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森の匂い 〜月の乙女の謎と、逆魔術の呪い〜  作者: 静寂
第7章 ペロポソ領
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信じられない人達2

 剣を抱いて、右往左往している季子を助けたのが、ゼスターだった。

 長い黒髪に、何枚も重ねられた美しい彩りの着物

 -十二単じゅうにひとえ

 を着て、泣いている彼女を見て庇護欲がそそられたのだという。

 

 最初は泣いてばかりいた季子だが、彼女は生まれたときからの過酷な環境を生き抜いてきて根性がすわっていたのか、たちまちの内に此方の世界に馴染んだ。

 段々と狂狼としての力が、体を蝕んでいくゼスターの話を聞き、彼を助けたいという気持ちが芽生えるのに、時間はかからなかった。

 その気持ちが、何時も季子を気遣ってくれるゼスターの優しさに触れ、恋に変わるのにも時間はかからなかった。

 そして、兄であるリュカリオンが、狂狼となったゼスターを戦場に派遣して、戦は終わりを迎える。

 ところが、ゼスターは狂狼が解けず暴れ狂っている。

 このままでは、ゼスターを殺すしかないとリュカリオンに言われ、季子は直ぐさまゼスターを追いかけた。

 他の誰かの手によって殺されるならば、自分の手で楽にしたいと、手にした草薙剣で狂狼となったゼスターを切ったのだ。

 草薙剣の不思議な力が、ゼスターの狂狼の力を断ち切り、ゼスターは元に戻った。

 しかし、完全に狂狼化が解けたわけではなく、その後は、季子がゼスターのそばにずっといることで、ゼスターの精神は常に薙ぎ、狂狼となることはなかったということだ。


「いやぁ、俺もキコに惚れていたから、死ぬのならキコに殺して欲しいなとは、思っていたんだよ。

 けど、まさかキコに生かせて貰えるとはね。

 あんな幸福を感じれるなら、また狂狼になっても良いと思ったよ」

 嬉しそうに話すゼスターを見て、


 何か、軽いな、この2人……


 と思った。

 2人が話す内容は、苦労して調べても出てこなかった、知りたかった話なのだが、あまりに軽い調子なので、胡散臭くなってきた。

 半目で季子とゼスターを見ていると、今まで後ろで、山のようにひっそりと立っていた、黒髪の男性が口を開いた。


「ゼスターの狂狼の力を断ち切ったのは、草薙剣の力ではない。

 (われ)が、草薙剣に力を与え、(われ)が与えた力が狂狼の力を撃ち破ったに過ぎん。

 また、季子の月の力も、(われ)の力を季子が拾った物だ」


 黒く長い髪を真ん中で分けて、耳の横で纏めて結っている

 -みずらって、言うんだったっけ?-

 彼は、美形だが、余り彫りの深くない涼しげな雰囲気で、一重で切れ長の黒目がちな目や、弓なりの眉、筋の通った鼻、小さめの口は、如何にも日本人と言った容貌だ。

 墨色に染められた広い幅の袖で、腰の辺りまでの短い丈の着物を、細かく美しい織りの入った、光沢のあるグレーの長紐で腰の辺りで結んでいる。

 下履きは同じく、墨色に染められた広幅のパンツの膝下辺りを、これもまた、腰紐と同じ色の同じく美しい織りの入った紐で結んでとめている。

 歴史の教科書に載っていた、縄文時代?弥生時代?あたりの衣装のように見える。

 纏っている色合いと言い、装飾品と言い、全体的に地味だ。

 ただ、オーラが違う。

 衣装だけで言えば、アルカスやゼスター達の方が、凝った作りの物を着ているし、色合いで言えば金や銀の派手派手しいキラキラの色だし、王族だから品だって良いんだけど、それでも格が違うのだ。

 人間関係のヒエラルキーをピラミッドで表したりするが、彼はその何処にも属さない、遥か彼方、天上にでも属する人のように感じる。

「あのぉ……どちら様ですか?」

 実季子は、心臓をドキドキさせながら、おそるおそる尋ねる。

 すると、季子が横から彼の紹介をする。

「この方は、月読尊つくよみのみこと

 夜を統べる月の神であらせられます」

 季子は、美しい所作で、掌を上に向け両手を頭の上に掲げて、膝をつき恭しく頭を垂れた。

 さすが宮廷女官、流れるように美しいお辞儀だ。

 

 月読尊は、伊邪那岐命いざなぎのみことによって生み出された天照大御神あまてらすおおみかみの弟で、須佐之男命すさのおのみことの兄。

 古事記や日本書紀に出てくる神様だ。

「かみさま……」

 無意識に呟いた実季子は、腰が抜けてカクンと崩れ落ちそうになった。

 隣に居たアルカスが、すかさず実季子の腰を抱く。

「なるほど、ミキコの国の神か。やっと、合点がいった」

 日頃から大国を統べる皇帝としての矜持がそうさせるのか、それともただ単に神経が図太いだけなのか、季子の説明を聞いてもピクリとも眉を動かさず、実季子を片手に抱えたまま普段通りの無表情で、月読尊を見ている。

 対する月読尊も全くの無表情だ。

 二人が醸し出す空気に耐えられず、実季子はなんだか体が震えてきた。

「ミキコ、寒いか?」

 実季子の体の震えを感じると、自分の羽織っていたマントを外し、クルリと実季子に巻き付ける。

 マントから、微かに森の木々の香りがする。アルカスの匂いだ。

「で?貴殿は何故、その草薙剣に力を与えてまで、狂狼である我が祖ゼスターを助けたもうたのか、お聞かせ願えるか」

 低く落ち着いた声で、アルカスが月読尊に尋ねる。

「ふむ。理由か?我々、神がすることになぞ一々理由など無いのだがな……。

 敢えて言うなれば、季子が月の力を持っているからかの。

 今まで、(われ)が気紛れに撒いた力を偶然にも拾い、月の力を持つ者は何人もいたが、殆どの者は気付きもせぬし、その力を使えもせぬ。

 しかし、季子は違った。草薙剣を持っていたからのう。

 月の力を持ちて、月の力を使える者、即ちこの月読の娘である者が助けを求めるならば、力を貸すことも吝かではない。

 そこの娘、実季子も、我が月読の娘じゃ。お主が望むならば(われ)は力を貸そうぞ」

 月読尊は、それだけ言うと満足したように笑う。

「久方振りに、よう話した」

 独り言のように言うと、さあっと吹く風と共に消えてしまった。

ご覧いただきまして、ありがとうございます。

神様、出てきてしまいました。神様の表現、難しかった……。


今後も、よろしくお付き合いくださいませ。

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