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森の匂い 〜月の乙女の謎と、逆魔術の呪い〜  作者: 静寂
第7章 ペロポソ領
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ペロポソ領へ

 アルカスと、ペロポソ領に旅立つ日は、とても晴れていて暑い日だった。

 朝早い時間から、太陽が顔を覗かせた途端、気温が上がりジリジリと地面を焼いている。

 実季子は、支度を終えた動きやすいドレスの上に、太陽を遮るためのマントを着て馬車に乗った。


 ペロポソは、キリル大陸の南端に広がる半島に位置している。

 王都タブラからは、サロコス湾で隔たれており、南西に大きく湾曲したコリント地峡で繋がっている。

 内陸にはタイゲス山脈が南北に連なり、夏季には、高温乾燥に耐えるオリーブや、オレンジ、ブドウなどに似た果物の果樹栽培が行われ、丘陵地斜面では、山羊や牛などを放牧しての家畜飼育が盛んだ。

 東にキーマ海、西側はメソン海に挟まれており、豊かな漁場が広がり漁業が盛んな土地だ。

 帝国を築いた、リュカリオン皇帝の腹心の部下であった、海の民族の子孫であるキプス・パパドプロスが治めており、領民は屈強で忍耐強く、結束が強いと言われている。

 そのペロポソ領の北東にあるネポス山の麓に、グラシディの森があり、更にその森の中にヴロヒ湖がある。

 その近くにある洞窟が目的地だ。


 タブラからは真っ直ぐ南下した コイノー橋を渡る。

 ヴロヒ湖に一番近いヴロの町までは、通常、馬車で5日ほどの道程だそうだが、ペラスギアの馬車を引く馬は、大きく力が強い。

 また、クレオン達技術者が開発した、魔石をふんだんに使った馬車は、車輪を強化させ、サスペンションを、よりクッション性の高い物に進化させている、スピードと乗り心地を追求した乗り物で、約半分の時間で着くそうだ。

 朝早くに出発し、翌々日の昼過ぎにはヴロの街に着く旅程だ。


 実季子の荷物の管理や支度のためにソフィアが。

 警護と雑務のために、アピテを含めて3人の近衛が、馬で併走して同行することとなった。

 後、御者が一人だ。

 実季子が思っていたよりも、馬車の旅は快適だった。

 以前、攫われたときに乗せられた馬車は、恐ろしく揺れたから相当覚悟していたのだ。

 しかし、4頭立ての大きな馬車は滑らかに走り、クレオン達技術者が開発しただけあって、揺れも少なく、従来よりも径を少し大きくし、強度を上げたという車輪がスピードを上げても安定した走りを実現していた。


 凄いなぁ……

 ペロポソから帰ったら、クレオンとペトラに話を聞いてみよう


 ウキウキしながら、窓から少し身を乗り出して、軽快に回転する車輪を見ていたら、後ろからアルカスに抱えられて、ポスンと膝の上に乗せられた。

「ミキコ、窓から身を乗り出していると、放り出されるぞ」

 緩く、だがガッチリとホールドされた腕は、外そうとしてもビクリともしない。

「アルカス、自分で座れるから大丈夫」

 どうにかアルカスの膝の上から降りようと試みたが、全く上手くいかない。

 仕方が無いので、そのままアルカスの膝にチョコンと乗っかっていたが、馬車の揺れとアルカスの体温、おまけに朝が早かったのも相俟って、段々と眠くなってしまった。

 うつらうつらし始めると、そっと実季子の体を自分の胸に凭れさせ、包み込むように抱き寄せられると、そのまま、アルカスの胸にもたれ掛かって、寝入ってしまった。

 実季子が次に目を覚ましたのは、昼前の休憩の時だ。

「おはよう、ミキコ。目が覚めたか?」

 アルカスの低い声が胸に響いて、もたれ掛かっていた実季子の体の中に、響いてくるようだった。


 心地良いな

 広い胸、暖かな体温、低い声


 開いていた目を、また閉じて、もう一度眠ってしまいそうになったが、ハッと目が覚める。

 

 ここ何処?

