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森の匂い 〜月の乙女の謎と、逆魔術の呪い〜  作者: 静寂
第7章 ペロポソ領
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月の水2

 アピテは、驚いた顔はしたが、実季子の言うとおり、直ぐに草薙剣を持ってきてくれた。

 草薙剣を受け取ると、実季子は近くにあった水差しを掴んで真っ直ぐにヴロヒ湖に向う。

 湖の周りは、やってきた夜の帳が闇を作り、先程天頂に昇った月が湖の表面を照らしている。


 良かった……

 月は出ている


 実季子は、そのままの格好のまま、ザブザブと湖の中に入る。

 夜の冷気と湖の水の冷たさが、実季子の体に纏わり付いてどんどん体の熱を奪っていったが、そんなことは気にならない。

 腰の辺りまで浸かって、月の光が降り注ぎキラキラと反射している場所で、草薙剣を鞘から

 -アピテが、剣に合うような鞘に納めておいてくれいた-

 抜く。

 剣は、鞘からシュルンと小気味良い音を響かせて抜けると、実季子の手に収まった。

 早速、草薙剣で湖の水の上で小さな円を描いてみる。

 実季子の腰の辺りが、ほわんと暖かくなり、その暖かさはまるでクネクネと蠢くように、実季子の背中の中を駆け上がった後、腕を伝って剣に流れ込むような感覚を感じる。

 くるりと円を描いた輪郭がボンヤリ光って白に近いような薄い金色になる。

 その中側を、金色がマーブル模様のように揺らめいていたが、次第に色は均一になり、やがてキラキラ光る月色の水になった。

 実季子は、素早くその水を持ってきていた水差しに入れる。

 水差しの、中の水を眺めるとキラキラ光る細かな粒子のようなものが、水の中で揺らめいているのが見て取れる。

 まるで、パール入りのマニキュアの瓶を振ったときのようだ。

 

 これ、飲んで大丈夫なのかな?


 アルカスに飲ませる前にちょっと一口飲んでみた。

 味は、普通の水だ。

 特に、体調に変化は感じない。


 まぁ、アルカスが飲まなきゃ感じないんだろうなぁ……


 水差しに入れた水を持って、バシャバシャと岸に上がった実季子を、ソフィアが待ち構えていて大きなリネンでくるんだ。

 彼女は泣き出しそうな顔で、実季子から水差しを受け取ると、震える声を出した。

「ミキコさま、このように冷えてしまわれて……。

 何度もお呼び致しましたが、まるで私の声が届いていないかのようで……。

 心配いたしました」


「え?ソフィア、私を呼んだの?

 ごめんなさい。全然聞こえてなかったです。

 それよりも、その水をアルカスに飲ませたいの。

 アルカスの狂狼の力を抑えてくれる力のある水、月の水なの」

 実季子にそう言われると、ソフィアは弾かれたように、実季子と水差しの水を見て、大きく頷く。

「はい。すぐにでも」


 月の水を飲んだアルカスは、みるみる内に顔色が戻り、浅かった息も、深く落ち着いた呼吸に変わった。

 熱はまだあるようだが、焼け付くように熱かった体は、少し静まったようだ。

 魔女は、このまま暫く休めば熱も下がるだろうと言った。

 長かった夜は、ようやく東の空が白み始め、木々の梢から、小さく囀る鳥の鳴き声が聞こえる。

 ホッと息をつくと、実季子は、天幕に戻って休むことにした。


 まだ本調子ではなかったからなのか、実季子は、その日の昼過ぎまで夢も見ずに熟睡していた。

 目が覚めると、流石にお腹が空いて、何か食べる物がないかと手早く着替えて天幕を出る。

 と、外は騒がしく、何人もの見知らぬ騎士が食事をするための天幕を守るように囲んでいた。


 誰か来てるのかな?


 気にはなったが、覗くのも行儀が悪いような気がして、そのままアルカスの天幕に様子を見に行く。

 天幕の外に立っている護衛騎士は、洞窟に一緒に付いてきてくれた人で、入って良いかと尋ねると、快く入れてくれた。


「アルカス?起きてる〜?」

 小声で問いかけながら天幕に入ると、アルカスはもう起き上がっていて、簡易の机に向かって何やら書類仕事をしていたらしかった。

「えぇ〜……。アルカス、起きても良いの?

 熱は下がったの?今朝方まで熱も高くて意識もなかったのにぃ?」

 盛大に眉をひそめて嫌味を言う実季子に、両手を挙げて降参のポーズをとると、眉を下げて笑う。

「ハハハ。すまん、許せ。午前中には、熱も下がってな。

 森の魔女に、凄い色の滋養強壮の薬だという、これまた、凄い味の薬湯を飲まされたのだ。

 そうしたら、魔女の秘薬だけあって、あっという間に元気になった。」

「え?あれ、見た目ほど不味くなかったよ?」

 そう言った実季子の顔をキョトンと見ていたが、眉根を寄せて、渋顔を作った。

「あれを、ミキコも飲んだのか?」

「そうだよ。だって、折角森の魔女が作ってくれたから。クイッと飲んどいたよ」

そう言った実季子を訝しげに見ていたが、

「すごいな、ミキコは……」

と、ボソリと呟いてガクリと首を落とした。

 何だか、そんなアルカスが可愛くて、可笑しくて、元気になったのが嬉しくて、実季子は、笑いながら涙が出た。

 アルカスは、椅子から立ち上がって、そっと実季子に近づくと、大きな手で実季子の涙を拭ってくれる。

「泣くな。心配をさせたのだな。

 ミキコが、月の水を作ってくれたと聞いた。私を救ってくれたのは、ミキコだ。

 ありがとう、ミキコ」

 アルカスの大きな手は、実季子の髪を撫でた。

 実季子はアルカスの体温を感じて、泣きながらアルカスをジッと見つめる。

「アルカス……ううん。元はと言えば、私が細い道から落ちちゃったから……。

 ゴメン……ね。アルカスの調子が戻らなかったら、どうしようって思って……」

 そう言いながら、実季子の黒い目にいっぱい涙が溜まって、ホロホロとこぼれ落ちる。


 自分は、こんなに泣かせてしまうほど心配させたのか

 彼女は、こんなに泣いてしまうほど心配してくれたのか


 そう思うと、仄暗い喜びがジワジワと胸の中に広がるような感覚を覚える。

「ミキコ……」

 一歩、実季子との距離を詰め、アルカスの顔が覗き込むように実季子の顔に近づいた。

いつもお読み頂き、有難うございます。

展開が遅くてすみません。


これからも、お付き合いくだされば幸いです。

よろしくお願いします。

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