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森の匂い 〜月の乙女の謎と、逆魔術の呪い〜  作者: 静寂
第5章 建国祭
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事件1

 アウゲと、実季子が踊っているのを見たときはショックで頭痛がした。

 実季子は、アウゲとは身長差が少ないためか、とても綺麗に踊れている。


 なんだ!パートナーがいないから、ダンスは出来ないんじゃなかったのか!

 あのダンス講師の言ったことは嘘か!!

 

 アウゲが実季子に何か話しかけると、実季子が照れたように俯き、二人は3曲も踊った。

 ホールから離れると、アウゲの話しかけに、今度は実季子が、はしゃいだように笑う。

 そんな笑顔を自分以外にも見せるのかと思ったら、フツフツと腹の奥が泡立つように熱くなり、早足に二人の元に向かう。

 すると、アウゲが、明日土魔術を見せると誘っているのが聞こえてくる。

 人狼族は耳が良いのだ。

 大抵の会話は聞こえる。

 本当は、全部盗み聞きしたかったが、紳士的ではないと思い、控えたのだ。

 実季子も、嬉しそうに答えている。

 

 更に、アウゲと、呼びすてろだと?

 私には、ずっと陛下呼びなのに!

 

 ムシャクシャして、アウゲの元から掻っ攫うようにして実季子を強引に連れ去る。

 すると、廊下に出たところで、もう出てきても良いのか、舞踏会は終わっていないのにと、実季子に言われて、頭に血が上った。


 まだ、踊りたいのか!

 アウゲと、あんなに踊ったのに!


 とまた腹が立った。

 そして、あろう事か、部屋に行く約束までしているのかと言ってしまったのだ。

 実季子の黒い瞳がうるりと揺れるのを見て、しまったと思ったときには遅かった。


 だが実季子は、言われっぱなしで黙って引き下がるような、そこいらの貴族の娘とは違う。

 睨み付けられたと思ったら、イヤリングを投げつけられて、『大っ嫌い!』と捨て台詞を吐くと、踵を返して走り出してしまった。


 何てことを言ってしまったんだ。

 この建国祭のために、実季子はシメオンに、詰めるだけ詰め込まれて、必死で勉強していた。

 アルカスの客人として、アルカスに恥ずかしい思いをさせないようにと。

 本当ならば、元の世界に帰る道を探ることを優先させたいだろうに、帝国(くに)の機密事項が関わると言って、自分の狂狼化を隠そうとする

 -確かに、機密事項なのだが-

 アルカスの言葉を信じて、ジッと我慢して、此方の事情を優先してくれていたのに……。

 自分は、ちょっと気に入らないからと、実季子を侮辱してしまった。

 子供のような自分の言い草に開いた口が塞がらず、口に手を当てて暫く呆けていたが、実季子を放っておく訳にはいかない。

 我に返ったアルカスに、柱の向こうから、自分達の様子を窺っていたアピテの冷たい視線をヒシヒシと感じたが、それは無視して、実季子の後を追いかけた。

 廊下の途中に実季子が履いていたヒールが転がっているのを見つけて、胸がキュッと痛んだ。

 こんな高いヒールを履いていたのだって、アルカスと踊るためだ。


 こんなに、実季子は自分のために努力してくれていたのに


 情けなくなって、何だか本格的に頭が痛くなってきたところに、悲鳴が聞こえてきた。

 実季子の声だ!

 しかも、くぐもった声で″陛下、助け″と、途中で途切れた。


 アルカスは、来ていたジュストコールを脱ぎ捨てると、一瞬にして大きな狼の姿に変わった。

 青白い銀の毛並み、濃いヘーゼルから、外に向かうにつれ透き通るような輝きを放つ金の瞳。

 体高はゆうに1.5メートル近くなる。

 夜空に向かって首をのけぞると、

「アオーーーーーーゥン!!!」

 一声啼くと、悠々と城の二階から地面に向かって降り立った。

 すると、晴れ渡り満天の星と明るい月が覗いていた夜空にみるみるうちに暗雲が立ちこめ、低い雷の音が轟き始める。

 南から風が吹き始めると、直ぐさま強風に変わった。

 アルカスは、鼻をヒクリと動かすと、実季子の匂いを嗅ぎつけ、風に乗って矢のように走り始めた。


 そのアルカスの直ぐ後ろに、2匹の狼が追従する。

 赤銅色の毛並みに、グリーンからグレーのグラデーションを描く瞳の一匹と、淡いブラウンの癖のある毛並みに、グレーの瞳の一匹だ。

 エラトスと、アピテはアルカスがこうなったら止められないのは分かっていたが、何かあったときには、我が身を呈してでも、アルカスを守らなければならない。

 城の庭を突っ切り、裏門から塀を軽々と跳び越えて、暗い道を辿ると、黒い馬車が慌てたように北に向かって走っている。

 あれに違いない。

 アルカスは、追い風になるように風を操り、その風に乗って馬車に追いつくと、地を蹴って馬車の屋根にドスンと乗った。

 馬車を操っていた御者は、ヒイッと、悲鳴を上げると必死に馬にむち打った。

 いきなり激しくむち打たれて、驚いた馬たちは四方に走り始め、馬車と馬をつなぎ止めていたハーネスが外れ、1頭が逃げてしまった。

 残った1頭は必死に走っているが、パニックを起こしていて、めちゃくちゃな方向に走ろうとする。

 このままでは、馬車が横転してしまう。

 しかし、御者は更にその馬にも鞭を振るおうとした。


 アルカスが空に向かって首を持ち上げる。

「アオーーーーッ」

 細く啼くと真っ暗な空から一筋の閃光が走り、雷が一直線に御者の頭上に落ちる。

 雷に打たれた男は、そのままゆっくりと御者台に倒れた。

 エラトスとアピテは、馬に並走しながら、馬を落ち着かせ止まらせようとしている。

 アルカスは、馬車の屋根をドスン、ドスンと前足で叩き、天井をメリメリと壊して中に飛び込んだ。

 そこには、黒い袋を被せられ縄で縛られた実季子にナイフをあてて、アルカスを警戒している男がいた。

 アルカスは、間髪入れずに直ぐさま男に飛びかかり、噛みついてナイフを奪うと、咥えたナイフを、穴の空いた天井に向かって投げた。

 ドスンと音を立てて、ナイフは天井に突き刺さる。


 男は、アルカスに向かって何か呟こうとする。

「マゴ……」


 逆魔術だ!

お話を動かすきっかけが、やっと出てきました。長かったですね。

飽きられていないか、心配ですが……。ジレジレ進めたくて書いた文章なので、これからもジレジレ進みます。

 よろしくお願いします。

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