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森の匂い 〜月の乙女の謎と、逆魔術の呪い〜  作者: 静寂
第8章 スーパームーン
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アルカスの誕生日3

 ペラスギアでは、特に皇帝陛下だろうと大きなお誕生日会を執り行ったりはしていないそうだ。

 それは、何代か前の皇帝がわざわざ皆を呼びつけてまで、仕事を増やさなくても良いと言ったそうで、以来その後の皇帝たちもそれに倣っているとのことだ。

「でも、内輪でするのは構わないのよね?」

 不安そうに聞いてくる実季子に、シメオンは満足げに首を縦に振った。

「勿論で御座います。ミキコさまに、何か妙案がおありですか?」

 ちょっと相談にのって欲しいと、実季子に言われて、一体何事だろうかと内心緊張していたシメオンだったが、まさか陛下のお誕生日会の相談だとは思ってもみなかった。

 子供の頃ならまだしも、皇帝になる前、元帥だった頃から、1年のうちの何処かで歳をとるだけで、誕生日等を祝っている余裕など

 -勿論、自分もだが-

 全くと言って良いほどなかった。

 それを、彼女はお誕生日会をすると言っている。

 アルカスの顔がにやけるのを想像しただけで、可笑しくて笑いたくなったが、どうにか顔の筋肉に鞭打って、優しく微笑む程度に収めた。

「えっと、皆さんお忙しいでしょうから、夕飯の時間だけでも集まれないかなと思って。

 アルカスの好きなお肉料理を出して貰って、ケーキを焼いて、皆で囲めたら。

 私の国では、ケーキの上に歳の数だけロウソクを灯すんだけど、36本灯したら、ケーキが穴だらけになっちゃうから、3+6で9本でどうかな?

 もし、シメオンが構わなければ、私、厨房に行ってシェフに相談してくる。

 あっ!アルカスには、内緒にして欲しいの」


 ケーキにロウソク……面白い!

 どうせなら、後で絵を描かせて、城下で流行らせるか

 お菓子屋と、蝋燭屋が儲けて、経済が潤いそうだな


 シメオンが頭の中でソロバンを弾いているのを知らない実季子は、黙ってシメオンの返事を待っている。

「ミキコさまの世界のロウソクはどのようなデザインでしたか?

