魔女の家
魔女の家は、想像していた物とは丸っきり違った。
木々の間を抜けていくと濃い霧が立ちこめていたが、魔女が手をかざすと霧はドンドン薄くなり、視界が開ける。
その先には、一体樹齢何年なのか分からないような、太い幹の大木が空高くそびえていてる。
幹は苔むし、象の足くらいあるキノコが、上に向かって螺旋を描いて生えている。
そのキノコに魔女が足を掛け登り始め、7つほど登った先の幹に手をつくと、ボンヤリと表面に扉が現れた。
扉の上には雨よけだろうか?ひときわ大きなキノコが生えていて、その直ぐ下には幾つも連なったホオズキがオレンジ色の灯りを灯していた。
幹に生えている苔よりも濃い緑色の扉は、魔女が押すとギギィィィと、軋みながら開く。
「入りな」
魔女の後ろを付いていくと、下に続く階段が見える。
地下になってるの?その割には明るいけど……
恐る恐る階段を降りる。
「わあぁぁぁ……」
下まで降りた実季子は感嘆の声を上げた。
階段を降りた先は、寛ぐための長椅子やソファが置かれてあり、テーブルもあって、椅子が4脚置かれてあった。
そして、天井は明かり取りのために、地表であろう所が、大きく円形に開けられており、硝子が埋め込まれている。
硝子には蔦が絡まり部屋の中はほんのりとグリーンの光で満ちていた。
壁際には、等間隔に細長い袋状の植物が垂らされ、中はランプのように光っている。
「あの、森の魔女さま、誰かが硝子の上に乗ってしまったら落ちてくるのでは?」
そう訪ねた実季子に、魔女は案外丁寧に答えた。
「問題ないよ。ここら一帯は結界を張ってあるからね。
霧も、苔も、蔦も念のための目眩ましさ」
すっかり魔女の家に魅了された実季子は、コクコク頷きながら興奮で頬を赤らめながら口を開く。
「とっても素敵なお家ですね」
「おや?気に入ったかい?まだ何部屋かある。以外と広いだろう?
……さて、腹ごしらえをしようじゃないか。手伝いな」
奥の部屋に入っていった魔女を追いかけて行くと、そこはキッチンになっていた。
魔女は汚れたローブを着替えて、手を洗う。
肩のところで切り揃えた淡いベージュ色の髪の毛が、サラサラと魔女の横顔に溢れる。
キッチンの中を興味深そうに眺める実季子を見て、魔女は菫色の瞳の目元に皺を寄せた。
ソフィアと共に、既に鍋の中にあった、具材がたっぷり入ったスープを温め、パンを人数分切って、干し肉も付けてくれる。
護衛のために付いてきていた騎士が、スープやお茶、パンと干し肉の載った皿を運んで、皆で昼食となった。
彼は、自分達の分まで用意して貰うわけにはいかないと断っていたが、
「魔女が作った物は食べれないのかい?」
と、言われて首をぶんぶん横に振ってお皿を受け取っている。
「さて、あんた達は洞窟の中に、何かないか見に来たんだろう?
で、アタシに剣のことを聞きたいんだね?」
パンを千切りながらどう切り出せば良いか悩んでいた実季子は、魔女にズバリと言われて驚いた。
「あの……、そうです。私達、月の乙女の剣を探していて」
実季子は、持っていた鞄に入れていた月の乙女の手記を取り出した。
「これは800年ほど前の月の乙女と呼ばれた季子という人が書いた手記です。
これに書かれてある剣を、私達は……」
「あー、良いよ、良いよ。皆まで言わなくても分かってる。
800年前に、そのキコって言う月の乙女達の世話をしたのは、私の何代も前の先祖さ。
それ以来、代々森の魔女はその当時の話を受け継いでいる。
また、月の乙女と名のる者が現れたときのためにね。
まぁ、まさかアタシの代で現れるとは思ってもみなかったことだがね」
森の魔女は、自分の古いカップから、不思議な香りのする甘いお茶を啜ると、実季子をジッと見た。
「洞窟の奥にあるはずだよ。代々、森の魔女には、そう伝わっている。
まぁ、実際にアタシは見たことないんだがね」
実季子は、嬉しくて赤く染まった頬を緩めて、アルカスの方を見る。
「魔女よ。洞窟に納めてある剣の元に行く道は1本か?
他にも、何か知っていることを教えて欲しい」
森の魔女は、お茶のカップをテーブルに置き、黙って席を立った。
キッチンとは別の部屋に入って、何やらガタガタ音をさせていたが、やがて埃を払いながら巻紙を持って戻ってきた。
「800年前の物だからね。
若しかすると中は崩れたりして、変わっているかもしれないね」
そう言いながら、巻物をテーブルに広げる。
洞窟の中の簡単な地図のようだ。
「昔、若い頃にね、月の乙女の残した剣ってやつに興味がわいて、1度洞窟に入ってみたことがある。
結局、途中で足場が悪くて、下は底なしみたいに、真っ暗な下層が広がる道が続く場所があってね……。
ほら、この辺りだよ」
魔女は、地図の場所を指差した。
「で、行くのは、やめちまったんだよ。
行ったところで、月の乙女しか剣を探し出せないらしいからね」
「あの、途中で槍が飛んできたり、落とし穴が急に出来たり、大きな岩が転がってきたり、剣をドラゴンが守っていたりとかはないんですか?」
実季子の質問に、魔女は菫色の目をぎろりと見開いて難しい顔をした。
「あんた、妄想が過ぎるね。そんなもんは一切ないよ。
そもそも、剣を使えるのは月の乙女だけだ。
その剣を守るのも森の魔女の役目だよ。
洞窟の周辺は、常に強い結界を張って人が入れないようにしてある。
外からは見えるが、入ろうとすると、ドンドン迷って訳の分からないところに出ちまうって結界さ。
あんた達が入るときは、結界を解いてやるから安心しな」
へへへと笑って、実季子は誤魔化した。
「そうだったんですね。先に森の魔女さまに会えて良かったです。
実は、今日の昼からでも洞窟の下見に行ってみようかと思っていたので。
ぐるぐる迷うところでしたね」
森の魔女に笑いかけると、森の魔女は、驚くほど優しく笑った。
「さて、洞窟に入るなら準備をしないといけないね。
アタシの薬を分けてあげるから、もしもの時のために持ってお行き。
それと、アタシに様付けは要らないよ。アタシは、ただの森の魔女さ」
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