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森の匂い 〜月の乙女の謎と、逆魔術の呪い〜  作者: 静寂
第2章 異世界?
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出会い1

 何だか、森の中にいるみたい。

 青くて清々しい木々の葉の香り、少し籠もったような甘さを含む土の香り、包み込むような優しい幹の香りが、複雑に絡み合って実季子の鼻腔をくすぐる。

 胸いっぱいに香りを吸い込みたくて、大きく深呼吸をする。




 実季子が薄らと目を開けると、そこは中世ヨーロッパのような部屋だった。

 磨き抜かれたマホガニーの、シンプルながら品の良い彫りを施された4本支柱の天蓋つきのベットに寝かされていた。

 落ち着いたモスグリーンに、くすんだピンクの花が散らされた壁紙が張られた壁。

 手入れの良くされた飴色に光るチェストや、鏡台が目に入る。



 そして……すぐそばに、無表情で食い入るように自分を見つめる大きな男がいた。

 椅子に腰掛けているのにも拘わらず、見上げなければいけないような長身。

 肩まである長く美しい銀髪を後ろで一つに束ね、透き通るような輝きを放つアンバーの目をじっと自分に向けている。

 全体的な色味のせいもあるのだろうが、鋭い目と、それを縁取るように長い睫毛が濃い影を落としている。


 太い首から続く驚くほど分厚い体躯のこの大男。

 言葉を交わさなくても分かる。彼の身体から立ち登るように発せられる威圧感。

 気を抜けば、潰されそうだ。



 私は彼の気圧される雰囲気で動けないのか?

 それとも彼が美しいから、動けないのか……?



 緊張と喉の渇きから、ようやく喉を絞って声を発した。

「あ……の?ここ……は一体?」

 そう訪ねてしまってから、ちゃんと先に名乗るべきだったかな?と、ちょっと後悔した。

 

 その大きな男は突然、実季子の手を取った。

 驚いた実季子は、彼を突き飛ばしてしまう。

 力強く握られた訳ではなかった手は、すぐに外れ、大きな男の口から呟きが漏れた。

「つきのおとめ……」



 え? 今、彼はなんて言ったの?

 つきのおとめ?

 月? 乙女?



 目の前の大きな男の口から漏れた言葉の意味が分からない。

 実季子が、今言われた言葉の意味を尋ねようとしたとき、男の頭からピョコンと耳が生えた。

 美しい青みがかった銀髪と同じ色のフサフサとした毛を生やした、犬のような耳だ。

 実季子は、驚いて何度も目を瞬かせたが、何度見ても耳が生えてる。

 しかも頭から!

 犬耳が!!!


「っ………キャーーーーッ」

 驚きすぎて引きつっていた喉から、悲鳴が出た。

 獣耳(ケモミミ)の男は、実季子が叫んだのを聞いて焦ったようにもう一度手を伸ばした。

 実季子は、とっさに男から距離を取り、身を翻す。



 実季子の家は、剣道と合気道の道場を営んでいる。

 父親が剣道を、一番上の兄が合気道を教えている。

 実季子も、幼い頃から道場に入れられ、鍛練を重ねてきた。

 就職し、実家を離れた今でも、ことあるごとに父と兄達に練習に付き合わされる。

 そこいらの男よりは、断然に身体は動くと自負しているほどには。



 するりとベットを抜け出し、男が椅子の横に立てかけてあった剣を掴むと、シュルンと、抜いた。

 つもりだった……。

 

 が、男の剣は驚くほど重かったのだ。

 長さがあるのは分かっていた。

 男は、見上げるような長身だったし、何より剣を収めている鞘自体が長かったから。

 しかし、ここまで重いとは思わなかった。

 実季子の想定の倍は重い!!

 若しかして……、真剣?


