通りに帰ることが出来たことを、喜ぶべきなのに上手くいかない。

 誰かに、胸に大きな穴が空いたような気持ちになると聞いたことがあるが、こんな気持ちがそうなんだろうか?

 アルカスは、ミキコが消えた水面をボンヤリ見つめ、今後、この胸の穴が塞がることはあるんだろうかと考えた。


 すると、波紋が広がる水面がブクブクと泡立ち始め、暗い水面から何かがザバッと浮かび上がった。

 ちょうど、月が翳り、水面を照らしていた光が遮られる。

 

 魚か?

 大きいな……


 アルカスが目をこらしていると、森の魔女が呟く。

「ありゃ?失敗か?」

 月にかかっていた雲を風が追いやり、ゆっくりと水面に明かりが満ち始めた。

 大きな魚だと思っていた影の正体を月明かりが照らしだした途端、アルカスはマントを脱ぎ捨て、泉の中にザバザバ入って中央に向かって泳ぎだす。

「ミキコ!大丈夫か?」

 水面に浮かんできたミキコを抱き抱えると、すぐに岸にとって返す。

「ア……ルカス?……あれ?」

 冷たい水のせいで、歯がガチガチと音を立てて震えている。

 岸に上がってきたミキコの元に、森の魔女がやってきて、杖を一振りする。

 赤く明るい光が実季子と、アルカスの周りをぐるぐると螺旋を描いて足下から頭上に向けて駆け上がり、濡れていた衣服や肌を乾かした。

 それと共に、冷えていた体も温風が吹き付け、寒さを感じて震えていた体温も幾分か元に戻った。

「あーーー。寒かった……」

 涙目になっている実季子の体を、すかさず自分のマントでくるんだアルカスは、何も言わず森の魔女をジロリと見下ろした。

「いやぁ……、悪かったね。

上手くいかなかったよ。こりゃ、調べ直さないといけないね」

 そう言って肩をすくめた魔女は、

「しかし、早かったね。キヒヒヒヒ」

と、アルカスに向かって意地悪く笑った。


 魔女に、言われたとおりだ。

 水面に浮かび上がったのが実季子だと認識した途端、体がバネのように動いて、気が付くと泉の中央に向かって泳いでいた。

 正直、水の冷たさなど感じなかった。

 実季子を早く助けなければと言う思いと、実季子がまだこの世界にいるという事実で、脳からドーパミンが大量放出された。

 さきほどまで、空いていると思っていた心の穴は、一瞬で塞がり、代わりに仄暗い喜びや、説明のしにくい幸福感が体の隅々まで流れ込み、全てが満たされたような気持ちになった。

 酒に酔っているかのように

 -強すぎて酔ったことなどないが-

 フワフワした心持ちになった。

 自分の心に穴を空ける事が出来るのも、それを瞬時に塞いで幸福感で舞い上がらせる事が出来るのも、実季子ただ一人なのだとヒシヒシと感じさせられた。

 実季子と森の魔女は、800年前の資料を見返して、月の満ち欠けを調べるという内容の話をしていたが、アルカスが遮った。

「城に帰るぞ。夜が更けて、気温が下がってきた。風邪を引くといけない」

 実季子を攫うように抱き抱えて、乗ってきていた愛馬を呼ぶ。

「ジュピター」

 葦毛の大きな馬は、アルカスに呼ばれると嬉しそうに鼻を鳴らしながら寄って来る。

 そのまま、実季子を馬に乗せると自分も後ろに乗り、森の魔女も、シメオン達も置いて、さっさと城に向かって帰ってしまった。

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