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森の匂い 〜月の乙女の謎と、逆魔術の呪い〜  作者: 静寂
第6章 月の乙女
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月の乙女とは?3

 実季子は、王家所有の図書所蔵庫から調べることになった。

 城の中に国立図書所蔵庫もあるらしいが、月の乙女関係のことは、恐らく王家所有の所蔵庫にある可能性の方が高いだろうという事からだ。

 アルカスとエラトス、シメオンは秘蔵文献庫を調べつつも、日替わりで王家の所蔵庫も調べるそうだ。

 エラトスには、実季子も秘蔵図書を調べて貰っては?と言われたが、秘蔵図書の中には国家機密に触れるものが沢山ある。

 国家機密を知ることによって、実季子が狙われる可能性を無くしたいとアルカスが反対したのだ。

 王家所有と言っても、かなりの所蔵量で吹き抜けの高い天井の足元から3メートル上の所辺りまでビッシリと本が収められ、上の方には、かけられたハシゴを使って上がるようになっている。

 また、更に上は中二階になっていて、階段から登って中二階部分に行くようになっている。

 そんな様式の書架が、幅広の草色のカーペットを敷かれた通路を挟んで両側に並んでいる。

 通路の長さは、30メートルほどはあるだろうか。

 壁側に、3客ほど椅子が置かれている。

 奥の壁も書架が並べられ、部屋をコの字に書架が配されている。

 中庭に面した壁側には、明かり取り用の縦長の窓が等間隔に並んでいて、それなりに明るかった。


 何となく分かってはいたが、凄い量だなぁ……

 

 室内は、古い紙の匂いがして、少し埃っぽい。

 本は好きだ。

 考えが柔軟でなければ、人生は豊かにはならないと母に言われ、母にベタ惚れの父が、離れに書庫を作っていた。

 そのため、どんどん母が本を買ってきて、古い離れの床では抜けるかもしれないと、床下を補強するリフォームまでしたのだ。


 お母さんは、元気かなぁ?

 心配してるんだろうな


 そう思うと、早く帰る手がかりを見つけなくてはと思う。


 何処から手を付けるべきかと悩んで、実季子は、一先ず入り口近くの書架から始めた。

 王家所有の所蔵書は、色んなジャンルの書籍があるようだった。

 古い物が多く、表現が古いため、読むのが大変だ。

 シメオンに言って、古語の意味が書かれている、辞書のような役割を持つ本を借りて、読み進めていく。

 大変な作業だ。

 今まで、建国祭のためにマナーに歴史に、ダンス、貴族の勉強をしていたが、建国祭も終わったので、マナーと歴史、一般教養の講義だけを残して一旦他の講義はお休みすることにした。

 出来た時間を、所蔵庫で過ごしている。

 何日も講義の時間以外は、所蔵庫で過ごしたが膨大な量の文書の中から、月の乙女に関する文章を見つけ出すのは容易なことではなかった。

 他の面々も同じらしく、日に一度は皆で集まって進捗状況を確認しているが、芳しい報告は聞けていない。


 今日も明かり取りの窓の側に椅子を持っていって、本を開いて調べていたら、急に手元が翳る。

 見上げると、アルカスが側に立っていた。

「あまり、根を詰めすぎると体を壊す。少し休憩してはどうだ?」

 困ったように薄く笑いながら、自分も実季子の隣に椅子を持ってきて腰掛ける。

「なかなか、大変な作業ね。分かっていたことだけど、ちょっと気持ちが暗くなってたの。

 アルカスは?お仕事は?」

「何やら、風邪が流行っているようで、予定されていた会合の相手が、寝込んでいるそうだ。

 ポッカリ予定が空いて、シメオンがそこに、別のスケジュールを詰めようとしていたので逃げてきた」

 いたずらが成功したように笑ったアルカスと一緒に実季子も笑った。

 静かな所蔵庫に、二人のクスクス笑う声が反響する。


 縦長に開口された窓から差し込む光が、アルカスのシルバーの髪を照らしている。

 埃がその周りを舞っているのが、キラキラ光って彼の周りを、妖精が撒き散らした粉が舞っているようだ。

 高い天井に書かれてある見事な天井画も、同じようにキラキラと眩しく光っているように見える。


 綺麗だなぁ……


 所蔵庫は、天井が柱で3つに別れていて、一番奥の天井画に描かれてある男の人もアルカスと同じように銀髪だ。長い長剣を持った、黒髪の乙女の周りに広がる光の輪の中に誘われて、光を浴びているような絵だ。

