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森の匂い 〜月の乙女の謎と、逆魔術の呪い〜  作者: 静寂
第6章 月の乙女
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月の乙女とは?2

「昨日のミキコさまの誘拐事件ですが、犯人の目星はつきましたか?元帥閣下?」

 エラトスは、ペラスギアの現 元帥だ。

 5年前までアルカスが担っていたその称号を、アルカスが皇帝になると同時にエラトスが引き継いだ。

 ペラスギア帝国の全ての軍の最高権力者だ。

 軍事が関わること全てに彼の権力が及び、またその全ての責任を負う。

 -仕事をさぼって、ほっつき歩いているように見えることもあるが、本当は超多忙なのだ-

「それだ。まだ、犯人は口を割らないが、口を割らずとも十中八九、プレギアースの仕業だろう。

 ミキコを最初に攫った男は、逆魔術師だし、御者はあれでも軍人だ。

 奴の胸ポケットに入っていたタバコは、プレギアースの軍たばこだ。

 服も靴も町人風を装っていたが、タバコはうっかり持って来ちまったんだろうな」


「なるほどな。ミキコは、奴に何か言われて声が出なくなったと言っている。

 私が、馬車に乗り込んだときに、あの男は、逆魔術を使おうとした。

 肩に噛みついてやったら、喋らなくなったがな」

 実季子を攫われたのを思い出したのか、苛立たしそうにアルカスがエラトスの言葉に同調した。

「兄上、もうアイツの肩は使い物にならないぜ」

「何の問題も無かろう。そもそも使っていたかどうかも怪しい」

 まるで、古道具が壊れてしまった話でもしているかのようだ。

「恐らく、ミキコさまを此方の世界に連れ込んだ黒いコートの男もプレギアースの逆魔術士ではないかと推測されます。

 ミキコさまが川に転落する際に聞いた言葉は、逆魔術でしょう。

 そして、何より月の乙女に関して書かれてある文献には、こう記されているのです。

 月の乙女を制する者が狂狼を制する」

 シメオンは、実季子を見ながらそう言った。

「待って。

 私を此方に連れてきたのがプレギアースの逆魔術師だとしたら、逆魔術師なら元の世界に帰る手立てを知ってるんじゃないの?」

 そう言った実季子にアルカスが顔を向ける。

「そうだな。知っているかもしれない」

「じゃあ、その逆魔術師に聞けないの?」

 帰れる可能性が急に高まって、興奮してアルカスの袖をギュッと握る。

「逆魔術師が帰る方法を喋ったとしよう。

 しかし、それはどの位信用がおけるのだ?

 敵国の、ミキコを攫おうと画策した逆魔術師の話だ。

 ミキコをプレギアースに連れ去られるかもしれない。

 例えプレギアースに連れ去られたとしても、まだ、この世界にいるのならば構わない。

 何としてでも私がミキコを取り返す。

 しかし、中途半端な方法で元の世界にも戻れず、此方の世界からも飛ばされ、何処かまた違う世界に行ってしまったら?」

 アルカスの言葉を聞いた実季子は、また違う世界に飛ばされてしまうことを想像して、ブルリと震えた。

 その通りだ。敵国の逆魔術師の言葉など、一ミリも信用できない。

 多少のショックは受けたが、全てに納得がいった実季子は、ゆっくりと首を縦に振った。


「それから、これは推測ですが、これらの情報が何処からか、プレギアース側に回っていると思われます。

 800年ほど前、この帝国がまとまったと言われる大戦時、狂狼の力を持つ者が現れた際に、当時のペラスギア家の当主であったリュカリオン・ペラスギアは、敵国に狂狼を派遣し、敵国を次々と打ち破り、大戦を終わらせたと言い伝えられています。

