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森の匂い 〜月の乙女の謎と、逆魔術の呪い〜  作者: 静寂
第8章 スーパームーン
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アルカスの誕生日2

 次の日には、マダム・マリナは、実季子が持ち帰った石の不純物を取り除き、出てきたブラックダイヤモンドがどの程度の大きさなのかと、宝石工房と打ち合わせたデザイン画を送ってきた。

 それを見て、沢山の糸の見本の中からソフィアとどの糸が良いか検討会を開く。

 普段は決して、実季子と同じテーブルに着こうとしないソフィアだが、この時だけは、一緒にテーブルに座り、お茶も2客用意して女2人で楽しく糸を並べて話をする。

「それでね、組紐を編むのに、こんな感じの円盤状のディスクを用意したいの。

 別に厚めの紙とかで良いんだけど」

 実季子が描いた絵を見せると、ソフィアは大きく頷いて、

「畏まりました。お任せ下さい」

と請け負った。

「ミキコさま、石は結構大きいですね。

 石とのバランスを考えて、糸を太めになさいますか?」

「そうね。マダム・マリナが送ってくれたデザイン画に、ブラックダイヤモンドは、とれるだけの大きさにしましょうと書かれてあるわね。」

 天然の大きなブラックダイヤモンドは珍しいと言っていたから、採れるだけの大きさの物を加工することにしたのだろう。


 まぁ、アルカスなら少々大きくても、重くても何の問題もなさそうだけど……


「この糸などどうでしょう?

 素材は絹ですが、強化魔術がかけられているので、そう簡単には切れませんよ」

「スゴいね!こんな所にも魔術が使われてるのね」

「じゃあ、その強化魔術がかけられてる絹の糸にしよう。

 で銀色はね、アルカスの髪の色のような銀色が良いの。

 若干青みがかって輝いてるような」

「なるほど。陛下の髪色ですと、此方の色はどうですか?

