信じられない人達1
長い黒髪の黒い瞳、実季子よりも背の低い女性。
濃いグレーの交じった短い銀髪の、アルカスよりも、幾分オレンジがかった金色の眼の男性。
そして、黒く長い髪を、左右の耳の横で束ねて結っている、細身だがえらく美形な男性の3人が、まるで空間の裂け目を跨ぐようにして現れた。
実季子は怖くなって咄嗟にアルカスにしがみつく。
アルカスは、実季子を背に庇うようにして立ち、腰の剣に手を掛けていつでも脱けるような体勢をとる。
二人を見た長い黒髪の女性が優しく微笑み、隣で彼女の腰を抱いて親密そうにして立つ銀髪の男性を見上げた。
二人は意味深に微笑み合うと、実季子に向き直り、話しかけてきた。
「警戒しないでください。私は、季子と申します。800年前の月の乙女です。
あなた方2人に伝えたいことがあって、こうして現れることに致しました」
「へ?」
800年前の月の乙女だと聞いて、実季子は間抜けな声を上げて、アルカスの後ろからひょっこりと顔を出した。
それをまだ、警戒心むき出しのアルカスが、自分の背後に押しやる。
「私は、初代皇帝リュカリオン陛下の弟、ゼスター・ペラスギアである。
どうか、警戒を解いて、我が番の話を聞いて欲しい」
今度は、銀髪の男性に言われて、暫く睨むような目線を向けていたアルカスだが、手に掛けていた鞘を離した。
警戒をといた様子のアルカスを見た、季子と名乗った女性は、優しい笑みを更に深くする。
彼女の射干玉色の長く美しい髪は、艶々と輝いていて、季子が動くたびにサラリサラリと流れるように動く。
ウエストから大きくスカート部分が広がるドレスを着ている。
が、どう見ても彼女は日本人に見える。
800年前の月の乙女と名乗っているが、間違い無いのかもしれない。
「ありがとう。貴方は、実季子を守ってくれているのですね」
彼女に呼ばれた自分の名前は、自然な発音だった。
此方の世界の人達は、ちゃんとミキコと呼んでくれるけれど、ほんの少しイントネーションが違う。
けれど、彼女の呼び方は日本人の呼び方その物だ。
僅かながら、警戒を解いた実季子は、アルカスの後ろから出て、彼の横に並んだ。
-握った手は離さなかったけれど-
「あの、アピテが動かないんですけど、どうしてですか?」
ソロソロと訪ねた実季子に、季子は慌てたように答える。
「ああ〜、ごめんなさい。心配よね?
でも、大丈夫。向こうは時が止まってるだけだから」
「時が止まってる?」
不思議そうに問い返した実季子に、ゼスターが説明を始めた。
「私たちは、ご存じのようにもうこの世にはいない存在だ。
ただ、君達に伝えることがあったため、違う次元からやってきた。
つまり、この木の内側の次元と、木の外側の次元は違うんだ。
で、次元が違うと時の流れも違う。
だから、今向こうは、ほぼ時が動いていないような状態なんだ。
ああ見えても、ほんの少し、すこーしだけ動いてる」
正直、説明されても、良く分からなかったが、まぁ、アピテに害がないなら良いかと、自分を納得させる。
「でね、私達がやってきた理由なんだけど、ザックリ言うと、実季子を安心させるためかな」
花が咲きこぼれるようにフンワリ笑う季子を見て、首を傾げる。
どうして、この人達が来たら、私が安心するんだろう?
「ゴメンなさぁい。ザックリ過ぎたようですね。じゃあ、順を追って説明しまぁす」
若干間延びしたように言うと、季子は話し始めた。
今から、800年以上前の平安時代末期の時代の日本で、季子は平清盛の妻、平時子に仕える女官の一人だった。
季子は、平時子の叔父、平信範が備後(現在の広島県東部)に配流されたときに、親しくなった女が産んだ娘で、時子が信範に頼まれて、身の回りの雑務等をさせていた。
当時、中宮の母として皇室とも関わり、清盛亡き後は、平家の家長たる存在であった時子だが、源氏との壇ノ浦の戦いで敗北を悟ると、幼い安徳天皇と共に入水する。
その際に剣を持ってくるように季子に命じたのだ。
しかし源氏の兵士達が、次々と船に乗り移ってきて、季子は時子に剣を渡そうとするも、叶わない。
結局、宝剣、草薙剣を胸に抱いたまま、季子もまた他の女官と共に最後を悟り入水した。
ところが、気が付いたら剣を持ったままペラスギアにやって来ており、戦場の真ん中をウロウロしているところで、ゼスターに出会ったのだという。
話を聞いて、実季子はとんでもない驚きの渦の中に放り込まれた気分になった。
平時子……って、平清盛の奥さん?
壇ノ浦の戦い?
えーっと、平安時代の末期辺りだったっけ?
源義経が平氏を滅亡に追い込むんだよね?
ちゃんと、歴史を勉強しておけば良かったなぁ………
っていうか、この目の前にある剣は、若しかしなくても壇ノ浦の戦いで無くなったって言われてる草薙剣なの?
三種の神器じゃない!!
国宝じゃない!!
目を白黒させて、パニックの真っ只中にいる実季子を現実に戻したのは、他ならない季子だった。
「もうね、死んだのだと思ったのに、目が覚めると戦の真っ最中だし、海に入ったのは夢だったのかしら?
と思ったものの、周りは何故か犬耳生えた人がいるし、本当に、本当に、パニックになっちゃって、辛かったわぁ」
間延びする口調で季子が言うのを聞いて、落ち着いてきた。
あれ?この人って平安時代の人だよね?
平安時代の人って、こんな話し方なの?
実季子は首を傾げた。
季子の話し方は現代人そのものだ。
どちらかと言うと軽く聞こえる。本当に800年前の人なのだろうか?
ご覧いただき、ありがとうございます。
宜しければ、評価をいただければ喜びます。
まだ、お話は続きますがお付き合いくださると幸いです。




