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森の匂い 〜月の乙女の謎と、逆魔術の呪い〜  作者: 静寂
第7章 ペロポソ領
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ヴロヒ湖

 ヴロヒ湖には、昼過ぎに到着した。

 一先ず、馬車を開けた場所に置き、湖が見渡せそうな高台に馬で登ってみることにする。

 ヴロヒ湖は比較的丸い形の湖で、余り大きくない。

 先ほど馬車を置いてきた開けた場所以外は、生い茂った木々が湖の周りを取り囲んでいる。

 湖の水は驚くほど青かった。

 空の青、スカイブルーだ。

 沿岸は、薄い水色で、中央の深いところに行くにつれ青が濃くなる。

 静かにたたずむ水は、鏡のように空を映し出して、上空の雲が風に流される様が湖の水の上で見て取れる。

 実季子は、大きく息を吸って深呼吸すると呟いた。

「なんて、美しいのかしら」

「ミキコは、何処に連れて行っても、我が国を美しいと褒めてくれるのだな」

 口元から息が零れるように小さく笑うと、アルカスが湖を眺めながら、実季子を見つめる。

 湖から吹き上げる風が、アルカスの銀の髪を吹き上げて揺らす。

 ヘーゼルからアンバーにグラデーションを描く瞳には、湖の青が映って揺れて見えることで、殊更に不思議な色彩に見えて吸い込まれそうだ。


 アルカスも、ペラスギアの美しいものの内の一つだ


 そんな風に、考えてはたと我にかえると、気恥ずかしくなってくる。

「えっと……、洞窟は、どの辺りにありそうかしら?」

 湖だけでなく、隣の男に見惚れそうになって、慌てて本来の目的の話に切り替える。

「そうだな。ここから北東の方向に山肌が見えている。

 その辺りか、真っ直ぐ北の森の木々がひときわ盛り上がっているところ辺りか……?

 どちらにしろ、アピテに様子を見に行かせよう。

 それから、森の魔女の住処も見つかると良いんだが……」

 森の魔女には、あれからも、何度かイリニの友達の魔女を通して、コンタクトをとろうと努力をしたが、変わらず素っ気ない返事が返ってきただけだった。


 ミキコとアルカスが、ソフィアが淹れてくれた御茶を飲んで、お菓子をつついている内に、アピテは馬を走らせて湖をぐるりと反対側に周り、アルカスが目を付けた辺りを調査して戻ってくる。