 絹糸に撚りをかける際に、藍鼠と言われる毛の長い鼠の毛を一緒に撚っていますので光が当たると、青い糸がチラリと光って青みがかって見えますでしょう?」

「本当。すごい、綺麗だね」

 何だか、アルカスの髪を見ているような気分になって、その糸を撫でてみる実季子に、ソフィアは微笑ましくて、頬に笑みを浮かべた。

 実季子は、ソフィアに見られているのに気づいて、照れたように俯くと、急いで青色の糸を物色し始める。

「青色もご希望の色がおありですか?」

ソフィアに聞かれて、頷くと、一つの糸を手に取った。

「これ、この色。私の国では、瑠璃色って言うの。夜明けの空のような色」

 ペラスギア帝国の色。

 そして、この世界に来て、この城で目覚めた時、初めてアルカスを見たときにアルカスが着ていた服の色。

 とても綺麗で、なんてアルカスに似合うんだろうと思った。

 -まぁ、初めてこの世界の服装を見て、同時に何ておかしな格好だろうとも思ったが-

「分かりました。我が国の色ですね。では、その2色をご用意いたします。

 それで、長さはいかほど用意いたしますか?」

 ソフィアに言われてハッとした。

 アルカスには、秘密だから、計りに行くわけにはいかない。

「あ〜……どうしよう。

 だいたい、胸の心臓の辺りまでの長さにするつもりだったの。アルカス、どの位かな?」

「では、陛下の宝飾係に尋ねてみることに致しましょう」

「わぁ、ソフィア。頼りになる」

 こうして、この日から実季子の部屋はアルカスに対して厳戒態勢を敷くようになった。

 アルカスは、決して偉そうでは無いが、幼い頃より周りが次期皇帝陛下として扱ったことが原因なのか、城中何処に入るのも躊躇しない。

 実季子の部屋にも一応ノックはするものの、応対するために出る前に、バーンと扉を開けて入ってくる。

 何度驚かされたことか。しかし、本人には全く悪気はないのだ。

 そこで、組紐を編むのは奥の部屋でのみとし、アルカスが来ても直ぐに仕舞えるように大きめの蓋が出来る籠を用意した。

 更に、その上には布を被せる。

 表の部屋にアルカスが来たら、ソフィアがブザーを鳴らすように、ペトラに頼んで技術士が開発した物を一つ借りた。

 空き時間が出来ると、奥の寝室に運んで貰った小さなテーブルに紐を広げて、一生懸命組紐を編んだ。

 ちゃんと編めるか不安だったが、一旦編み始めると順調に編み進めることが出来た。


 ほぼ編み上がった頃に、マダム・マリナが加工が終わったブラックダイヤモンドを持って城にやって来た。

「ミキコさま。暫くぶりで御座います。

 お待ちかねの物が出来上がりましたので、お持ちいたしました」

 流れるように美しい礼をして、マダム・マリナは、大きなジュエリーケースを荷物の中から取り出す。

 マリナが、ジュエリーケースを開けるとそこには黒く鋭い輝きを放つブラックダイヤモンドが、実季子の希望通り、大きな満月型に加工されていた。

「わぁー」

 一言だけ、感嘆の声を上げてジュエリーケースの中をじっと見つめる実季子に、マダム・マリナが声をかけた。

「如何でしょう?ミキコさま。お気に召していただけましたでしょうか?」

「はい……とても。想像していたよりも、数倍素敵に仕上がっています」

 実季子は、そっとブラックダイヤモンドを手に取って光に当てて眺めてみる。

 光を反射して、ダイヤは力強く輝いている。

 径は5、6㎝程もあるだろうか?重さもかなりある、とても存在感のある物だ。

「良う御座いました。実季子さまに気に入っていただけて、安心いたしましたわ」

 マダム・マリナは、本当に安心したようで、ソフィアが淹れた御茶にやっと口を付けた。

「それで、ミキコさまが編まれている組紐は、何処まで出来上がりましたか?」

 マリナに促されて、実季子は、持ってきていた籠の蓋を開けて、ほぼ編み上がった組紐を取り出した。

「まぁ!美しく編み上がっておりますわね」

 マリナに褒められて、実季子は、嬉しくなって頬を染める。

「どのように紐を通されるんですの?」

 マリナに聞かれて、実季子はやってみせることにした。

 先ず、紐をブラックダイヤモンドの中心に作って貰った穴に通し、輪にして交差させ、端を紐に結びつける。逆の端も同じように結びつけ長さの調節が出来るようにする。

 端の始末は、目の細かい櫛で解いて整え、小さな房が出来るようにした。

「出来た!!」

「素敵」

「良いですね」

アルカスの髪色によく似た銀色と瑠璃色が合わされた組紐に、ブラックダイヤモンドが中心に配された首飾りが出来上がった。

「ミキコさま、ブラックダイヤモンドは、強いパワーを秘めた石で、何物にも代えがたく全ての物のエネルギーの源になるとも言われます。

 きっと、陛下を御守りくださるでしょう」

 マダム・マリナにそう言われて、実季子はこの石が少しでもアルカスを守ってくれますようにと、祈った。

「そして、これはミキコさまに。

 陛下とペアで御座いますよ」

 パチリとウィンクして見せたマダム・マリナの指しだした先には、アルカスのペンダントに付けた満月型の物と全く同じデザインの小さな石が差し出されていた。

「可愛い。大きさが違うと、全然印象が変わるね」

 喜ぶ実季子の顔を嬉しそうに眺めながら、そっと実季子の胸元を指さした。

「ミキコさまの胸元にされている鎖にお通しください。

 ブラックダイヤモンドがミキコさまの事も御守りくださいますように」

 そう言って、頭を垂れたマダム・マリナに実季子は胸がいっぱいになった。

 私にも、こうして心配してくれる人がいるんだな。

「ありがとう。マダム・マリナ」

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