 

 完全にアルカスにもたれ掛かって体重を預けていたが、ガバッと上半身を起こして、アルカスと距離をとろうとした。

 が、膝の上に座っているのだ。

 バランスが崩れて体が揺れたのを、アルカスがしっかりと支えてくれる。

「ミキコ、大丈夫か?」

 問いかけられる低い声に、目をパチパチと瞬かせながら、首を斜め上に向けてアルカスを見る。

「あの、……私、寝て……ました?」

 何とも、間抜けな質問をしてしまった。

 少し口角を上げて、笑ったアルカスが、実季子の乱れた髪を耳にかけて、そのまま大きな手で髪を撫でる。

「朝が早かったからな、睡眠が足らなかったのだろう。よく眠っていたよ」

 そう返されて、完全に目が覚めた。

 ずっとアルカスの膝の上で、アルカスにもたれ掛かって、眠っていたのだ。


 まるで、小さな子供じゃないか……

 恥ずかしい


「えっと……ありがとう。今は、お昼?皆さん、休憩中?」

 そう言いながら、そっとアルカスの体から離れて、膝の上から降りる。

「ごめんなさい……、ずっと……アルカスの膝の上で寝ちゃってて………。重かった……ですよね?」

 アルカスは、ふっと息を吐くように笑うと、小さく頭を振る。

「ミキコは、軽いぞ。ずっと膝の上に乗せておいても大丈夫だ」

 実季子は、恥ずかしくて真っ赤になって俯いた。


 翌日、コイノー橋を渡るためにコノの街を出立した。

 全長が3キロ弱もあるこの橋も、魔術師団の魔術師達と、クレオン達技術者達の共同開発で完成したそうだ。

 橋桁を支える基礎の根本を、巨大な魔石で囲み、常に海からのエネルギーを取り込む。

 そのエネルギーを利用して、橋脚や主塔、ケーブル等を支えているそうだ。

 この国は、魔術と技術が合わさって始めて物が出来ている。

 実季子も、魔術を勉強したくなった。


 海面に陽が射すと、鮮やかな青色がキラキラと燦めいて青の中に銀色の鱗が光っているように見える。

 その海の中に真っ白な斜張橋(しゃちょうきょう)が建っていた。

「わぁ!スッゴい綺麗。

アルカス、窓を開けて外を見ても良い?」

 弾んだ声で訪ねた実季子を、目を細めて見ると、アルカスは御者に向かって、声を張る。

「少しスピードを落としてくれ」

 アルカスの指示に、御者は直ぐさま馬車のスピードを落とす。

「スピードがゆっくりだから、窓の外を見ても大丈夫だぞ」

 アルカスは、実季子の為に窓を開けてくれる。

 窓から暑い風と共に、潮の香りが馬車の中いっぱいに入ってきて、実季子は窓枠に手をかけて外を覗き込んだ。

 強い日差しと、海から反射する光で、眩しくて目がチカチカする。

 乾いた風が、実季子の頬を撫でて、ほつれた黒髪を舞い上げる。


 空気が違うってこう言うことなんだ

 暑くて、ジリジリして、少し埃っぽい

 でも、爽やかな空気


 橋を渡り終えて、景色を満喫した実季子は、御者にありがとうと、声をかけると窓を閉めて腰掛ける。

 馬車の中には、空調を管理できるように冷気を発する魔石が四隅に置かれていて、涼しい。

 窓を開けていると冷たい空気が逃げてしまう。

「素晴らしく美しい海なのね。青色が眩しいくらいだった。

 わざわざ、速度をおとすように言ってくれて、ありがとう」

 アルカスは、目線だけで頷くと、外がもっと良く見えるように、カーテンを留めてくれる。

「ペラスギアは、何処も美しい景色が溢れているが、ペロポソは海に囲まれた半島だからな。

 特に海は美しい。強い海風が吹いて、乾燥するが、我々への恩恵も多い。

 目的が、違えばもっとゆっくり見て回れるのだがな」

 口元を緩くほころばせて、チラリと犬歯を覗かせながら微笑むアルカスに、実季子は勢いよく頭を振った。

「ううん、とんでもないよ。

 そもそも、私を元の世界に返すために、忙しいアルカスに付き合って貰ってるんだもの」

 政務がビッシリ入っているアルカスが、どうにか調整して空けた時間は移動も含めて10日間だ。

 それでも、シメオンはいい顔をしなかった。

 謎が解け次第、お帰り下さいと言われている。

 アルカスが留守の間は、急ぎの政務の決定権は、エラトスが行い、諸々の執務はシメオンが行うことになっている。

 しかし、2人ともとても忙しいのだ、早く帰ってあげないと。

 実季子は、こぶしを握りしめて、アルカスに力強く頷いてみせる。

「大丈夫。順調にいくように、月の乙女の書いた手記も持ってきたから」

 鞄の中に入れている手記の入った辺りを、ポンポンと叩いてみせた。

始まりました。新章です。

ようやく、二人が旅立ちました。

やっと、物語も動きが見れるようになってきます。今後も、どうぞお付き合いくださいませ。


宜しければ、評価もいただけますと、大変喜びます。

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