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森の匂い 〜月の乙女の謎と、逆魔術の呪い〜  作者: 静寂
第6章 月の乙女
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月の乙女とは?1

 目が覚めると、窓の外では鳥がうるさく囀っていた。

 ほんの少し開いているカーテンの隙間から、差し込んでいる陽の光が、強い。

 一体何時なんだろう?暑くて汗を掻いていた。


 こんな時に、シャワーがザアッと浴びれたら良いのになぁ

 今度、クレオンに言ってみようかなぁ……


 昨日、アルカスに助けられた後、この部屋で話をして、今までモヤモヤしていた気持ちがスッキリした。

 それで、寝坊してしまったんだろうか。

 ベッドに座ってボンヤリしていると、扉が控えめにノックされる。

「ミキコさま?起きていらっしゃいますか?」

 扉の外から聞こえるのはソフィアの声だ。

「はい、起きました」

 実季子が答えると、ソフィアが入ってきて、閉められていたカーテンを開けた。

 ついでに窓も開けてくれたので、風が入ってきて心地良い。

「暑う御座いましたね。汗をおかきでしょう?湯浴みをなさいますか?」

 そう聞かれて、魅力を感じたが、わざわざその為に準備をして貰うのは申し訳ない。

「いいえ、大丈夫。ちょっと、汗ばんだくらいだから」

「では、リネンを濡らして参りましょう。

 お着替えの前に、汗を拭きましょうね。スッキリしますからね」


 汗を拭いて着替えると、食事の準備をしてくれる。

 もう、昼前だという。

「陛下に、ミキコさまはお疲れだろうから、起こさないようにと言われておりましたの。

 建国祭までお忙しゅうございましたものね」

 ソフィアは、テキパキと実季子の着替えを手伝いながら、話しかけた。

「マダム・マリナの新しいドレスですよ。どうですか?」

 アルカスは、マリナに建国祭のドレスだけでなく、普段着のドレスも注文したようで、実季子のクローゼットには、ドレスがパンパンになるほど届いていた。

 その中で、ゆったりして寛ぎやすそうなラインのドレスをソフィアは選んでくれた。

 蜂蜜色の地布に、艶やかなグリーンで花や鳥の模様を染めた更紗生地を使ったドレスだ。

 袖はゆったりとドレープがかかるように腕を覆い、スカート部分は、内に蜂蜜色の生地で足先が出る丈のアンダースカートの上に、更紗生地でオーバースカートを被せ、オーバースカートは、幾つものスリットが入っていて、下のアンダースカートの蜂蜜色が覗いている。