 教えて頂ければ、ロウソクは私が用意いたします。

 ケーキに関しては、シェフと相談した方が良さそうですね。

 後で、手が空いたらミキコさまのお部屋に行くように申しつけておきます」

 シメオンの言葉に実季子は安心したように頬を緩める。

「じゃあ、後でロウソクの絵を描いて持っていくね」

 そう言うと、廊下を勢いよく戻って行った。

 ロウソクの絵は、よくケーキ屋さんが付けてくれる、ねじったロウソクの絵を描いた。

 -後に、誰の策略か、お誕生日ケーキが城下で流行って、ロウソクの絵を山ほど描かされた-

 シメオンの仕事は早く、早速ロウソクを作らせるという。

 シェフも夕飯の仕込みが終わったら、直ぐに実季子の部屋にやってきて、どんな形が良いのか、味は、デザインはと聞いて、早速明日から試作を作ってくれるらしい。

 お誕生日までの3日間。

 一日に3度ほど厨房に呼ばれて、試作のケーキを食べた。

 正直、本番の時はもうケーキは食べたくないほどケーキ漬けになる。

 おかげで、甘さ控え目の少しお酒を効かせた大人のケーキが出来上がった。

 誕生日当日、実季子は朝からソワソワし通しだ。

 もう、挙動不審過ぎて、アルカスに会うと絶対に怪しまれると思った実季子は、どうにかアルカスを避けることにした。

 朝食は部屋で取り、直ぐにソフィアと庭に散策に出る。

 シメオンは、アルカスに山のように仕事をさせ、昼は、忙しいからと執務室に昼食を運ばせて、午後には特に必要もないのに来客のアポイントメントを入れる。

 真面目な皇帝は、ブツブツ文句を言いながらも仕事をこなした。


 夕食の時間、シェフは、約束通りいつもよりも沢山の品数の肉料理を出してくれた。

 実季子が提案して、食卓にエラトスとシメオンにも着いて貰う。

 アルカスは、

「今宵は皆で食すのか?」

 と言ったけど、特にそれ以上は何も言わず何時もの如く、イヤそれ以上に、実季子の5倍近くは食べた。

 スゴい早さで……。

「エラトス、貴方も凄く食べるのね。そして、凄く早くても、所作は綺麗なのね」

「ミキコが、食べなさすぎるんじゃないの?もっと食ったら?」

 すっかり砕けた口調で、エラトスがミキコの皿に肉の塊を載せる。

「え!無理だよ。こんなに食べられないよ〜」

 そう言うと、アルカスが無言で肉を自分の皿に移す。

 驚いた顔で、アルカスの顔を見ていると、

「確かに。ミキコはもう少し食べても良いぞ。ほら」

 自分の皿の肉を一口の大きさに切り分けると、ミキコの口の前に差し出す。

 何だか、恥ずかしくなって頬が赤くなったけれど、口を開けて、アルカスが差し出してくれたフォークからパクリと齧りついた。

 じっくりとオーブンで焼いて余計な油を落としたラムに似た肉だ。

 ハーブをしっかりきかせてあるので臭みもなくて、香ばしくて美味しい。

 口をモグモグさせながらアルカスに笑いかけると、また、肉を切り分けて実季子に、食べさせようとする。

 それを、手を振って断り、レモングラスに似た香りの、冷たいお茶で喉を潤す。

 シメオンも特にお喋りはしないが、楽しそうに笑っている。

 皆で食べるって良いな。出来たら、いつも皆で食べたいな……。

 そう思いながら食事を終えると、アルカスがシメオンに、

「ところで、今日は何故、皆で食事をしたのだ?何かあったか?」

と聞く。

 シメオンは、口元をナフキンで拭い、目で実季子の方を見た。

 実季子はひとつ頷くと、パンパンと、手を2度打った。

 すると食堂の灯りが一斉に消える。

 -実は、クレオンに相談して、スイッチひとつで灯りが点いたり消えたり出来るようにお願いしておいたのだ-

 そして、厨房の方からロウソクに火が灯されたケーキをソフィアが運んできてくれた。

 -実季子が運ぶと言ったら、ケーキを持ったまま、真っ暗な中を歩くと転ぶといけないからと、却下された-

 実季子が、立ち上がって

『ハッピーバースデー トゥーユー

 ハッピーバースデー トゥーユー

 ハッピーバースデー ディア アルカス

 ハッピーバースデー トゥーユー』

と歌うと、皆が拍手をした。

 厨房の方からも、壁ぎわに給仕のために並んでいたメイド達からも拍手が上がった。

「アル、ロウソクの火を吹き消して」

 実季子に言われて、アルカスがフッと、息を吹きかけると、ロウソクの火は一瞬で消える。


 すごいな……

 アルカスの肺活量


 食堂にまた、灯りが点くと嬉しそうに笑っているアルカスと、目が合った。

「そうか。今日は、私の生まれた日か。それで、ここ暫く、皆の様子がおかしかったのか」

「あれれ?気が付いてたの?」

 バレずに、ことが進んでいると思っていた実季子は、頬が引きつったような笑いになった。

 アルカスは、ふっと口元を綻ばせる。

「そりゃあな。皆がコソコソと、実季子を囲んで何をやっているんだろうとは思っていた」

 優しく目を緩めて実季子を見つめる。

「まさか、私の誕生日を祝うためだとは思わなかった。ありがとう、ミキコ」

「お誕生日、おめでとう。アルカス」

 アルカスから、ありがとうが聞けて、嬉しくて、花が咲いたようににっこりと笑った実季子の笑顔を見て、目元をほんのり赤くしたアルカスは、何度も咳払いをする。

 ケーキを切り分けて、皆で一切れずつ食べて、満腹になった。

 シメオンは、実季子にさっき歌った歌を、後で譜面を起こさせるのでもう一度歌って欲しいと言って、国の経済を回すことに余念がなく、エラトスは、誰かにケーキを差し入れるんだと余ったケーキをゴッソリ持って退散していった。

 多分、イリニに持っていってやるんだろうとアルカスが言っていた。

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