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森の匂い 〜月の乙女の謎と、逆魔術の呪い〜  作者: 静寂
第7章 ペロポソ領
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信じられない人達3

「そ……、それで、草薙剣って、どうやって使うんですか?

 草薙剣(くさなぎのつるぎ)を振るって、ゼスターさんを助けたとき、何か感じたんですか?

 それとも、何か唱えるとか?隠れたスイッチがあるとか?」

 クルクル巻かれたマントからモゾモゾと手を出しながら季子に尋ねる。

 彼女は、長い髪を後ろになびかせながら、ちょこんと首を傾げると、ニッコリ笑った。

「うーん、何となくかな。ぞわぞわってなって、パーってなって、その時が来たって感じ」



 サッパリ分からん。

 何の役にも立ちそうにない情報だった……。

 それでも、礼を重んじるのは、日本人の美徳なのだ。答えてくれた事への礼を述べる。

「そうなんですね。分かりました。ありがとう御座います」

「いいえ、どう致しまして」

 季子はまた、にっこりと花が綻ぶように笑った。

 そんな季子を、ゼスターは本当に愛おしそうに見つめている。


 良いなぁ……この二人、幸せそうだな


 草薙剣の使い方は、月読尊が力を貸すと言ってくれたのだから、必要なときに何かがトリガーとなって働いてくれるのだろう。

 あまり、深く考えても仕方ないのかも。

「ミキコ、月がヴロヒ湖に光を注いでいるときに、草薙剣で湖に円を描け。

 上手く力が伝われば、円を描いたところの水の色が変わるはずだ。

 それは、月の水だ。色が変わった水だけを掬ってアルカスに飲ませろ。

 効果は一時的だが、狂狼の力を抑えてくれる。

 君があちらの世界に帰った後、何もないよりはマシだろう」


 私が帰った後

 何もないよりはマシ


 ゼスターにそう言われて、何故か胸が苦しくなった。

「どう?実季子。その草薙剣に宿った力で実季子は元の世界に帰れるはずよ。

 森の魔女も力を貸してくれるって言っていたでしょう?」

 季子はニコニコ笑いながら実季子に話しかける。

「は……はい。私のために、来て下さってありがとう御座います」

 礼を述べながら微笑んだ顔は、引きつっていたかもしれない。


 そうだ

 私は、帰るんだ

 アルカスとは違う世界に


 分かっていたことなのに、自分が望んでいることなのに、如何してこんなに胸が重苦しく感じるのか。

 その理由を追及しても、この重苦しさからは逃れられないだろうと、本能的に感じた実季子は、考えることをやめた。

 実季子が帰るという単語が、ゼスターと季子からそれぞれ発せられたとき、アルカスは筋肉が強張り、何とも言えない表情をした。

 いままで、敵にいきなり襲われた時も、政務の上で難局な場面に対応せねばならない時も、いつだって完璧に身体も心も制御してきた。

 しかし、実季子のこととなると上手くいかないのだ。

 まるで、魔女にしびれ薬でも盛られたかのように、体の奥にある何かがモゾモゾと動き出して、自分の意思とは関係なく、その何かが飛び出そうとしたり、暴れだそうとしたりする。

 それをどうにか抑え込もうとするのに、モゾモゾと蠢く何かは、アルカスの抵抗などないかのように自分勝手に動くのだ。

 季子もゼスターもそんなアルカスをチラリと横目で見たが、何も言わず実季子と話をしたため、実季子には分からなかった。


 季子とゼスターは、もうやることはやったとばかりに、お互いに頷き合うと、アルカスと実季子に手を振って、ドンドン薄く透明になり、消えてしまった。

 後に残った草薙剣を手にすると、またしてもあの青白い光が、球のようになって二人を包み込み、その光が消えると二人は木の外側に移動していた。

 アピテは、実季子が草薙剣を手にしているのを見ると、目を見開いて口をパクパクさせてた。

「……無事に、剣を手にすることが出来てよう御座いました」

 どうも、考えることを放棄したらしい。


 草薙剣には、鞘がないので一先ず持ってきていた布を撒いて、アルカスが背負って行くことになった。

 洞窟の中に入って、実季子はさっぱり時間感覚が無くなっているが、時刻は15時を回っているらしく、帰りを急ぐ必要がある。

 ソフィアが持たせてくれた、疲労回復効果の魔術が掛けられてあるお茶を飲んで、来た道を急いで帰る。

 底無しの細い道の手前まで問題なく戻ってきて、行きと同じように、アピテが先頭を、その後ろを実季子が、更にその後ろをアルカスが等間隔でそろそろと進む。

 ところが、道の中程まで来たとき、実季子は、足元にキラリと光る石を見つけた。

 

 何だろう?