 歩くときも、アンダースカートの丈が短いので歩きやすいが、オーバースカートのお陰でスカート丈が長く見える。考えられたデザインだ。

 マダム・マリナは、裳裾を捌くのが大変だと言った実季子の言葉をデザインに反映したのだろう。


 食事を取り終わると、アルカスの使いが来て、執務室に呼ばれる。

 アピテを伴って執務室まで行くと、扉の前の衛兵がアピテに敬礼する。

 扉をノックすると、中からシメオンが出てきた。

「ミキコさま、どうぞお入りください」


 少し開いている隙間から中を覗き込んでみる。

 窓から差し込む陽光に、アルカスの銀の髪がキラキラと眩しく輝いている。

 実季子が来たのを認めると、彼は、うっすら微笑んだ。

「ミキコ、起きたか?もう、昼食は取ったのか?」

「はい、陛下。ずいぶんと……」

 アルカスが眉を八の時にして目を眇めて実季子をみた。

 なんだか、咎めるような視線を感じる。

「えっと……、ずいぶんと寝坊してしまってごめんなさい。アルカス」

 そう、言い直すと満足げにゆっくりと頷いた。

 今までの癖でつい陛下と呼んでしまったけど、言い直して良かった。嬉しそう。

 実季子は、自分も嬉しくなってふんわりとアルカスに向かって微笑む。


 そんな二人を無視して、シメオンは、さっさとお茶の用意をすると、実季子にソファに座るように促す。

 アピテは、扉の前で控えるという。

「おい、ミキコ。

 俺のことも、殿下じゃなくて、エラトスと呼べよ」

 先にソファにふんぞり返るように座っていたエラトスが実季子に向かって言い放つ。

 ブリーチズに、シャツを着ただけという砕けた格好で、赤い髪には寝癖がついている。

 部屋でゴロゴロしていたところを呼び出されたのだろう。


 居たのに気づかなかった……


 そう、心の中で呟きながら、実季子は、エラトスに向き合った。

「殿下のことを?呼び捨てに?身の程を弁えなくても良いので?」

 実季子がチクリと嫌味を言うと、エラトスは、嫌そうに眉を寄せた。

「悪かったよ。兄上のことを、名前で呼ぶのに俺のことは、殿下呼びとかオカシイだろう?」

 ふて腐れたように唇を尖らせて、ブツブツ文句を言うエラトスに実季子は頷いた。

「分かったわ。エラトス」


 ソファに腰掛けた実季子の前にティーカップを置きながら、シメオンが微笑む。

「では、ミキコさま、私のこともシメオンと」

 実季子も微笑み返しながら、コクリと頷く。


「さて、月の乙女の件で皆に集まって貰ったが、先ずはミキコに狂狼化のことについて話さねばと思う」

 アルカスが説明を始めたので、実季子は居住まいを正した。

「以前に、皇家の血縁者には更に強い能力を持つ者が出てくる事があると言う話をしたのを覚えているか?」

「最初に、このメンバーで話したときだよね?

 強い力を持つ代わりに、副作用的な症状が出る場合もあるって」

 アルカスは、その言葉に頷く。

「我がペラスギアの血筋には、何百年かに一度狂狼となるものが現れると言われている。

 それが、以前に話した強い力だ。

 狂狼となると、血を求め、目の前のありとあらゆる者を敵と認識し、全ての命を奪うまで暴れ続ける。

 狂狼化が解けない場合、その強い力により暴れ続け、周りに甚大な被害をもたらし、最後には自分の力によって死に至ると伝わっている。

 これが、副作用だ。

 そして、私は、先の戦で狂狼化しそうになってしまった」

 アルカスの説明を聞きながら、


 人狼って、力が大きいだけにそんなになっちゃうんだなぁ……


 なんて、思っていた実季子は、最後の一言を聞いて驚いた。

 驚きが大きすぎて、何も言えなかった。

 ただ、ジッとアルカスを見つめるだけだ。

「怖いか?ミキコ」

 静かに、アルカスに問われて、暫く考えてみたが、首を傾げる。

「良く、分からないかな。

 アルカスは、怖くは……ないよ。……だって、アルカスだもん。

 ただ、その話で行くと、アルカスは、いずれ……狂って死んじゃうって事?」

 うっすらと苦く笑うと、アルカスは頷く。

「そうなるな。

 しかし、文献によると、その昔、人狼が狂狼と化した際に、身体の何処かに三日月形のアザがあり、満月の光を浴びると青白く光る娘が現れた。

 娘は月の乙女と呼ばれ、2人は結ばれた。

 月の乙女は、その力を持って狂狼化を解き、狂狼と、その時代に生きる人狼達を幸福に導いたと言うような内容が書かれてあった。

 今世の月の乙女とは、ミキコ。そなたのことだ」


 えー!私?とか、力ってどんな力?とか、そんなことの前に、安堵した。


 そっか……月の乙女の力を使えば、アルカスは助かるんだ


 実季子は、コクリと頷きながら、以前アルカスに説明された月の乙女の条件を思い出す。

「体の何処かに三日月形のアザあり、満月の光を浴びると青白く光るって、所が私に当てはまるって以前に話してくれたよね」

「そうだ。

 それに、満月の夜にミキコが放った光の中にいると温かく感じて、疲れや溜まっていた物が消えて無くなったように感じた。

 私は、それが月の乙女の力の一つだと思っている」

 それを聞いて、実季子は前のめりになる。

「それで、私は何をすれば良いのかな?

 月の乙女の力ってどうやったら使えるんだろう?

 満月の夜にまた、湖にいけば良いかな?

 それより、アルカスは、副作用的な症状は出てるの?

 先ずは、アルカスの狂狼の力が出ないようにしないといけないよね?」

 言いながら、段々と興奮してきた実季子は、立ち上がって次々に質問する。

 シメオンが、空になった実季子のカップにお茶を注ぐ。

「ミキコさま、どうぞお座りください。

 月の乙女に関してはまだまだ、分からないことが多いのです」

 そう言われて、興奮していたのが恥ずかしくなって、ソファにストンと腰を下ろす。

「何だか、聞いたことのない情報もあるな」

 気に入らなさそうに、ブスッと言ったエラトスに、アルカスが視線を移した。

「だからこそ、お前も呼んだのだ。

 ここの所、お前はイリニの件で忙しくしていただろう?

 建国祭も控えていたし、それらが落ちついてからと思ってな。

 エラトスの力も借りねば、物事が先に進まんからな」

 そう言って、兄はエラトスに微かに笑いかけた。

 途端に、

 分かったよとか、

 兄上がそう言うんじゃ、仕方ないなとか、

 ブツブツ言いながら、まんざらでも無さそうな表情を浮かべた。

 矛先は治まったようだ。


 エラトスは、本当にアルカスの事が好きなんだなぁ


 そう思って、実季子はクスリと笑ってしまった。

ご覧いただきまして、ありがとう御座います。

やっと、月の乙女が出てきました。

これで、やっとお話が動き始めます。今後も、よろしくお付き合い下さい。

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