 また、別の文献には、狂狼の力は、大戦が終わるまで止まらず、戦には勝ったが、敵味方どちらも大量の死者を出した。

 建物を打ち壊し、田畑も荒れはて、平定後の戦後処理には長い時間と労力がかかったとも記されている文書が残っているのです。


 これらの情報がプレギアースに渡っているならば、ミキコさまを手に入れ、狂狼を操りたいと考えているのかと推測されます。

 つまり、陛下が狂狼化している情報も、漏れていると考えて良いかと」

 実季子は、シメオンの話を聞いて絶望的な気分になった。

「そんな大事な情報が敵国に漏れてたら一大事じゃない。

 私を手に入れて、アルカスを操るだなんて」

 しかし、シメオンの言う文献に残っている文書は、大袈裟なような気もする。

「でも……実際に狂狼の力ってどの程度なんだろう?

 その大戦って、今のラキア、ウピロス、アッティーハー、ペロポソの4地域が当時のタブラと戦った戦よね?

 私が、帝国史を学んだときは、アッティーハーは、1番に戦線離脱してリュカリオン初代皇帝陛下に忠誠を誓ったし、ペロポソは、リュカリオン陛下の腹心の部下だった海の民族だって教えて貰ったよ?

 実際は、ラキアとウピロスの2国との戦いだったって事じゃないのかな?」

 アルカスは、実季子の話を聞くと、頷く。

「その通りだ。

 タブラと4国との大戦と言うが、実際早い段階で、タブラ、アッティーハー、ペロポソ対ラキアとウピロスだったようだ。

 その2カ国との戦いで最後の切り札として使われたと考えて良いだろう」

「それでも、歴史に残っているくらいの狂狼の力を手に入れることが出来れば、有利になると考えているって事だね?」

 実季子が問うと、シメオンが更に付け加える。

「狂狼の力も欲しいのでしょうが、その狂狼の力を有しているのは、わが国の皇帝陛下です。

 皇帝陛下を手に入れれば、戦に戦わずして勝つことも可能でしょう」

 沈黙が降りて、皆が険しい表情をした。


「もう一つ腑に落ちぬ事がある」

 アルカスが低い声で言うと、エラトスとシメオンも頷いた。

「昨夜、どうやって城の中庭まで入り込めたか……だよな?」

「その通りだ」

 エラトスが、アルカスに答えると、シメオンが引き継いだ。

「幾ら、プレギアース側に情報が流れていようと、我が城のセキュリティは万全の体制のはず。

 幾ら建国祭で、街の中に他国からも人が入ってきているとは言え、誰かが招き入れない限り、そう易々と城の中にまで入り込めるはずがありません」

「しかも、その人物は、城の中にあの二人をスンナリと入れれるほどの力がある者だ。

 俺らも信頼を置いているほどの」

 エラトスが、シメオンに返すと、考え込んでいた風なアルカスも同意した。

「その件も早急に調べねばなるまい」


 エラトスは、ハーッとため息を一つつく。

「それで、月の乙女に関しては他に何か分かってるのか?」

「おとぎ話のような話の他にも、月の乙女と言う娘が存在していたと記載されている本は何冊もあるのは事実です。

 しかし、詳細が書かれた文献を探そうにも、なにぶん資料の数が膨大でして。

 進み具合が悪いのです。

 そこで、エラトス殿下と、ミキコさまにもお手伝い頂きたいと思います」

 実季子は、膝に置いていた手をぎゅっと握ると、コクコクと何度も頭を振る。

 エラトスも、長い足を組んで気怠そうにソファにもたれていたが、敬愛する兄の為なのだ。

 断るはずもなかった。

「では、エラトス殿下は、サクサク仕事を終えていただき、ディナーの後の時間に。

 ミキコさまは、現在組んでいるスケジュールを組み直しましたので、空き時間にお願いします。

 情報の擦り合わせが必要ですので、日に一度顔を合わせて情報共有をするように致しましょう。

 全員の時間が合いやすい朝食の時間ではどうでしょうか?」

「そうだな。皆の朝食の時間を合わせるよう取り計らってくれ」

 アルカスが同意したのを合図に、解散となった。

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