 如何しても気になる


 掌に載るほどの大きさの石の半分から、黒く光を反射する艶やかな石が覗いている。

 危険であることも忘れて、実季子はしゃがみ込んでその石を拾ってしまった。

 後ろから、アルカスが叫ぶ。

「ミキコ、バランスを崩すぞ。気をつけろ!」


 え?

 何を言われているんだろう?


 実季子は、立ち上がりざまにアルカスを振り返った。

 すると、下から吹いてきた風が、まるで生きているかのように実季子の足に纏わり付く。

 その風は一度実季子をふわりと上に煽るように吹くと、次に足に纏わり付いたまま、足を引っ張るかのように下に引っ張った。

 たたらを踏んで、踏ん張ろうとした実季子は、しかし、足を踏み出した先に道はなかった。

 あるのは底の見えない真っ暗な空間だけだ。

 実季子は足を踏み外し、滑るように道から落ちる。

 途中、何処かに摑まろうと必死に手を伸ばしたが、掴んだ崖肌はボロボロと崩れて実季子の腕をズルズル擦っただけだった。

 あまりの展開に声も上げられない。

 折角、草薙剣も手元に納めることが出来たのに、このままこの世界で、しかもこんな暗い洞窟の中で落ちて死んでしまうのか……。

 そんな思いが頭をかすめたとき、洞窟の中にアルカスの声が響きわたった。


「リピーエオーリシ」

 落ちようとしていた実季子の体を、下から吹く突風がグンと留める。

 風はビュウビュウと吹き上がって、実季子を押し上げる。

 その体を走ってきたアルカスが受け止めると、横抱きにしたまま一気に細い道を渡りきった。

 下層に向かって急降下していた体を、突風によって今度は急上昇したのだ。

 しかも、アルカスに抱かれて走って揺られたから、実季子の三半規管は悲鳴を上げている。

 気持ちが悪い。

 目が回ってグラグラする実季子に、アルカスが必死に呼びかける声が聞こえる。

「ミキコ!ミキコ!大丈夫か?ミキコ!」


 こんなに焦ってるアルカスは、初めて見たかも

 いけない

 心配しているから、早く大丈夫だって答えなきゃ


 頭ではそう思うのに、実際は擦り傷で血がダラダラと出ている手を、弱々しくアルカスの方に差し出しただけだった。

「ミキコ!血が出ている。アピテ、手当てだ!」

 泣きそうな顔で実季子を覗き込むアルカスは、どんどん顔色が悪くなった。

 汗が滲んで、呼吸が浅く早い。

「ミキコ……、グッ……ウッ……」

 アピテは、アルカスの様子がおかしいのを見ると、険しい顔をした。

「陛下!陛下?もしや、狂狼化が?」

「アピテ……、そうならば、斬れ!……頼んだぞ」


 斬る?

 何を?

 誰を?

 アルカスを?

 

 実季子は、混沌とした意識の中で、血が流れる腕を伸ばして、アルカスの手をギュッと握った。

 すると、柔らかい発光する光が、実季子の手からアルカスに向かって流れていく。

 光は、アルカスの手を伝ってボンヤリと光ながら、体の中にゆっくり入って消えていった。

 アルカスは、乱れていた呼吸も元に戻り、顔色も良くなった。

 しかし、そのまま実季子の手を握ったまま、ばったりその場に倒れてしまったのだ。

「ア……ル……」

 どうにか体を起こそうとしたが、今度は腕がズキズキして痛い。

 アピテが水で傷口を洗ってくれ、何やら薬を塗られて布で巻かれた。

 その後は、意識がハッキリせず、誰かに運ばれている感覚はあったが、途中で意識が途切れている。

お読み頂き、有難うございます。

やっと重要アイテムを手に入れました。これから、このアイテムが活躍してくれます。

まだ、お話は続きますが、今後もお付き合いください。


よろしければ、評価や感想をいただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。

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