「陛下、ミキコさま、行って参りました。

 陛下のご洞察の通り、湖の北東側の奥に洞窟がありました。

 ミキコさまが描かれた絵とも似ていると思います。後ほど、ご確認ください。

 それと、森の魔女の住処ですが……申し訳ありません。見つけることが叶いませんでした。

 一先ず、湖の沿岸部を探しただけですので、もう少し森の奥まで入ればあるのやもしれませんが」

「うむ。では、洞窟を確認してみるか。

 アピテ、洞窟の近くに、天幕を張れそうな土地はあったか?」

「はい、直ぐ近くに4つほどならば天幕が張れそうな小さな開けた場所が御座います」

「よし。皆、湖の反対まで行くぞ」


 4つ張った天幕は、一つはアルカスが、一つは、実季子と、ソフィアが、もう一つは、アピテや護衛騎士と、御者が使う。

 残りの一つは、会議をしたり、食事をしたり、雑事に使う事になっている。

 皆と一緒に簡単な夕食を取り、ソフィアが小さいけれど、実季子なら入れる大きさの盥に水を張り、湯が沸く魔石を放り込むと簡易のお風呂が出来る。

「ミキコさま、お湯が用意できましたよ」

 ソフィアは、衝立を立ててくれ、清潔なリネンや石鹸も用意してくれた。

「ありがとう。こんなに本格的に湯浴みが出来ると思ってなかった。早速入らせて貰うね」

 盥も、魔石もちゃんと皆が使えるように準備してきているらしく、それを聞いた実季子は気兼ねなくお湯を使うことが出来た。

 アピテ曰く、戦の時にもこうして、入れる余裕のあるときには、順番に湯浴みをしたり、川や湖などの水場で体を清潔に保つように指導するらしい。

 衛生面に気を付けなければ、病気が蔓延したり、怪我をした者の治りが悪かったりもするからだと教えてくれた。


 天幕の中は、落ち着いた柄や色合いの敷物が、何枚も重ねられて敷き詰められ、実季子が寝たり、着替えたりするスペースには薄黄色の紗の布が何枚か重ねられて吊り下げられ、仕切りの役割を果たしていた。

 ソフィアが用意してくれた、いつもよりも生地が厚めで、装飾の少ない夜着に着替えて、ランプの明かりを消すと、外からは風の音と、木々の葉がさざめく音、虫の音、鳥の声……様々な音が聞こえてくる。

 その音を聞きながら、目蓋を閉じゆっくり深く呼吸していると、いつの間にか眠りに誘われていた。


 翌朝は、眩しいくらいの青空が広がる晴天だった。

 実季子は、意気揚々とマダム・マリナに仕立てて貰った洋服に着替える。

 これを作るにあたって、ソフィアには、スカートじゃないと散々言われたし、マダム・マリナは面白がって装飾過多なデザインを何枚も描いて寄こした。

 どうにか三者が納得する物が出来上がるまでに、かなり実季子の神経はすり減った。

 でも、やっとこの世界に来て動きやすい格好が出来た実季子はご満悦だ。

 立て襟の上衣は膝の長さまであり、前ボタンで留められるようになっている。

 が、腰から下が緩やかに広がっているためワンピースのようにも見える。

 下には、裾の膨らんだパンツ。所謂バルーンパンツを履いている。

 足元は黒のロングブーツだ。これは、ペラスギアの軍が支給している物を実季子のサイズに作って貰った。

 色は、夜明け前の青色。

 ペラスギア帝国軍の軍服と同じ生地だ。

 マントも、軍支給の物を実季子のサイズにして貰っている。

 袖に金色のモールで入っているラインや、襟元に施されている控えめな装飾も、ペラスギア帝国軍の軍服と同じ意匠にしている。

 ソフィアに、髪をキッチリ結い上げて貰って天幕を出ると、実季子と挨拶を交わそうと此方を見たアルカスが、驚いたように目を見開いた。

「ミキコ。一瞬、誰かと思ったぞ」

 そうして、ニヤリと口角を上げる。

「良いな。女性の騎士も増やすつもりでいるからな。

 それと同じ制服にするか。似合っているよ」

 アルカスが笑ったときだった。


 まだ、朝も早いのに森の奥から何やら人の声が聞こえる。

 アルカスやアピテ、ソフィアも聞き取ろうと耳を澄ませる。

 木々や、岩に反響しているようで、はっきりと話の内容は聞き取れないが、どうも争っているようだ。

 先ずは様子を見るために、騎士やアピテが前を行き、その後ろをアルカスや実季子、ソフィアが続いた。

 視認出来る距離まで近づくと、何人かの子供が何かを囲んでいる。


「おい!そっちに回れ、逃がすなよ。悪知恵が働くからな」

「近づくと、喰われるんじゃないか?」

「投げ網を投げて、動けなくしろ!」

「気持ちが悪い奴だ。早くやっちまえ」

 大きな子も小さな子もいる。

 皆、口々に悪態をつき、中央でうずくまる黒い物に泥や石を投げつけている。

 実季子は、目をこらして中央の黒い物を見た。


 動いている

 黒いのはローブ?

 人だ!

 

 そう認識したときには、そこらに落ちていた木切れを手に掴み、アルカスやアピテの横をすり抜けて、手に持った棒を振り回しながら、大声で怒鳴っていた。

「コラァー!!!あんた達、何やってんのよ!」

 ミキコの剣幕に、子ども達は怯んで手を止めたが、今度は実季子が敵だとばかりに石を投げてきた。

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