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森の匂い 〜月の乙女の謎と、逆魔術の呪い〜  作者: 静寂
第6章 月の乙女
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月の乙女とは?4

 どうにかその日の夕食の時間に、4人で集まり、今日あった出来事を話しあうことが出来た。

 見つかった手記は、やはり800年前に、月の乙女と呼ばれた女性が記した物らしく、彼女の名前と思われる“季子“と記された漢字が、何カ所かに書かれてあった。

 実季子は、一瞬自分の名前を略した物なのかと、驚きながら手記を読んだが、800年前の月の乙女の名前が季子と言う名前だったようだ。

 と言っても、手記は簡単な事しか書かれておらず、彼女が日本から剣を持って現れたと言うことと、当時のタブラで、ゼスター・ペラスギアと言う男性と出会い、後に彼と番になったことが最初に記されている。

 そして、狂狼化を解く際に季子が日本から持ち込んだ剣を使い、その剣の穢れを森の魔女がヴロヒの水で洗ってくれたこと。

 季子とゼスターが、岩屋の穴の中に、剣を納めたことが書かれてあった。

 月の乙女は日本人だったのだ。

 天井画に書かれていた女性は、確かに黒髪だった。

 何だか、自分がこの世界に来たのは800年前の月の乙女が、日本人だったことも深く関わっているような考えさえ思い浮かぶ……。


「私が調べましたところ、このゼスター・ペラスギアなる人物は、当時のペラスギア帝国、初代皇帝リュカリオン・ペラスギア陛下の弟君であったと、皇家の系図に記されてありました。

 そして、このゼスターなる人物が狂狼だったのだろうと推測できます」

 凄い勢いで、料理を口の中に運んでいる兄弟をチラリと見ながら、シメオンが説明する。

「となれば、キコと記されている女性が、日本から持ち込んだ剣は何処にあるのかだな。

 森の魔女、ヴロヒの水、岩屋の穴の中。

 これらの言葉が何処を指すのかが分かれば、調べられそうだな」

 ナイフとフォークを操る手を一端休めると、アルカスがシメオンの言葉に続ける。

「そう、そう。

 私とアルカスが見た絵も、銀髪の男性が指を指していた先に描かれていたのは、うっそうと茂る緑の木々の切れ間にポッカリと空いた暗い空間だったよ。

 それが、手記に書かれてある岩屋の穴かな?」

「よし。じゃあ、イリニに魔女について聞いてみるよ。

 あいつ、魔女に知り合いがいるはずだから」

 そう、請け負ったのはエラトスだ。


「ねぇ……ソフィアが、イリニは家に居ないって言ってたけど、じゃあ、エラトスが、イリニと一緒に住んでるの?」

 今までの話と、関係の無い実季子の問いかけに、エラトスは、クィーッと飲んでいたワインが気管の方に入ってしまい、涙を流しながら、ゴホゴホと派手に咽せた。

 実季子は、エラトスの背中をさすってやりながら、不貞腐れ気味に口元を歪めた。

「ああ……、ゴメンね。突っ込んじゃ駄目なところだったの?

 エラトスの口からイリニの名前は出てくるけど、誰も私にイリニが如何してるのか教えてくれないからさ」


 まだ咳き込んでいるエラトスが、涙目で実季子を見る。

 実季子は、ニッコリとエラトスに笑いかけた。

「良いの。イリニが幸せにしてるなら。エラトス、大事にしてあげてね」

「エラトス、私の妹は、お前の家に預かって貰っているだけのはずだと記憶しているんだが……」

 シメオンが、不穏な空気を漂わせ始めたのを感じて、エラトスがワタワタし始める。

 食事の終わったアルカスが、小さく息をついてすかさず場を締め括った。

「明日は、森の魔女、ヴロヒの水、岩屋の穴に関して調査を行う。

 また、分かったことは報告するように。では、解散。

 シメオン、エラトス、どこか他の場所でゆっくりやれ」

 実季子は、言ってはいけないことを言ってしまったのを感じて、苦い物を噛んだ後のように顔をしかめていたが、アルカスにさっと手を取られて、シメオンとエラトスを置いたまま部屋を後にした。



 昼間の熱をまだ残したような空気が漂っている廊下を、アルカスに手を繋がれたまま歩く。

 西の空の地平線が、まだほんのり青色を残しているが、天頂は濃い藍色で覆い尽くされ、無数の燦めく光が瞬いている。

 庭の隅っこで虫達が啼いている声が聞こえる。

 アルカスの手の温もりが心地良くて、繋いでいる手が自然と前後に揺れる。

 緩んだ口の端から、クフフフフと、笑いが出ると、アルカスもほんの少し口角を上げて、実季子の顔を覗き込み、問いかけるような視線を投げてきた。

「エラトスと、イリニ。幸せになって欲しいな」

 実季子の言葉を受けて、アルカスも優しく微笑んだまま頷いた。


 私の幸せは、何処にあるんだろう?


 ふっと、そんな考えが頭をよぎって、アルカスと繋いだ自分の手が視界に入った途端、何だか目の奥が熱くなった。

 すぐに頭を振って、考えるのを辞めた実季子は、繋いでいる手にキュッと力を込める。

 庭の花壇に咲いている青い小さな花が、夜風に揺られて微かな甘い香りを運んでくる。

 季節は、夏になった。


 次の日には、ヴロヒの水とは、ペロポソ領にあるヴロヒ湖では?と言う仮説がたった。

 そのヴロヒ湖のそばには、グラシディと言う森があり、昔から森の魔女と呼ばれる魔女が住んでいるそうだ。

 そして、そのヴロヒ湖のすぐそばには、古い洞窟があるという。

 何よりも、その周辺は、月の乙女の事だと思われる黒髪の乙女の話が、地元の人間達に脈々と語り継がれているようだ。

 そこで、イリニの友人である魔女から、森の魔女に宛てて、皇帝陛下が聞きたいことがあるらしいと、連絡を取って貰った。

 -魔女同士は、魔法を使って簡単に連絡をやり取りする方法があるらしい-


 ところが、森の魔女からは、皇帝と話すことなど何もないと、素気ない返事が返ってきたと言うのだ。

 その洞窟に向かうとしても、前以て仕入れることの出来る情報は入手しておきたかったのだが、イリニの友人の魔女は、何度か連絡を取って見たが、梨のつぶてだと言って寄越した。

 また、ペロポソ大公であるキプス・パパドプロスにも調査を頼んだ。

 そうすると、ヴロヒ湖の周りの地方で語り継がれている黒髪の乙女の話は、やはり800年前の月の乙女の事だと判明する。

 黒髪の乙女が、銀の髪の人狼と一時滞在していたと言う資料も見つかったそうだ。

 ペロポソ大公は、引き続き調査を行い、分かったことがあれば追って知らせてくれると連絡があった。

 手記に書かれてある森の魔女、ヴロヒの水に関しては分かった。

 残すは、岩屋の穴だが、恐らくヴロヒ湖近くの古い洞窟に違いないだろうと結論づけて、その洞窟の中を調べてみようという話になる。

 こうして、アルカスと実季子は、ペロポソ領にあるヴロヒ湖に向かうことにしたのだ。

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