「ねえ……、アルカス。

 黒い髪って珍しいって、前に何かの時に言われたような気がするんだけど、私の思い違いかな?」

「いや、ミキコの髪色は珍しい。実際、私の知っている限りでは、黒い髪色は見たことがないな」

「それって、絵の中でもそう?」

 アルカスに問いながら、奥の天井を指差した。

「……なんだ、あの絵は?最初から黒髪だったか?」

 呟いたままアルカスは、天井画に見入っている。

「え?黒髪じゃなかった?」

「いや、自信はないが……。そもそも、あの場所の絵は、あの絵ではなかったような……」

「アルカス。それにね、あの男の人、アルカスに似てるような気がする」

 乙女は、右手に高く剣を掲げ、顔は、愛しそうな目で男性の方に向け、左手は銀髪の男性の肩に置かれている。

 アルカスに似た銀髪の男性は、左手で黒髪の女性を抱えるように抱き上げ、右手はうっそうと茂る緑の木々の切れ間にあるポッカリと空いた暗い空間を指差している。

「アルカス、あの絵の下に行ってみよう」

 実季子は、所蔵庫の一番奥にある絵の真下までアルカスを引っ張るって来ると、もう一度絵を見上げた。

「ねぇ、アルカス。私を絵と同じように抱き上げてみて」

 実季子にそう言われて、アルカスは戸惑った顔になる。

「抱き上げる?ミキコをか?」

「そう、絵と同じように。左手でね。

 ちょっと剣はないけど、絵と同じようにやってみよう」

 アルカスは、実季子の真意が分からないながらも、言われたとおりに左手で実季子を抱き上げる。

 実季子は、右手を天井に向かって掲げ、左手はアルカスの肩に置いた。

「それで、右手を絵と同じように奥に向かって指差してみて」

 実季子は、アルカスに向かって微笑んでいる。そこも絵と似せようとしているらしい。

「ふむ。こうか?」

 アルカスが絵と同じように、所蔵庫の奥に向かって右手を指さした瞬間、パアッと、2人を包むように輪を描いて淡い月の色に似た光りが広がった。

「きゃあ!」

「ミキコ!……私の右手の指先を見て見ろ」

 実季子が驚いて声を上げたのと、アルカスが実季子に向かって呼びかけたのはほぼ同時だった。

 アルカスの右手の指先からは、真っ直ぐに書庫の奥に向かって、月の色の光が線を引いたように伸びていた。 

 そして、その先にある一冊の本が、ぼんやりと光を発していたのだ。

 2人を包むように輪を描いていた光は、暫く2人を包んだまま、キラキラと、光の粉のような小さな粒を撒き散らしていたが、やがてその輪の大きさをどんどん縮めて、実季子の体の中に吸い込まれるように消えてしまった。

 実季子を、そっと降ろしたアルカスは、先程発光していた本に向かって行き、まだボンヤリと光を発しているそれを、ゆっくりと本棚から引き抜いた。

「ミキコ、あったぞ。

 これは、800年前の月の乙女か、若しくは彼女に近しい人物が書いた手記のようだ」

「凄い!見つけたね。エラトスとシメオンにも知らせよう。

 それから、この絵も2人に見せて………アル!見て」

 実季子は、天井を指さす。

「っ………!絵が……変わっているな」

 黒髪の乙女と、銀髪の男性の絵は、青いドレスの女性が幼子を愛しそうに抱いている絵に変わっていた。

「そうだ、この絵だ。以前からここにあった天井画は、この絵だ」

 アルカスに言われて、実季子は、再度天井画をジッと眺めた。

 確かに絵は、他の天井画と比べても絵の具の掠れ具合や、色あせ方などから同年代に描かれた物に見える。

 実季子は、一先ず手元に置いてあった紙に、黒髪の乙女と、その乙女を抱き上げる銀髪の男性、そしてその男性が指し示すようにしている木々の切れ間にある空間も、ラフを描いておくことにした。

 後で、エラトスとシメオンに説明するときに必要だろう。

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