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森の匂い 〜月の乙女の謎と、逆魔術の呪い〜  作者: 静寂
第7章 ペロポソ領
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ヴロヒの洞窟2

 地下水が下層に向かって流れ落ちている場所から、程なくして魔女の言っていた道は現れた。

 人が一人通れるほどの細い道が続いているが、森の魔女が、底なしだと言っていたとおり、下は真っ暗で何も見えない。

 試しにランプをかざしてみたが真っ暗だ。

 アピテが、ランプの中に入れる光の元の魔石を光らせて、下に向かって投げ落とす。

 しかし、魔石は光ながらどんどん小さくなり、見えなくなってしまった。

「残念ながら、どの程度の深さなのか分かりませんね。兎に角深いと言うことは分かりましたが」

「うむ。まぁ、渡るしかあるまい」

 アピテはヒョイと荷物を背負うと、渡り始める。

「では、試しに私が先に参ります」

 もしも、道が脆くなっていて、人が渡るのに耐えきれなかった場合のことを考えて、アピテが先に行ったのだ。

 実季子は、ぎゅっと胸の前で手を組む。

「大丈夫そうですよ〜」

 先の方でアピテの声が聞こえてホッとした。


「よし、では、我々も渡るぞ。一遍に負荷を掛けると危険だからな。

 ミキコが先を歩け。アピテがランプを掲げているから、それを目印にするんだ。

 足下ばかりを見るなよ」

 コクコク頷いた実季子は、アルカスに言われたとおりに、アピテのランプの光を目印にそろそろと先に進む。

 実季子から一定の距離をとりながら、アルカスも後ろを付いてくる。

 一体、どの位の距離を進んだのか、緊張で物凄く長い距離だったような気がする。

 どうにかその細い道を渡り終えると、午前中のようにまた狭い道が続いる。

 しかし、荷物を置いて身軽になっているので、今度は割とスムーズに進めているようだ。

 そうして、やっと狭いトンネルのような道を抜けると、また広い空間が広がっていた。


 その広い空間の真ん中には、木の根と言うには些か太すぎるが、幹と言うには幾重にも複雑に絡み合いすぎている木が、天に向かって聳え立っている。

 どうも、幾つもの木が、同じ場所から生えて絡み合っているようだ。

 少し湿ったような苔生した匂いがする。

 地表辺りに小さな穴が空いているのか、上からは幾筋もの光が木に向かって差し込んでいて、恐らくこの光を養分にして大きくなったのだろう事が伺えた。

 絡み合った幹の隙間からは、光を反射してキラリと光る物が透けて見える。

 近づいてみると、それは正しく目的の剣のようだった。

 剣はちょうど木の中心辺りで、絡み合う幹に守られるように、包まれているように見える。


「何と言うことだ。

 800年の間に地表に穴が空き、何処かから落ちた種が芽吹いてこんなに育ってしまったんだな……」

 何時もは、冷静なアルカスも、驚きの表情で目の前の木を見つめている。

 アピテが、絡み合った幹の隙間に手を入れて、どうにか手が届かないか、体ごとぐいぐい押しているが、幹がゆさゆさ揺れるだけで、手が届くようには見えない。

 アルカスと、アピテは剣で切り刻むか、火を付けるかと、物騒な話をしている。

 どこか、実季子が入り込めるような隙間が無いか、木の周りをぐるりと回って、アルカス達の居る場所とちょうど反対側に来た時だった。

 地面に埋め込まれたような石に、三日月のような絵が描かれていたのだ。

 しゃがみ込んで見てみると、人が描いたものに違いない。

 そっとその月の絵を撫でてみる。

 すると、反応するように、月の絵が描かれた石が光り始めた。

 と、同時に、実季子も腰にある三日月のアザの辺りが、熱くなるのを感じたのだ。


 あっと思った瞬間、青白い光が、眩く大きな光の球のようになって、辺りを包み込む。

 木の反対側にいたアルカスが叫ぶのが聞こえる。

「ミキコ!」

 しかし、眩しすぎて目を開けていられず、手で顔を覆う。

 暫くして、その覆った手をソロソロと外すと、光の球は消え、実季子は木の内側にいた。

 木の内側は、ぽっかりと空間になっていて、目の前には、あの剣が地面に刺さっている。

 更に驚くことに、その向こうにはアルカスが驚いた顔をして座っていた。

「ミキコ、何が起こったんだ?」

「さあ?……私にも、分からない。

 三日月の絵が描かれた石を触ったら、光り始めて……。

 それと同時に……、次の瞬間には光に包まれてた。ここ、木の内側だよね?」

「ああ……、そのようだ」

 座り込んでいたアルカスは立ち上がると、実季子の元に来て尋ねる。

「怪我は無いか?」

 コクリと頷くと、アルカスは、安心したように小さく息を吐く。

 周りを見ると木の内側は、実季子達を包むようにドーム状の空間になっている。

 まるで人口的に作られたかのように見える。


 実季子は、木の外側に目をやって驚いた。

「アルカス!アピテが動いてない!」

「何?」

 アピテは、木の外側でまるで眩しい光から目を覆うように、腕を顔にあてた格好のまま固まっている。

「アピテ?アピテ!」

 呼びかけてみるが、ピクリともしない。

「一体、どうなっているんだ……」

 アルカスは、顎に手をやり、考え込むような仕草をしていたが、フルフルと頭を振ると実季子に向き合った。

「まぁ、こんなことは考えてみたところで分からんな。

 先ずは、剣を引っこ抜いて、ここから出る方法を探そう」

 一歩踏み出すと、おもむろに剣の鞘を握りぐっと力を入れる。

 しかし、剣はビクともしない。

 今度は、両手で持ってぐいぐい引っ張ってみるが、一向に抜ける様子は無い。

「フム……抜けんな。力じゃ駄目なのか?」

 現役の軍人として一線は退いたが、ほぼ毎日剣を振るい、鍛錬を欠かすことのないアルカスが、力任せに引っ張っても抜けないと言うことは、別の方法でなければならないのだろう。

「ミキコ、抜いてみろ。私で無理ならば、ミキコしかおらん」


 アルカスにそう言われて、実季子は剣の鞘に手を伸ばす。

 すると、実季子が手を触れた途端、剣がまたしてもあの青白い光を纏って、内側から光り出し、スポッと地面から抜けると宙に浮いてキラキラ光りながら、回り始めた。


 わぁ……子供の頃見たアニメみたい

 青い光を放ちながら、クルクル回って宙に浮かぶシーンあったよな

 綺麗だなぁ……


 次々とあり得ないことが起こって、脳が飽和状態な実季子は、軽く現実逃避していた。

 空気の流れが変わったのか、ヒンヤリとした冷気が肌に纏いつくような感覚がする。

 目線を上にあげると、そこに、更に追い打ちを掛けるように、あり得ない人が登場したのだ。

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