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森の匂い 〜月の乙女の謎と、逆魔術の呪い〜  作者: 静寂
第5章 建国祭
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稽古

 建国祭まで、あと7日になった。

 ラキア、ウピロス、アッティーハー、ペロポソの4大公家の大公達が王都タブラに集い、年に一度の協議会が開催される。

 アルカスも、シメオンも、エラトスも、協議資料をまとめ上げ、円滑に進めるためのスケジュールを調整ししている。

 また国の要人が一堂に会するため、警備体制を整えるなければならない。

 城の近衛兵を始め、城下の治安維持のために働いている兵士も多忙を極めている。


 それでも、アルカスと城下に出掛けてから2日目の朝には、アルカス自身が剣術の手合わせに付き合ってくれた。

 何本か、木で出来た剣も用意してくれる。

「この中から、自分が一番しっくり来るの物を選ぶと良い」

 トレーニング用の木製の剣は、軍の新兵などが剣術の手合わせに使うそうだ。

 実季子は、体が小さいのでアルカス自身が探して持ってきてくれたらしい。

 長さも重さも一番馴染む物を選ぶと、自らも同じ木製の剣を持ったアルカスに、

「何処からでも、好きなタイミングで打ち込んできて良いぞ」

と言われた。


 久しぶりなので、剣を握り何度か振ってみた実季子は、両手で構えると、スパーンとアルカスに打ち込んだ。

 カンカンと木剣同士が打ち合う音が響き合う。

 城の裏のアルカスが個人的に剣を振るうための訓練場で手合わせをしているが、こじんまりとした場所で、周りは建物や塀に囲まれているので、音が響く。

 朝の爽快な風がアルカスの銀の髪を吹き上げて、キラキラと輝く糸のようにフワリと肩に落ちる。実季子のフワフワのくせ毛は後ろにキュッと一つにまとめているが、実季子が動く度に後頭部でポンポン跳ねている。


 自分以上の護衛はいないと宣うだけあって、何処からどう打ち込もうが、全ていなされる。

 最初は、実季子の太刀筋を見ながら、打ち込まれる剣を受けていただけだったが、次第にアルカスに打って出られるようになれば、もう防戦一方だ。

 アルカスは、実季子の様子を見ながら打ってきているようだが、実季子には余裕が無い。

 終いに手が痺れて剣が持っていられなくなり、落としてしまった。

「参りました」

 そう言うと、地面に腰をおとして座り込んだ。

 ゼーゼー言いながら、肩で息をする。

 此方に来てから、ドレスを着てせいぜいダンスをするくらいしか体を動かしていなかった実季子は、体力不足と、悔しいが、天と地ほどある実力差を感じて、ガックリとした。

「大丈夫か?」

 膝をついて覗き込んできたアルカスを見上げて、まだ整わない息を吐きながら、へらっと笑った。

「凄いね、陛下。

 私、これでも学生の頃は、大きな大会でもバンバン優勝するほどは、腕に自信があったんだけどなぁ。

 全く、ほんの一瞬も優勢に持っていけなかったわ」

「いや、剣筋は良いぞ。この私相手に、あれだけ打ち合いが出来る相手は、中々居ない。

 実季子が男なら、軍でも良いところまで行く」

 そう言うと、アルカスは、実季子の頭を軽く撫ぜた。


 アルカスは、忙しいから長い時間は付き合ってはくれないが、城下に出かけてから5度ほど剣術の手合わせに付き合ってくれた。

 変わらず、手合わせの中で一度も優勢には持っていけなかったし、アルカスにとってはお遊び程度にもならないかもしれないが、わざわざ忙しい中、時間を作って付き合ってくれるのは有難かった。

 体を動かしていれば、グチグチとどうにもならないことを考えなくてもすむ。

 家族が如何しているのか、自分のことを心配して心が塞いでいないか。

 せめて、連絡だけでも取れたら。

 どうにも出来ないだけに、余計に考え始めると止まらなくなる。

 前を向くようにと、心掛ける理想と、もう帰れない、会えないのではないかと思う不安がせめぎ合って、出口がみえずにパンクしそうになるのだ。

 きっと、そんな実季子の気持ちの一端を感じ取って、アルカスは付き合ってくれたんだと思う。

 アルカスは、実戦で幾度も経験を積んだ、この大陸でも敵う者のいない軍人だ。

 勝てるとは思わない。

 それでも一度くらい、アルカスより優位に立ちたい。

 社会人になって、現役から遠ざかっていた。

 たまに兄達と手合わせはしていたにしろ、ひしひしと体力が落ちているのを感じた実季子は、余った時間に筋トレを始めた。

 腹筋、背筋、腕立て伏せ、スクワット……。


「ミキコさま、何をなさっておいでですか?」

 朝の早い時間や、夕飯の後の時間にこっそりとやっていたのに、あっさりとソフィアに見つかってしまった。

「えーっと、筋力をつけようと思って」

 叱られそうだなぁと、小さな声で答えた実季子に、ソフィアは思わなかったような返答を返してきた。

「分かりました。講師をつけましょう。

 ですから、ご自分でやるのはおやめください。下手に筋肉をつけると、ドレスが着られなくなります」

 ソフィアから、シメオンに話がいき、翌日には実季子の専属トレーナーがやって来た。

 外側の筋肉をつけて、ムキムキになってもらっては困るとソフィアに言われたトレーナーは、

『先ずは体の中心の筋肉、インナーマッスルから鍛えます』

と、メニューを作ってくれた。

 アルカスが時間が取れないときは、専属護衛のアピテが相手をしてくれるか、軍の新兵達が朝の打ち込み稽古をするときに、混ざらせて貰っている。

 と言っても、皆、体格差があるので、最初は受ける剣が重かった。

 まともに打ち合うと、腕を痛める恐れがあるので、如何に素早く動いて相手の急所を狙うかにかかっている。

 そんな実季子の戦術は、剣の稽古と言うよりは、体を機敏に動かす稽古になってしまっていた。

 それでも、専属トレーナーの筋トレメニューを日々こなしているうちに、かなり体幹がついてきた。

 体がぶれなくなったので、まともに剣を受けても上手く受け流しながら、打ち合いが続くようになってきたのだ。

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