 足を踏ん張り、腹の奥に力を入れて、実季子は剣を構えた。

 腕がプルプル震えている。重すぎて泣きそうだ。

 どうにか剣を構えている実季子を前にして、獣耳の男は、鋭く冷たい眼差しをふっと緩めた。

 実季子から剣を向けられているのに、少しも焦る様子がない。

 決して目の前の小さな女に、自分が傷つけられることはないと言う余裕があるのだろう。

 実季子よりもゆうに頭二つ分は大きいだろう体躯に鋭い眼差し。

 気を張っていなければ、体が震えてしまう。



“コンコン“


 固く、重そうな扉の向こうからノックの音が聞こえ、此方の返事を待たずに、

 ー植物と木の実、柔らかい曲線を組み合わせた優美な彫りの意匠を施された-

 扉が開かれ、これもまた大きなシルエットの別の人物が半身を覗かせた。


「兄上………」

 ドアから入ってきた兄上と、呼ばれたのだろう獣耳(ケモミミ)の男と、同じくらい大きな男は、実季子が、剣を構えているのを目にした。

「何をしている!」

 叫ぶが早いか、残像が見えないくらい早い動きで、実季子に飛びかかってきた。

 腕が震えながらもどうにか構えていた剣は、あっさり落とされ、飛びかかってきた男に実季子は、床に沈められる。


 耳がつんざくほどの怒号が耳に聞こえてきた時には、遅かった。

 受け身も出来ず、首と肩を押さえ込まれ、強かに背中を打って目がクラクラと回った。

 毛足の長いカーペットで助かったが、衝撃は避けられない。

 目に映った、扉と同じような植物と木の実の美しい地模様の天井が回っていると感じる暇もなく、実季子を押さえつけた男は、腰ベルトに刺さっていた短剣を抜き振りかぶる。

 刺される!!瞬時に悟り、恐怖を充分に感じる暇もなくキツく目を閉じたが、


「やめろ!エラトス」


 低く、重い声が部屋を満たした。

 常に人を従わせ、その声1つで全ての人間を動かすことの出来る声だ。


「彼女を傷つけることは、許さん。」

 続けて、低く放たれた声に、実季子の上で固まっていた男が微かに震え、体の上の重みが消えた。

 固く閉じていたまぶたをゆっくりと開くと、銀髪の男がそっと起こしてくれる。

 案外、紳士的だ。



 得体が知れないけれど、悪い人ではない?



「大丈夫か?」

 低い声が耳から入り、体の中に溜まって、実季子の空洞が満たされるようだった。

 男は、ソファの方を指さす。


 座れと言うことだろうか?

 自分もソファの方へ移動しながら、銀髪の男は、腰をかがめて実季子の顔を覗き込む。

 太く凛々しい眉の下の力強い金色の目がこちらを見つめている。



 キレイ……



 最大限に警戒しているのに、つい覗き込まれた瞳に見入ってしまう。

 そして、男の問いかけに返事が遅れてしまう。

「どこか痛むのか?………エラトス、侍医を呼べ」

 よく通る彼の声が、実季子を押し倒した男に命じた。


「いえ、……大丈夫です。少しぼーっとする……くらいで、大したことはありません」

 慌てた実季子が小さく返すと、

「何?……エトラス、やはり侍医を呼べ」

 エトラスと呼んだ彼に再度命じた。

「いえ、いえ、いえ、本当に大丈夫です。……それに、倒されるのは慣れているので」

 実季子が返した言葉に、エトラスと呼んだ男の方を向いていた銀髪の男が、怪訝そうに振り返る。

 澄んだアンバーの目がゆっくりと瞬いている。



 しまった! 倒されるのは慣れているなんて、失言だっただろうか?

 一体どんな女だと思われるか……



「いえ、あの……。

 武道を嗜んでいますので、鍛錬中にそういうことは良くありますので……あまり、気にするほどでもないのです」

 なんと返せば、彼に誤解されないか、考えながら言い訳をするように返したが、あまり良い言い訳では無かったかもしれない。

 言葉にしながら、自信がなくなって段々と声が小さくなってしまった。


「ブドー?……ふむ、そうか」

 実季子の言い訳を聞いて、武道が理解出来ていないようだったが、どうにか納得してくれたらしい。

 男は、座り込んでいた実季子をヒョイッと、まるで藁で出来た案山子でも立たせるかのように、軽い動作で立たせた。



 実季子は、立っている男をまじまじと見つめる。

 ほんのりと青く発光するかの如く見事な銀色の髪は、後ろで一つにまとめ背に垂らしている。

 窓からの光を反射するかのように、中心から外側に向かってグラデーションを描くアンバーの瞳は輝いて見え、眉は太く、強いまなざしは、彼の意志の強さを伺わせる。

 鼻は高く、彫りが深い顔。

 体を纏うしなやかな筋肉は引き締まっていて、着ている服を押し上げている。

 日々の弛まない鍛錬を伺わせる。

 彼が纏う色も相俟って、まるで夜明けの冷涼なオーラを帯びているようで、神々しくさえある。



 アニメのイケメンの主人公のようだなぁ



 生きている人間で、ここまで整った顔の人をかつて見たことがない。

 実季子は、157センチと標準身長だ。

 従って、首が痛くなるほど見上げないとそのイケメン顔が見れない。



 でも、この服なに?



 今まで、緊張と気持ちに余裕が無かったため、服装が脳内変換されていなかったが、なぁんとなく変わった格好だなとは思っていた。

 あまり詳しくないが、それでも漫画や映画なんかで見る中世ヨーロッパの貴族のような服装だ。


 

 コスプレイヤーか何かなのかな?


 

 白い光沢のある如何にも質の良さそうなシャツは、第二ボタンまで開けて着崩しているが、その上には、チャコールグレーのツタが絡まったような複雑な地模様が浮き出たジャガード生地のベスト。

 更にその上に、まるで夜明けの空のような濃い青。

 瑠璃色の膝下辺りまで丈のある上衣を着ている。

 上衣の襟元と前身頃には、同系色で、ベストと同じ意匠の刺繍が施され、銀モールで縁取りがされていた。

 決して派手には見えないが、手の込んだ丁寧な仕事がされている。

 服のラインは、彼の体にピッタリと沿わせながらも、前身頃の装飾部分等は直線的で男らしさを存分に引き立たせている。

 そして、彼が履いているパンツは、上衣と共布で仕立てられており、足にピッタリと沿うような膝下辺りまでのキュロット

 -この、パンツの名前が分からない- 

 で、長いブーツを履いている。




 やっぱり、貴族だ

 しかも、中世ヨーロッパの……コスプレ? 

 本当に頭が回ってきた……

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